――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習153)
『第二国際』:「第一国際(第1インター/1864~76年)」の後を受けて1889年に成立した「第二国際(第2インター/~94年)の崩壊を、「マルクス主義に基づく世界の労働者運動の高まりの中でさらなる発展を遂げたにも拘わらず、合法的な議会路線に引き寄せられる日和見主義が各国の党組織内に蔓延り始めた点」に求め、「第2インターの歴史的経験は、反帝国主義は必ずや反修正主義でなければならない点に帰結する」と結論づけた。
このような視点から、「現在、マルクス主義、レーニン主義、毛沢東思想の導きの下、世界のプロレタリア革命は絶え間なく勝利を続け、アメリカ帝国主義・ソ連修正主義に反対する広範な統一戦線が形成されつつある。帝国主義と社会帝国主義の“終末時計”はすでに最期の時を鳴らしている。国家は独立しなければならず、民族は解放されなければならず、人民は革命に決起しなければならない。帝国主義、修正主義、反動勢力の一切を徹底して埋葬するための戦闘が始まった!」と煽る。
かくて「マルクス主義、レーニン主義、毛沢東思想が全世界で勝利することを阻止することはできないのだ。共産主義の偉大な理想は、必ずや実現させなければならない!」と絶叫する。
今から思い起こせば、「歴史知識読物」の数々は荒唐無稽な歴史的ヨタ話、あるいは革命夢物語のようにも思えるし、こんなシリーズを“真顔”で出版し続けた神経を疑いたくもなろうというもの。
だが、たとえば習近平を筆頭とする紅衛兵世代が文革時に刷り込まれた「マルクス主義、レーニン主義、毛沢東思想が全世界で勝利することを阻止することはできないのだ。共産主義の偉大な理想は、必ずや実現させなければならない!」との過激思想に、今でも突き動かされていると考えたら、世界は安閑とはしていられないはずだ。
ヒョッとして習近平政権が掲げる「中華民族の偉大な復興」は、「マルクス主義、レーニン主義、毛沢東思想が全世界で勝利することを阻止することはできないのだ。共産主義の偉大な理想は、必ずや実現させなければならない!」との“文革式心意気”で裏張りされているのかもしれない。天災と同じで、文革も忘れた頃にやって来る、のだろうか。
以上で1972年に香港で入手した“紙の爆弾”を終わる。次に1973年に移ろうと思うが、この辺りで些か趣向を変え、昨年11月に出版された中国SF『金色昔日 現代中国SFアンソロジー』(ハヤカワ文庫SF 2020年)を紹介しておくの面白そうだ。
近代中国におけるSFの最高傑作は、清末の動乱期に清朝を改革することで“富強の中国”を目指した保皇派の指導者で知られる康有為が著した『大同書』だと考える。康有為が偉大な儒学者であったことから、日本では『大同書』は康有為の儒学思想を敷衍した著作のように思われているが、それは誤解も誤解、大誤解と言っておきたい。
じつは『大同書』で康有為は自らが夢想する儒教ユートピアを描いているわけだが、それだけに混乱する清末の政治・社会状況への鋭い批判と諦念が読み取れる。『金色昔日 現代中国SFアンソロジー』に収められた14人の作品もまた康有為の手法に似て、共産党独裁に向けられた密かながら激しい揶揄と批判が、物語の奇想天外な舞台設定、思いも寄らぬストーリー展開のなかに込められている。
それは見方によっては、昨年末に全土を揺るがせたとされる習近平政権の厳格なゼロ・コロナ対策を批判した「白紙革命」より、より根源的で深刻で強烈な社会批判とも思う。
たとえば「金色昔日」だが、舞台は延安時代から北京五輪へと続く共産党絶対無謬史観に基づく“公認現代史”を逆転させ、北京五輪を開催できるような「中国がそんなに豊かだった」時代から出発し、貧しさと混乱の社会へと退行してゆく奇妙な現代史だ。《QED》