中国の洗脳工作と台湾のリムパック参加  林 彦宏(国防安全研究院准研究員)

中国の洗脳工作と台湾のリムパック参加  林 彦宏(国防安全研究院准研究員)

 世界日報紙が本年1月4日から「『台湾有事』のシナリオ─日米台識者に聞く」という興味深いインタビュー記事を連載している。「台湾有事」というテーマにもかかわらず、なぜか日本のメディアは台湾の識者をほとんど取り上げない。

 そこで、世界日報紙が新台湾国策シンクタンク主任研究員の李明峻氏と国防安全研究院准研究員の林彦宏氏を取り上げていたことから、昨日の本誌ではまず李明峻氏へのインタビューを紹介した。本日は林彦宏氏へのインタビューをご紹介したい。

林彦宏(りん・げんこう)1977年(昭和52年)、台湾生まれ。淡江大学大学院日本研究科修了。2005年より早稲田大学政治経済学研究科に交換留学。2012年、早稲田大学公共経営研究科博士課程修了。2014年から16年まで岡山大学グローバル・パートナーズ(旧国際センター)職員兼講師をつとめた後、台湾の中正大学戦略及国際事務研究所准教授。専門は国際関係、東北アジアの国際関係、公共政策。法学博士。主な日本語の論文に「『集団的自衛権』に関する国家における質疑と応答」「安全保障に関する日本国憲法上の自衛権の権限の限界」「東アジアの安全保障をめぐる日台関係の研究」「戦後日華・日台関係─安全保障をめぐる政策論の視点から」「東アジアの安全保障をめぐる日台関係について」など。台湾安保協会秘書長、国防部傘下のシンクタンク国防安全研究院准研究員。日本李登輝学校台湾研修団では何度も講師を務める。

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「台湾有事」のシナリオ─日米台識者に聞く(10)進む中国の「洗脳」工作  台湾国防安全研究院准研究員 林彦宏氏(上)【世界日報:2022年1月13日】https://www.worldtimes.co.jp/opnion/interview/145240.html

 ── 中国による台湾侵攻の可能性をどう見る。

 中国人民解放軍には約200万人の兵力があり、中部、東部、西部、南部、北部の五つの戦区に分かれている。各戦区に約40万人いるといっても、台湾海峡を渡って侵攻するには、おそらく100万人の兵力が必要になる。

 このため、中国にとって、台湾侵攻は軍事的問題だけでなく、政治的判断が大きい。習近平国家主席は政権を失ってもいいというくらいの覚悟がないと実行できない。習氏にその覚悟が本当にあるかどうかは分からないが、シナリオとしては考えておかなければならない。

 一つの軍隊が戦争を行うには2〜3カ月くらいの準備が必要になる。米国は衛星など先端技術を使いながら、中国人民解放軍の動きを常に監視している。従って、中国が台湾にいつ攻め込んでくるかは、米国から台湾や日本に情報が来るだろう。

 米国にとって、台湾を含む第1列島線はレッドライン(譲れない一線)だ。台湾を中国に取られたら、米国の軍事力は20〜30年後退する可能性が高い。

 ── 着上陸侵攻以外に考えられるシナリオは。

 人民解放軍は小型ドローン(無人機・UAV)を活用する可能性が高い。低空飛行するドローンはレーダーで探知されにくく、探知されても判別が難しい。中国は戦力を温存するために、戦争開始前にコストの安いドローンを大量に投入して、台湾にスウォーム(大群)攻撃を加える。その上で、ミサイルで台湾を全面攻撃してくる。

 ただ、中国がすぐに全面的な軍事行動に踏み切ると想定することに大きな疑問がある。台湾に対しては軍事的威圧だけでは不十分であり、兵器というハード面だけでなく、サイバー攻撃やメディア工作、フェイクニュースの流布といったソフト面を交えた「ハイブリッド戦争」を仕掛けている。

 中国共産党中央統一戦線工作部は、自分たちの思想を台湾に植え付ける統一工作を着々と進めている。北京や上海がいかに国際都市として発展しているかをアピールするなど、自分たちの良い部分を宣伝して台湾社会を混乱させている。

 台湾と中国は言語が同じであるため、台湾人の考え方に影響を及ぼしやすい。米国や日本は中国と文化や言語が異なるため、中国がどんなに説得を試みても変わらない独自のアイデンティティーを持っている。だが、台湾にはそれがない。中国の工作活動に徐々に洗脳されているのが、今の台湾の現状だ。

 ── 中国は具体的にどのような工作活動を行っているのか。

 両岸(中台)関係が開放されてから30年くらいが経過した現在、台湾に嫁いできた中国人女性は30万人以上に上る。彼女たちは社会に馴染(なじ)んでいるため、見た目では違いが分からない。だが、台湾の社会秩序を混乱させようとする中国共産党の工作員が紛れ込んでいる可能性が高い。

