――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習142)
「巨大な化け物と張子のトラ」は、「昨年(1970年)は各国人民の反米闘争の火が燃え盛った。『超大国』と呼ばれるアメリカ帝国主義も業火に焼かれ青息吐息である。まさに『アメリカ帝国主義は一見したところ巨大な化け物のようだが、その実は張子のトラに過ぎず、今や臨終一歩手前』という毛主席のご指摘の通りだ」と、冒頭から傲岸不遜・意気軒昂。
続いて「(『矛盾論』の説く)世界における一切の事物が両面性(対立と統一の規律)を持たないわけはないと同じように、帝国主義と一切の反動派は両面性を持つ。それが本当のトラと張子のトラということになる」と転じ、かくして「革命を推し進める人民にとって帝国主義の両面性に対する認識は、自らの闘争を実践するうえで極めて重要なことだ」と畳み掛ける。
さらに「人民は必ずや勝利し、アメリカ帝国主義は必ずや敗れ去る。これは歴史の発展における必然的な趨勢」であり、「アメリカ帝国主義は全世界人民の共同の敵であり、侵略の毒爪が何処にどのように伸びようと、その矛先は全世界の人民に向いている」。かくて「革命的人民は闘争の過程で絶え間なく発展し強大になり、勝利から勝利へと進み、最終的には帝国主義反動を徹底して埋葬するという目的を達成する」ことになる。
だから「全世界の人民は団結し、拳を固く握り締め、張子のトラにすぎないアメリカ帝国主義を断固として粉砕せよ」と大いに煽った後、“予定通り”に「共産党の哲学は闘争哲学であり、階級闘争は停止することなく、革命は継続されなければならない」と結ばれる。イケイケドンドン。毛沢東思想による徹底した“完全無欠のアジテーション”である。
それにしても多くの矛盾が満ち溢れる習近平体制下の中国を『矛盾論』に基づいて分析してみると、たしかに「巨大な化け物」と形容することができそうだが、ならば習近平体制は「張子のトラ」・・・はたして錯覚だろうか。
かつて共産党政権にとって重要な考えは共産党機関誌『人民日報』、理論雑誌『紅旗』、解放軍機関紙『解放軍報』の2紙1誌の共同社論(社説)という形で発表された。かくして1972年は「団結し、より大きな勝利を勝ち取ろう」との表題の2紙1誌による「一九七二年元旦社論」で幕を開けたのである。
『農業学大寨 第五輯』(農業出版社 1月)は、「勝利の1971年が過ぎ去った。毛主席のプロレタリア階級路線に沿って勇猛前進する我が国各族人民は、全身にみなぎる確信を持って戦いの1972年に突き進もう」で書き出される同社説を冒頭に、全国展開された大寨モデルの農業経営の成功例を、安徽省、山西省、河南省、湖南省、山東省、江蘇省、広西チアン族自治区、陝西省、甘粛省、河北省などでの実例で紹介し、「毛主席のプロレタリア階級革命路線勝利万歳! 我が国各族人民の偉大な領袖毛主席万歳!万々歳!」で締められている。
全国農村発展モデルとなった大寨は山西省の僻地にある大寨人民公社に属する23の生産大隊の1つで、僅か83世帯の生産大隊であり、全域が石ころだらけの傾斜地のうえに、豪雨と干天が繰り返されるなど農業には全く不向きの極貧村だった。そこに無学だが“自己犠牲の権化”のような農民・陳永貴が現われ、率先垂範しコツコツコツコツと農地と土壌の改良に努め、ついには稔り豊かな農村へと大変身させたと言うのだ。
かくて大寨大隊で陳永貴が進めた事業が毛沢東思想の柱である「為人民服務」「自力更生」を現実化させたと喧伝され、1964年の毛沢東の「農業学大寨」の呼び掛けに繋がり、全国農村での学習運動へと発展する。だが、その裏にはタネも仕掛けもあった。毛沢東思想宣伝の材料を求めていた江青が大寨と陳永貴に着目し、人民解放軍兵士を大量動員し、中央政府の潤沢な資金が秘密裏に投入されていた。これが大寨大成功のカラクリである。《QED》