――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習86)
1970年4月5日から7日まで、周恩来ら中国代表団が北朝鮮を訪問した。金日成は一行を「狗肉宴」で歓待しているが、テーブルにどのような犬肉料理が並べられたのか。それにしても犬肉が取り持つとは。やはり「中朝両国の血で結ばれた友誼」は味わい深い。
平壌での「狗肉宴」から20日ほどが過ぎた4月24日、毛沢東の「我々も人工衛星をブチあげろ」との年来のハッパに応えるべく、人工衛星第1号の打ち上げに成功している。かくて地球を周回する人工衛星から、「東方紅、太陽昇、中国出了個毛沢東(東の空が真っ赤に染まり、太陽が昇る、中国に毛沢東が躍り出た)」の毛沢東賛歌が流れ出す。中国全土が狂喜乱舞したことは言うまでもない。
『人造地球衛星 RENZAO DIQIUWEIXING』(中国科学院上海天文台編 上海市出版革命委員会)は人工衛星に関する基本知識――「宇宙とは」「人工衛星はどうして宇宙に飛び出せるのか」「人工衛星の科学的価値」「人工衛星に関する諸問題」――をイラスト入りで分かり易く解説している。政治的メッセージは極めて希薄であり、抵抗なく冷静な筆致で書かれているから、それだけに科学読み物として大いに参考になる。
だが最後になって「西側ブルジョワ階級が達成可能なことは、東側のプロレタリア階級は必ず達成できる。西側ブルジョワ階級に出来ないことでも、東側プロレタリ階級は必ずやり遂げられる。中国人民が示す勝利の前進は、いかなる反動勢力も阻止することは出来ない!」との昂揚した政治的メッセージが飛び出す。
この種の大仰な“煽り”は文革という特殊過ぎる政治環境なればこそではあるが、人工衛星打ち上げ成功は政治的熱狂の裏側で先端科学技術習得に努めていたことを示してはいる。その取得にどのような手段が弄されようともではある・・・が。
ここで参考までに、中国人以外の文革礼賛派の主張を振り返っておきたい。
当時、日本で毛沢東思想・文革を礼賛した勢力の代表格である新島淳良は、「一九六四年一月から一九六九年九月までに毛主席がおこなった指示、談話、および毛主席が起草した重要な決定・通知を発表の年代順に収録し」、『毛沢東最高指示』(新島淳良編 三一書房)を出版した。新島は、編集に当たっての基本姿勢を熱っぽく綴った。
――「毛主席は、中国人民の心の中の赤い太陽であるばかりでなく、全世界人民の心の中の赤い太陽だと、中国の友人たちは言う。それならば、その太陽を雲でおおうのはどうしてなのか。中国の友人たちよ、あなたがたのその態度は、大切な宝物を私有して人に見せない金持ちの態度に似てはいないか。あるいはまた、見せるのならいいところだけをみせようとする、国営観光業者の態度に似てはいないか」と「中国の友人たち」に疑問を投げ掛けている。
さらに「公表未公表を問わず毛主席の著作は、人民にとっては『問題をもって学び、活学活用し、学ぶことと用いることを結合し、さしあたって必要なことから学び、すぐ効果のあらわれるように学び、“用いる”という点に全力を傾注する』(林彪『毛主席語録』再版のまえがき)という態度で学習される」と、林彪まで持ち出す――
なにやら毛沢東熱にうなされた新島の“心の高ぶり”が伝わってくるようにも思える。精神が昂揚したままに、「この日本語版のささやかな『最高指示』が、英語・フランス語・スペイン語等に訳され、世界中の人民に伝わることを望む」とし、「毛主席の指示は、プロレタリア文化大革命を媒介とし、たんに一国の最高指示にとどまらず、世界のたたかう人民の最高指示になりつつある」と、口を極めて「毛主席の指示」を称えていた。
なぜ新島はかくも熱狂したのか。それは不明だ。だが彼のような存在を単に日本の中国研究における道化師として嘲り、退け、葬り去ればいいと言うものではないだろう。《QED》