「台湾の声」にも反響が届いたそうで、昨日、その声の一部を紹介するとともに、多田氏自身が「2020年東京五輪『台湾正名』推進協議会のスローガンを問題視するように受け取られる恐れがあるという声」もあったことで、「このような問題があるということを再度提起するのが私の執筆目的」だとして、追記を書かれています。下記にご紹介します。
編集子も以前から、台北を日本語で呼ぶ場合、「たいほく」ではなく「タイペイ」と読むことに違和感を抱いていた一人。多田氏は、10月10日発行の「台湾の声」で「『台北』は『台東区(たいとうく)』の『台』と『北陸(ほくりく)』の『北』から成るのだから『たいほく』と読むのが日本語の漢字音として妥当な範囲」と説明しています。
編集子の場合は、台湾の地名の日本語による読み方は、日本統治時代の読み方に準拠すべきだろうと考えていて、吉田東伍著『大日本地名辞書』(冨山房、明治42年刊)や安倍明義著『台湾地名研究』(蕃語研究会発行、青木書店発売、昭和13年刊)を参照しています。もちろん両書とも、台北は「たいほく」です。
それにしても、どうにかならないかと思っているのは日月潭の読み。多くが「にちげつたん」と読んでいます。しかし、両書ともこれは「じつげつたん」です。基隆にしても「きーるん」ならまだしも、堂々と「きりゅう」と読んではばからない人もいて、はてさてどうしたもんだろうと思っています。これは両書とも「きいるん」です。
言葉は生き物ですから、読み方や意味が変わっていくのは致し方ありません。例えば「ぜんぜん」は下に否定の言葉が続くときに使われますが、近年は賛意を強調するように「ぜんぜんOK」などと使われます。
ただし、地名のケースはどうもこれとは違うように思えるのです。台湾の地名の日本語での読み方なのですから、日本統治時代にしか準拠すべき読み方はないのですから、当時使われていた読み方で呼ぶべきではないかと思っています。その点で、片倉佳史氏の著書は、日本統治時代の地名の読み方を使っていますので、とても参考になります。
—————————————————————————————–【台湾の声“「台北」の読み方を知っていますか”への反響と追記:2017年10月11日】
10月10日の記事“【振り仮名に潜む洗脳工作】「台北」の読み方を知っていますか”を出してから、反響がいくつかありました。その中に、2020年東京五輪「台湾正名」推進協議会の“「チャイニーズタイペイ」ではなく「台湾」の名で台湾選手団を迎えよう!”等のスローガンを問題視するように受け取られる恐れがあるという声をいただきましたので、説明させていただきます。
私は同協議会のスローガンについて100%賛成で、同じ立場です。日差しの強い中での街頭活動にも頭が下がるばかりです。
「チャイニーズ・タイペイ」と「タイペイ」という振り仮名はいずれも、中国側に立つ勢力によって強制されたものです。これを正名しようという志について同協議会の立場と私の立場に違いはありません。
「チャイニーズ・タイペイ」を「台湾」にせよと求めることと、地名に対する振り仮名である「タイペイ」を「たいほく」なりにせよと求めることは、近いことだと考えています。
記事中で指摘したケースは、同協議会の活動に共鳴した台湾の団体が、台湾のどこどこで署名活動を行ったというメッセージの代読の際に起きたものです。台北と高雄が地名として出たのですが、高雄のほうは問題なく「たかお」とお読みでした。
代読した方は私の知り合いであり、その方が日ごろ、台湾をサポートする姿勢は尊敬申し上げています。突然、代読を指名されたようでしたから、準備もなかったかもしれません。緊張されていて、そこまで手が回らなかっただけかもしれません。
実は、地名「台北」の読み方の問題は、台湾研究フォーラムの永山英樹会長も平成23年6月19日のブログ記事で“台北は「タイペイ」ではなく「たいほく」と呼ぼう”と呼びかけています。
私は、永山氏の“日本人はすっかり「タイペイ」だのと刷り込まれてしまっているが、もし「台湾は中国の一部ではない。台湾は台湾人の国だ」との信念を確立すれば、そんな呼び方はやめたくなるはずである”という主張に全く賛同するものです。
私もこれまでに呼びかけたことがあります。しかし、人が話しているときに、いちいち注意するということまではしていません。たまに話して、理解してくれる人に伝わればいいと考えています。
街頭宣伝で、台湾に詳しくない人に「チャイニーズタイペイ」正名を訴えかける際に、「たいほく」だと伝わりにくいと考えて、あえて「タイペイ」と呼ぶという優先順序の判断もあるかもしれません。それでも、自分が言葉を選べる場面では、自らの信念に合った言葉で語っていただきたいと思います。
日本人どころか独立派を自称する若い台湾人までもが日本語で話をする際に「タイペイ」と読んでいるのを耳にすると複雑な気持ちになります。日本人がタイペイと読んでいるから、彼らもそう言う。彼らがそういえば日本人もそう呼ぶ、という循環があります。いろいろな読み方を許容する日本語ならではの問題だと思われます。
なぜこの問題が長引くのか。記事に挙げた「優越感」以外の理由を考えると、日本の多くの方にとって、台湾の複雑な言語問題・アイデンティティーの実相まではなかなか実感できないからなのかもしれません。またNHK以外の民放がほぼすべて「タイペイ」と呼んでいるという大勢に異論をさしはさむということはなかなかできないことなのかもしれません。台湾の方でも、そこまで考えて行動に移している人がまだまだ多くないというのも原因の一つかもしれません。
それでも、このような問題があるということを再度提起するのが私の執筆目的です。2020年東京五輪「台湾正名」推進協議会の集会の中での出来事を引用したのは、ただ、皆さんにもう一度考えていただくためのわかりやすい例として挙げたものです。団体なり個人なりを批判するという意図は毛頭ありません。
社会をリードする運動に関わっている皆様、実際に社会をリードする立場にある皆さんに、台湾の言語と社会を観察してきた私の意図を汲み取っていただければ幸いです。
関連記事:【振り仮名に潜む洗脳工作】「台北」の読み方を知っていますかhttp://taiwannokoe.com/ml/lists/lt.php?tid=u/sb3lmtfIGR2XC7RR0Cr2j5DgAAywVOsM6bval9SV2psPjnoxkY+5OKP7BY/Ot2