――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習22)

【知道中国 2356回】                       二二・四・仲九

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習22)

父親が息子のために作ってやったのは、20万個の半導体を組み込んだ帽子型「電脳」である。

翌朝、電脳帽子を被って颯爽と学校へ。どんな難しい問題も電脳の働きで素早く正解してしまうが、地理の問題や友達のトンチには答えられない。そこで父親は、電脳の機能を飛躍的に高めようと半導体の数を脳細胞の数と同じ140億個に増やそうとする。だが、そうなると電脳帽子が大きくなりすぎて被れない。そこで「電脳の主人になっても、決して奴隷にはなるな」と考え、断固として電脳帽子を捨て去るのであった。

 彼は父親制作の電脳帽子を熱心に研究し、「自分で考え、大脳を鍛錬し」、「演算、資料保存、翻訳、機械管理のできる電脳」の発明を目指す。この物語は最後に「没頭脳クンの大脳の構造は、古今の偉大な政治家、思想家、文学者、科学者、発明家のそれと大差なく、大脳を鍛錬するかしないかが違うだけです」と教える。

この物語の教えに従うなら、どうやら中国人は毛沢東時代には毛沢東思想の、次の鄧小平時代には「向銭看(カネ儲け第一)」の、そして習近平の現在は「中華民族の偉大な復興」に「中国の夢」の、それぞれの時代に応じた電脳帽子を被せられたままでは・・・。

それにしても「自分で考え、大脳を鍛錬し」と記している点から考え、『割掉鼻子的大象』は『火牛陣』(2354回)と同じように、政治的空白期あるいは政治闘争のエアー・ポケットに出版された“軌跡の1冊”と言えるのではなかろうか。

『大林和小林』は、1930年代にモダニズム作家として出発し、後に共産党に傾斜していった小説家の張天翼(1906~85年)が建国前に記した児童文学『大林和小林』の中国少年児童出版社の再版である。文体や頁数からすれば読者を10代前半に設定して書かれたようだが、硬直した「金持ち=悪玉」の思想で貫かれている辺りが時代を感じさせる。

年老いた貧しい農民夫婦は念願叶ってやっと子どもを授かった。しかも男の双子である。小躍りした夫婦は青々と茂る林に因んで兄を大林、弟を小林と名づける。貧しくも心温まる家庭ですくすくと育つが、10年ほどが過ぎると両親は亡くなってしまう。

「家にはなにもない。働きに出るんだよ」との父親の遺言に従って、兄弟はボロの衣服、粗末な茶碗など僅かに遺された身の回りの品を袋に詰めて、家を後にした。

 当てもない旅路。哀しさとひもじさにメソメソと泣くばかりの弟に向かって、「いまにみていろ。カネ持ちになってみせるぞ。カネさえあれば、食べるも着るも思うがまま。そのうえ汗水流す必要なし」。すると弟は「貧乏だった父ちゃんは、『生真面目に働け。田畑がありさえすれば、それに越したことはねェ』って言ってたじゃないか」と反対する。だが、兄は大声で「貧乏なんてクソ面白くねェ。貧乏人なんて真っ平ゴメンだ」 

 その時、黒い小山のような化け物が現れ「お前らを喰べちゃうぞ」。驚いた兄弟は別々の方向に逃げ出す。かくて2人は互いを見失ってしまい、別々の人生を歩くこととなる。

 弟は犬と狐に騙され、ある工場に売り飛ばされ、過酷な労働の日々が続くが、仲間と立ち上がって工場主を打ち倒し、奴隷の生活を強いられていた労働者を解放し、工場を逃げ出す。やがて親切な鉄道労働者に助けられ、機関士修行に励むのであった。

一方の兄は詐欺師の狸と知り合い、子どもを欲しがっていた国イチバンの大金持ちを騙し息子として転がり込んだ。

かくて念願が叶って贅沢三昧。そのうえに甘やかされ放題だから、当然のように我が侭のかぎり。身の回りの世話をする使用人は200人もいるが、誰も逆らわない。「1+1=7」と答えようが「大正解!」。なにも言わずとも、考えずとも、使用人が全部やってくれる。だから自分のすることといえば食べて太って、また食べる――これだけだった。《QED》


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