米国のバイデン大統領の韓国と日本歴訪が5月24日に終えるのを待っていたかのように、中国の王毅外相が26日から6月4日までの10日間、ソロモン諸島やキリバス共和国、フィジーなどの太平洋島嶼国家7カ国と東ティモールを訪問している。
ソロモン諸島は2019年9月16日に台湾と断交し、4日後の9月20日にはキリバス共和国が台湾と断交している。両国と台湾の断交は中国が仕掛け、両国とも中国と国交を結び、中国の外務省は本年4月19日、ソロモン諸島と安全保障協定を締結したと発表した。現在、台湾が国交を保つ太平洋島嶼国家はマーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバルの4ヵ国となっている。
王毅外相は26日にまずソロモン諸島を訪問し、その後、キリバス、サモアを経て30日にフィジーを訪れたそうで、「ソロモンと病院建設に関する書面を交わし、キリバスではインフラ開発や医療品支援など10の文書に署名した。サモアとは外交関係強化に向け経済・技術面での協力で合意したほか、警察学校の建設に関する書面も交換した」(日本経済新聞)と報じられている。
フィジーの首都スバで行われた10ヵ国を対象とした30日の「中国・太平洋島国外相会合」で、中国はこの地域を包括する安全保障協力を強化する合意を目指していた。
しかし、外相会合に先立って中国は10ヵ国に警察活動、安全保障、データ通信の協力を盛り込んだ「共同声明」と2022年中に法執行能力と警察協力についての閣僚間対話を実施するなどを盛り込んだ「5カ年行動計画」の草案を送っていたことをロイター通信が報じ、「ロイターが確認した太平洋地域指導者21人に宛てた書簡の中で、ミクロネシア連邦のパニュエロ大統領は、中国と西側の間で新たな『冷戦』を引き起こす恐れがあるため、『事前に決められた共同声明』を拒否すべきと主張するとしている」と伝えていた。
5月24日に日本で行われたクアッド(Quad)に駆けつけた大統領当選直後のオーストラリアのアルバニージー大統領は、王毅外相訪問に先手を打って訪日に同行したウォン外相を26日にフィジーに派遣したという。
その結果、外相会合では合意に至らず「中国が太平洋進出の足がかりにしようとした安全保障協定が島嶼(とうしょ)国の反対に直面して頓挫した」と産経新聞は伝えている。下記に紹介したい。
ロシアのウクライナ侵略の陰に隠れるように、中国は太平洋島嶼国家の取り込みを謀っている。ソロモン諸島と中国の安全保障協定は、南太平洋で軍事的影響力を拡大する足がかりになりかねない。事実、今回の王毅外相による10日間という異例の長期訪問では、10カ国と安全保障協定を結ぼうとした。
中国のこのような動きに、主要援助国のオーストラリア、ニュージーランド、米国などは危機感を募らせており、ソロモン諸島に中国の軍事基地ができれば、主要援助国でもある日本にとっても安全保障上の大きな脅威となる。「自由で開かれたインド太平洋」実現への深刻なリスクを抱えることにもなる。
日本も4月に4月25日から4月27日まで上杉謙太郎・外務大臣政務官を自衛隊機でソロモン諸島に派遣し、5月7日と8日には林芳正外相がフィジー共和国とパラオ共和国を訪問、太平洋諸島フォーラムにおける協力や中国とソロモン諸島の間の安全保障協力協定を含む太平洋島嶼国情勢について日本の率直な考えを伝えた。
日本の対応の効果のほどは分からないものの、「太平洋・島サミット」や「日・太平洋島嶼国国防大臣会合」(JPIDD)を主催する日本としては、中国による太平洋地域での軍事拠点化にもっと警戒を強め、安全保障を含むさらなる支援体制をつくって臨むことが必要だろう。
—————————————————————————————–中国の安保協定を拒否した太平洋島嶼国の?本音? 【産経新聞:2022年6月1日】https://www.sankei.com/article/20220601-EWICOF3PTZNHZI2S3I75D5VYBU/
中国が太平洋進出の足がかりにしようとした安全保障協定が島嶼(とうしょ)国の反対に直面して頓挫した。「中国 は野望を果たせなかった」(オーストラリア公共放送ABC)形で、関係国には安保協定を?ごり押し?しようとした中国に不信感が漂う。島嶼国内には南太平洋が大国の勢力争いの舞台となることに警戒感があるほか、「地域の真の課題に注目してほしい」との声も上がっている。
