2018年6月12日、シンガポールのセントーサ島で米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩・国務委員会委員長による初の米朝会談が行われたこの日、台湾では台北市内湖区に建設された米国在台湾協会(AIT:American Institute in Taiwan)台北事務所の新庁舎落成式典が行われた。
米国はそれまでAITに軍人が駐在するかについてあいまいにしてきたが、新庁舎落成式を前にした2018年4月3日、米国在台湾協会の報道官は「事務所には海兵隊を含む陸海空の軍人が2005年から駐在している」と初めて明らかにした。
しかし、これは驚くには当たらない。2017年2月に刊行された防衛研究所編の『中国安全保障レポート2017』ではすでに、2005年の「8月から現役の陸軍大佐が台北に派遣」されていることを明かし「現役将校の派遣は、安全保障における米台間の密接な連絡を強化する役割を果たしている」と記しているからだ。いわば公然の秘密だったと言ってよい。
米国在台湾協会の報道官が明らかにしたことで注目したいのは「海兵隊を含む陸海空の軍人」という発言だ。米国は陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊の5つの軍隊を有しており、国防総省の管轄下に属しない沿岸警備隊を除く4軍が台北事務所に駐在していることを明らかにした。
これは「AIT(米国在台湾協会:事実上の米大使館)の組織防衛のため、また、米国が『台湾関係法』に基づく対台湾武器供与の必要性などから、海兵隊を中心に約一個旅団の軍関係者が台湾において勤務中であるとされている」(岡崎研究所「日米が台湾の港湾に寄港する重要性」2019年12月11日、WEDGE infinity)という。
米国の在外公館の警備は海兵隊が担っている。とすれば、米国は国交を有する国の在外公館と同じく、AITの警備を海兵隊に任せていたということで、米国は台北事務所を在外公館並みに格上げしていたということになる。
中央通信社は「共和党のスコット・ペリー下院議員は(12月)10日、議会に対し、米国と台湾が相互に置く窓口機関を「大使館」に格上げする法律の制定を検討するよう提言した」と報じている。さらに「AIT台北事務所を『米国駐台湾大使館』に、駐米国台北経済文化代表処を『台湾駐米国大使館』にそれぞれ認定する法律の制定を検討するべきだと訴えた。また、台湾の駐米代表の呼称も『大使』に変更するべきだ」と提言したとも伝えている。
本誌でお伝えしたように、12月1日に米国の連邦議会諮問機関の「米中経済安全保障調査委員会」(USCC:U.S.-China Economic and Security Review Commission)が発表した年次報告書では「AIT台北事務所長の格上げに向けた法改正の検討」が提言されている。現在、AIT台北事務所長は国務長官が選任するため上院の承認を必要としていないが、一般の大使職と同様に大統領が指名し、上院が承認するよう求める提言だ。
共和党の親台派のスティーブ・シャボット下院議員は昨年12月、AIT台北事務所長を大使の職位に格上げすることを求める「台湾特使法案」を提出していることと相まって、米国では、海兵隊が警備していることで実質的に在外公館並みに格上げしているAIT台北事務所における名称や台北事務所長の選出過程の見直しを図る機運はかなり高まっているようだ。
実は、2005年ごろから日本でも、台湾の大使館に相当する「台北駐日経済文化代表処」の名称を「駐日台湾代表処」と改称する動きがある。すでに日本の「交流協会」は2017年1月1日に「日本台湾交流協会」と改称し、台湾側のカウンターパートである「亜東関係協会」も2017年5月17日に「台湾日本関係協会」と改称してから3年以上経つ。
日台双方のカウンターパートがそれぞれ「日本」と「台湾」という名称を堂々と名乗り、駐台日本大使館に相当する「交流協会台北事務所」も「日本台湾交流協会台北事務所」と名称を変更している。そろそろ、駐日台湾大使館に相当する「台北駐日経済文化代表処」の名称も「駐日台湾代表処」と改称してよいのではないだろうか。
また、改称と同時に、未だに外交官特権を受けていない台北駐日経済文化代表処の処員が外交官特権を享受できるよう望みたい。
—————————————————————————————–台湾の代表処を「大使館」に 米議員が法制定検討を議会に呼び掛け【中央通信社:2020年12月11日】
(ワシントン中央社)米共和党のスコット・ペリー下院議員は10日、議会に対し、米国と台湾が相互に置く窓口機関を「大使館」に格上げする法律の制定を検討するよう提言した。下院外交委員会アジア太平洋小委員会の公聴会で述べた。
ペリー氏は、下院の親台派議員連盟に所属する共和党のスティーブ・シャボット議員が昨年12月に「台湾特使法案」を提出し、米国の対台湾窓口機関、米国在台協会(AIT)台北事務所所長を大使の職位に格上げすることを求めたことに触れ、これに並行して、AIT台北事務所を「米国駐台湾大使館」に、駐米国台北経済文化代表処を「台湾駐米国大使館」にそれぞれ認定する法律の制定を検討するべきだと訴えた。また、台湾の駐米代表の呼称も「大使」に変更するべきだと主張した。
ペリー氏は、これらの外交手段は台湾に対する米国の揺るぎない約束を示すほんの一部だと言及した上で、「これらの手段は世界一の大国である米国が台湾との関係を重視していることを世界に知らせ、その他の国家や国際機関も同様にするよう促すものだ」と強調した。
(徐薇?/編集:名切千絵)
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