――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習114)

【知道中国 2448回】                      二二・十一・仲五

――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習114)

拙稿2444~46回で「中国」と「中国人」について考えたが、興味深い1冊を取り上げることを忘れていた。それが、同じく1971年に香港の黄河出版社から出版された『論日本軍国主義』(譚光・宇征途)である。

日本で進行する軍国主義化に対する現状分析や批判は余りにも公式的で敢えて取りあげる必要はないが、『論日本軍国主義』で注目したいのは、「香港の中国人」の役割を熱く語っている点だ。その典型を、「香港の中国人の責任」の章から引用してみたい。

――「釣魚台(尖閣)防衛運動に対し、批判的な議論も聞かれる。香港から極めて遠距離にある釣魚台をなぜ守らなければならないのか。理解に苦しむ、というわけだ。だが、この種の考えを持つ人々は極めて重要な点を疎かにしている。つまり釣魚台防衛運動と日本軍国主義反対の関係である。

釣魚台防衛運動は目の前の目標であり、日本軍国主義に反対することは射程の長い遠い将来を見据えた運動である。日本軍国主義に打撃を与える過程で、香港の中国人は責務を担うばかりか重責を負わなければならない。香港の中国人の責任はアメリカやカナダのような海外の地に居住する中国人の責任とは比較にならないほどに重いのである」

もう少し続けたい。

「日本の膨張を阻止するために香港の中国人の負っている責任とは、シンガポールやマレーシアとの連携に力を尽くし、香港、シンガポール、マレーシアを一体化して日本に対抗する戦線を構築することだ。かくて消極的には東南アジアにおける日本の影響力を殺ぎ、積極的には日本の侵略する力を阻止することが出来る。なぜシンガポールやマレーシアと連携しなければならないのか。それというのもシンガポール、マレーシアは比較的安定している上に華人が多く集まっており、相互の連絡が比較的容易だからである。

台湾は脆弱であり、予見可能な将来における中共の国力はシンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピンなどのレベルにまで達することは出来そうにない。だから、この地域を糾合して日本に対抗する力を構築する責任は、偏に香港に住む中国人が担わなければならない。だから香港の中国人の責任は、海外その他の地域に住む中国人の責任よりずっと重いのである」

そして『論日本軍国主義』を次のように結び、日本軍国主義との戦いが全世界の中国人にとって避けては通れない“聖戦”であることを高らかに宣言している。

「現在の急務は日本軍国主義を理解することだけではなく、最重要事はどのようにして自らの責任を尽くすか、である。海外の中国人、わけても香港の中国人はより深く考えを及ぼすことができるはずだ」――

どうやら1971年の時点で反日急進派の「香港の中国人」は「台湾は脆弱」で、「予見可能な将来における中共の国力」はシンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピンにも及びそうにないと予想していた。と言うことは当時、彼らは自分たちが最も先進的な中国人であり、世界中の遅れた中国人を指導すべき立場にあると考えていたらしい。

黄河なる出版社名、征途のペンネームからして、『論日本軍国主義』は、そんな「香港の中国人」からの世界の中国人に向けた反日の政治的パンフレットとも考えられる。

それにしても、どう考えても、「中国」「中国人」は一筋縄ではいきそうにない。伸縮自在で奇妙キテレツ妙不思議。掴みようがなく、鵺のようだ。であればこそ、敢えて曖昧模糊の存在と言っておきたい。かくして鶴見祐輔の次の述懐に思い至らざるを得ない。

「支那は日本に取りては『見知らぬ國』」であり、「日本にあらず。全く異なりたる環境と人生觀をもつて成る國」(『偶像破壞期の支那』鐵道時報局 大正12年)なのだ。《QED》


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