◆多国間協定に移行…中国隠さぬ野心
「あまり心配しすぎず、神経質になりすぎないでほしい」。王氏は5月30日、訪問先のフィジーの首都スバで行われた地域10カ国を対象とした外相会議後の記者会見で、中国を過度に警戒しないよう話した。強面(こわもて)の姿勢で知られる王氏による異例の呼びかけといえる。
王氏は外相会議で安保面での連携強化を謳(うた)った協定の締結を提案したが合意に至らず、いったん提案を棚上げした。
これまで中国は基本的に2カ国間の対話を通じ、島嶼国に浸透してきた。4月にはソロモン諸島との間で中国軍駐留を可能とする安保協定を締結している。今回、多国間協定を結ぶことで南太平洋での影響力を確たるものとしたい考えがあった。
豪州紙シドニー・モーニング・ヘラルドは「中国は(島嶼国でつくる地域機構の)太平洋諸島フォーラムのような既存の地域組織に取って代わろうとしている」と、その野心を分析している。
◆草案リークで警戒感高まる「世界大戦をもたらす」
ところが、協定の草案が事前に流出し、ロイター通信などが報じたことで風向きが変わった。草案は経済協力と、中国軍駐留が視野に入る安保連携がセットになった内容で、米国や豪州の意向にも配慮する島嶼国を中心に警戒感が急速に拡大した。
ミクロネシア連邦のパニュエロ大統領は外相会議に先立って、協定によって「良くても新たな冷戦時代、悪くすれば世界大戦をもたらす恐れがある」「われわれの経済と社会全体を中国と本質的に結びつけるだろう」などと、強い口調で警鐘を鳴らした。
外相会議の席上、ミクロネシアのほか、サモアが協定に懸念を表明したもようだ。中国の銭波(せんは)駐フィジー大使は記者団に「いくつかの特定の問題について懸念が寄せられている」と語っている。
太平洋外交の軌道修正を迫られた形となった中国は今後、2カ国間の交渉を重視する従来の姿勢に戻るとみられている。既に英紙フィナンシャル・タイムズは、中国がソロモンに続き、キリバスとも安保協定を結ぶ計画があると報じている。
◆豪州「持続不可能な財政負担を課さない」
協定の棚上げについて最も安堵(あんど)しているのは、中国の太平洋進出に危機感を強めていた豪州だといえよう。アルバニージー政権は王氏の島嶼国訪問の先手を打つ形で、ウォン外相を26日にフィジーに派遣した。
ウォン氏はフィジーで島嶼国への支援を申し出ると同時に「豪州は持続不可能な財政負担を課さない」と強調した。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」参加国で債務超過が問題となっていることを念頭に置いた発言だ。
事実、豪州シンクタンク、ローウィー研究所は2019年の報告書で、世界でも特に対中債務が多い国として、サモア、トンガ、バヌアツの3カ国を挙げている。ウォン氏には債務問題をちらつかせ、中国接近にくぎを刺す狙いがあった。
さらにウォン氏は「ルールと主権が尊重され、安定と繁栄を地域にもたらすという共通利益を達成するため、あらゆる手段を尽くす」と発言。島嶼国に寄り添う姿勢を見せた。
◆関心事は「地政学より気候変動」
島嶼国には大国の争いには巻き込まれたくないとの思いが強い。加えて、島嶼国の日本外交筋は「各国は経済支援も重要だが、まず先進国には気候変動問題に取り組んでほしいとの思いがある」と分析した。事実、太平洋諸島フォーラムのプナ事務局長は30日の外相会議後、中国に対して「太平洋の真のパートナーであり友人であるために緊急かつ踏み込んだ気候変動対策が必要だ」と、さらなる支援を求めた。
島嶼国の大半は海抜数メートルの低地で、気候変動による海面上昇が喫緊の課題だ。国連はキリバスなどでは30年までに水没して居住不可能になる島が出ると警告している。
島嶼国には二酸化炭素排出量削減などで先進国の対策が不十分との不信感がある。フィジーのバイニマラマ首相は28日のツイッターへの投稿で「私たちの最大の関心事は地政学ではなく、気候変動なのだ」と断言。大国に地域の声に耳を傾けるよう求めた。
(シンガポール 森浩)
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