 また、台湾で最も信仰されている宗教は道教だが、道教は実在した人物を神として祀(まつ)っている。例えば、台湾各地に廟(びょう)がある海の女神「媽祖」は、中国・アモイ出身と言われている。アモイを訪れたくてもお金がないという台湾の信者に中国が資金を提供するなど、宗教・文化交流の形でも浸透を図っている。

 つい最近も、蔡英文総統の側近がさまざまなスパイ活動に関わっていることが発覚した。中国はあらゆる分野から工作活動を行っている。一番ひどいのがメディアだ。中国寄りのメディアは、民進党のやっていることにすべて反対している。多くの人はこうした報道やフェイクニュースを鵜呑(うの)みにしてしまう。

(聞き手=編集委員・早川俊行)

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「台湾有事」のシナリオ─日米台識者に聞く(11)リムパック参加に期待  台湾国防安全研究院准研究員 林彦宏氏(下)【世界日報:2022年1月14日】https://www.worldtimes.co.jp/opnion/interview/145367.html

 ── 中国が軍事侵攻してきた時の防衛戦略は。

 中国をゾウに例えるなら、台湾はアリだ。だが、アリは小さくても、たくさんいればゾウの足に痛みを与えることは可能だ。台湾軍は陸海空合わせて20万人前後と少ないため、できるだけ機動性の高い部隊をつくって中間線を守りたい。絶対に攻めて来られないようにさまざまなシナリオを考えている。

 しかし、台湾がいくら最先端の兵器を持っても勝つことはできない。友人を呼ぶ必要がある。最大の友人は米国だ。だが、米国だけでは足りない。そこで重要になるのが日本だ。

 台湾海峡危機は台湾だけの問題ではない。周辺各国に関わる問題であり、一緒にこの地域の平和と安全を守るために責任を分担していく必要がある。

 ── 安倍晋三元首相が「台湾有事は日本有事」だと主張したが。  台湾有事が日本有事であることは、地政学的に誰の目からも明らかだ。台湾は与那国島から110キロしか離れていない。

 安倍氏の発言には二つの意図があると思う。一つは台湾の危機は日本の危機であることを日本国民に知らせること。もう一つは、岸田文雄首相と林芳正外相にあまり中国に接近するなという牽制(けんせい)ではないかと私は見ている。

 日本もはっきり立場を表明しないといけない時期に来ている。日本にとって、これまで一番大きな脅威は北朝鮮だった。それが今は中国に変わった。中国海警局の船は毎日のように尖閣諸島周辺にやって来ている。日本は政策を変えなければならないが、そのためには政治家の発言も変わらなければならない。

 ── 台湾が日本に期待することは。

 台湾で昨年行われた世論調査では、約6割が「日本は台湾有事に自衛隊を派遣するだろう」と回答した。だが、実際には自衛隊の出動には極めて高いハードルがある。安倍政権時代の2015年にさまざまな条件を付けて集団的自衛権の行使が可能になったが、日本はおそらく憲法改正を行わない限り、米軍の後方支援しかできないだろう。

 一方、米国は、ハワイ周辺で行われる多国間海上訓練「環太平洋合同演習(リムパック)」に台湾を招待することを米政府に求める文言が盛り込まれた国防権限法を成立させた。これは極めて大きい。実際に米国から招待されれば、どんな形であれ、日米など他の国々の海軍と交流できる。

 戦争はテレビゲームではない。有事に各国が協力するには、訓練が必要だ。台湾軍はリムパックに招待されるために全力で準備をするだろう。

 また、日台防衛当局の連絡体制を構築することが必要だ。最初から軍事レベルに持っていくのは大変であり、海上保安庁と台湾の海巡署の協力から始めてはどうか。米台は昨年、沿岸警備隊と海巡署が協力を強化する覚書に調印しており、日本もできるはずだ。

 6年以内に中国が台湾に攻めてくるとの予想もあるだけに、この間に周辺各国の政治家が知恵を絞らなければ、地域の平和と安全は守れない。

 ── 日本版「台湾関係法」の制定が期待される。

 私たちも日本版台湾関係法の成立を期待している。ただ、日本には親中派議員が多くいるので、ハードルは高い。

 一方、自民党では昨年、外交部会の下に「台湾政策検討プロジェクトチーム」が設置された。外務省にも台湾問題を扱う企画官ポストがアジア大洋州局中国・モンゴル第1課に新設されることが決まった。台湾関係法が制定される前でも、政治家の働き掛けで各省庁に台湾関係のポストができれば、重要な政策を推し進めることができる。

(聞き手=編集委員・早川俊行)

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