外交評論家・加瀬英明氏の逝去  ペマ・ギャルポ(拓殖大学国際日本文化研究所客員教授)

【世界日報「View point」:2022年12月19日】https://vpoint.jp/opnion/viewpoint/222382.html

 2022年、多くの偉人がこの世から旅立った。その中で私にとって、また日本にとって大きな損失であったのは加瀬英明先生が11月15日に逝去されたことである。

 日本人がよく使う国際人という言葉に最も相応(ふさわ)しい人物はまさに加瀬先生であった。先生は、米国を中心に世界各国の要人ならびに国際社会に影響を及ぼすオピニオンリーダーたちと幅広い親交を持っておられた。

◆誇りと自覚持つ愛国者

 私が先生に初めてお目にかかったのは大学を卒業する直前であった。紹介してくださったのは私の恩師の倉前盛通先生である。以来、ご逝去なさるまで、ほぼ半世紀にわたってご指導をいただき、私からのお願い事を先生が断られたことは一度もなかった。外交評論家として常に第一線で活躍されていた先生はどんなに忙しくても私たちが企画する大小あらゆるイベントに出席し、挨拶(あいさつ)をしてくださった。

 今でも申し訳ないと思っていることが一つある。あるとき、私が企画した勉強会の日時を誤ってお伝えして、先生がいらした時には会場が空っぽだったことがある。この時だけは先生も私に「私たちは時間単位で仕事をしているのだからそれを大切にしなければならない」と諭してくださった。だが、その後も無償で私たちを励ましてくださった。

 先生は、日本人・愛国者としての誇りと自覚を強く持っておられ、世間ではややもすればタブー視されるような問題にも誠心誠意取り組んでおられた。例えば、歴史問題、偏向教科書の問題、偏向メディアの問題、拉致問題、安全保障に関わるさまざまな問題、憲法の問題、事実に反する南京事件や慰安婦問題などを糺(ただ)すための運動でも先頭に立たれていた。また、人道主義者、国際人として、国境を越えて人権問題、例えば、チベット問題に対しても親身になってご指導いただき、また自らもその問題についてさまざまなメディア媒体を通じて発信してくださった。

 先生は、中曽根内閣ならびに福田内閣の外交顧問という要職にありながらも強い正義感に基づいてチベット問題に関わり、俳優のリチャード・ギア氏が会長、私の兄が理事長を務めていた米国のNGO「International Campaign for Tibet(ICT)」における国際顧問の一人でもあった。この団体は、主として、チベット問題に関して米国議会にロビー活動を行い数々の議会決議を実現している。また、ヨーロッパにも支部を置き、チベット問題の国際的な認知度を高めることに貢献している。

 先生は独特の存在感があり、とにかく常に新しいことを発想し、発想に基づいて次から次へと行動した。凡人の言葉で言えば有言実行の方であった。その一つが「東京から世界へ発信するアジアの自由民主主義」というテーマに基づく大会を組織し、初代会長を自ら務めてくださったことだ。

 2年目以降、「アジアの問題はアジア人が主体性を持ってやるべきだ」とおっしゃって、私に会長を務めるように命じられた。おかげさまで先生のご指導の下、今日、「アジア自由民主連帯協議会」は社団法人として15回目の大会を議員会館で執り行った。同大会には、独裁政権の下で苦しむ約10の民族が集まった。先生にお目にかかったのは、この大会に関する準備状況をご報告したのが最後だった。

 9月25日、大会当日になって先生から「体調が優れないため欠席する」というお知らせを受けた。後に奥様から伺ったところ、大会当日、先生は一生懸命にメッセージを書こうとなさっていたそうだ。しかし、その後、故安倍晋三首相の国葬があり、私が関係する外国からの来賓への応対などでお見舞いにも行けないまま先生が旅立たれたことを今でも悔しく思っている。

◆共産主義を正確に認識

 先生は、この国のことを常に心配しておられ、また共産主義の脅威に対して正確な危機感を抱いておられた。私に石原慎太郎先生、中川一郎先生、平沼赳夫先生など国家観に優れた政治家の方々をご紹介くださったのも先生だ。日本は大きな導灯を失い、私も大きなよりどころを失った。

 感謝と共に心からのご冥福をお祈りいたします。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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