昨日の本誌でお伝えしたように、中国の王毅外相が26日から6月4日までの10日間、台湾と2019年9月に立て続けに断交した太平洋島嶼国家のソロモン諸島とキリバス共和国をはじめ、サモア、フィジー、トンガ、バヌアツ、パプアニューギニア、そしてインドネシアの占領から独立した東ティモールの8カ国を歴訪中だ。6月2日にはバヌアツに到着してタリマオベド大統領と会ったという。
5月30日、フィジーの首都スバで行われた10ヵ国を対象とした「中国・太平洋島国外相会合」で、中国は事前に配布した共同声明と5か年行動計画を採択することができず、合意に失敗した。ミクロネシア連邦とサモア独立国が強い懸念を表明したからだ。台湾と国交を結ぶパラオも、周辺国の指導者に「北京との協定は域内の平和と安保に危険を招く」と注意を促したと伝えられる。
中国のこの動きに、主要援助国のオーストラリア、ニュージーランド、米国、日本などが危機感を募らせ、オーストラリアのペニー・ウォン外相は5月26日にフィジー、6月2日にはサモアを訪問、サモアでは新たに哨戒艇を供与する意向を表明したそうだ。
王毅外相の太平洋島嶼国家歴訪については、産経新聞(6月2日「太平洋島嶼国 中国の軍事拠点化を阻め」も読売新聞(6月3日「中国と南太平洋 島嶼国を軍事拠点とするな」)も社説で警鐘を鳴らしている。
2013年に台湾でニュースメディアとして創設され、本年3月より本格始動した「The News Lens Japan」(ザ・ニュースレンズ・ジャパン)も、ニュース記事として具体例を挙げながら「現実的にみて、中国にとって南太平洋の島嶼国に経済的な特段の“うまみ”があるはずはなく、米豪などは太平洋での海洋進出の軍事拠点作りが狙いであることは明白だと警戒を強めている」と報じている。下記に紹介したい。
—————————————————————————————–覇権主義中国が南太平洋の軍事拠点作り狙う 島しょ国10か国の外相会議で一部から不信感The News Lens Japan」(ザ・ニュースレンズ・ジャパン):2022年6月1日】https://japan.thenewslens.com/article/2049
王毅外相は先月26日、最初の訪問地ソロモン諸島を訪れた。ソロモンと2国間の安全保障協定を4月に締結したばかりでもあり、王毅氏はマネレ外務・貿易相との会合で、安保面でソロモン諸島を「固く支持する」と約束した。人口約69万人のソロモン諸島は軍隊を持たないため、もし警察だけでは対処できないような事態に陥った場合、中国が支援するというものだ。
同国のソガバレ首相(67)は2019年、台湾と断交し、中国と国交を回復させた。国民の声をよそに独断で中国との関係を強化しているとされる。それに抗議する市民らは昨年11月に大規模なデモを行い、暴動が発生する事態となった。その際は同じ英連邦のオーストラリアが軍と警察を派遣し、暴動を鎮圧したが、今後は安保条約により、その役割を中国が担うことになったのだ。
この2国間安全保障協定に、米国を始めオーストラリアやニュージーランドなどは強く反発。米国側は、「もし中国がソロモン諸島に軍事拠点を置き、軍を常駐させるような事態になれば、地域安全保障にかかわる問題として米国は軍事行動を排除しない」とソロモン側に強く警告した。
一方、王毅氏はソロモンに続き、キリバス、サモア、フィジー、トンガ、バヌアツ、パプアニューギニア、東ティモールの計8か国を4日までの日程で訪問する。
その途中で行われた南太平洋島嶼国10か国との外相会議に先立ち、王毅氏は中国が策定した共同声明と5か年行動計画を参加国に配布。だが、一部の国が「中国による地域支配の意図がうかがわれる」との懸念を示した。
会議後の会見でフィジーのバイニマラマ首相は、「各国の合意が第一だ」とし、参加国の間で意見が一致しなかったことを示唆し、中国が示した声明案と5か年計画は合意されなかったことが明らかになった。在フィジー中国大使は、会合参加国が「合意を達成するまで」協議を続けることには賛成したとし、かろうじて面目を保った。
王毅氏によると、会議参加国の一部から、「中国はなぜ南太平洋島嶼国への進出に積極的なのか」と質問され、アフリカ、アジア、カリブの途上国も同様に支援していると答えたという。その上で王毅氏は、「過度に心配したり、神経質にならないでほしい。中国とその他全ての途上国の共同の発展と繁栄が意味するところは、大いなる調和、公正さの向上、全世界の一段の進展にほかならない」と主張した。
外相会議には習近平国家主席もビデオメッセージを送り、「国際情勢がどのように変化しようとも、中国は常に太平洋島嶼国の良き友であり、良き兄弟であり、良きパートナーであり続ける」とし、「未来を共有する共同体」の構築に取り組む用意があると表明した。
だが現実的にみて、中国にとって南太平洋の島嶼国に経済的な特段の?うまみ?があるはずはなく、米豪などは太平洋での海洋進出の軍事拠点作りが狙いであることは明白だと警戒を強めている。
実際、キリバスでは、人口わずか数十人の島の滑走路修復を中国が支援し、バヌアツでは中国漁船を受け入れるという条件で、中国による港湾拡張計画が進められているが、軍港に転用することは容易だという。また、パプアニューギニアでは中国が港湾施設や道路など重要インフラを建設している。
これらのプロジェクトは、習氏が進める広域経済圏構想「一帯一路」に参加したインド洋の島国スリランカが結局、中国の?債務の罠?にはまり、同国南部のハンバントタ港が2017年から99年間、中国国有企業の租借地として奪われた前例を想起させるものだと西側の専門家は指摘する。
米紙ワシントン・ポストは、中国がこれらの島嶼国への支援で使った予算はわずか1億7000万ドル(約220億円)ほどで、それにより同地域での確実な利益を手に入れたとし、海洋進出を続ける中国にとって、南太平洋の軍事拠点になるだろうと危機感を示した。
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