湯徳章を讃える絵本『正義與勇氣 湯徳章』が台湾で出版

 1947年に台湾で起こった「2・28事件」では、実に3万人もの前途有為な青年などが犠牲となった。その一人に、日本人を父とし台湾人を母にもつ弁護士の湯徳章(日本名:坂井徳章)がいる。

 隣の高雄市に比べ台南市の犠牲者数が少なかったのは湯徳章の功績によると言って過言ではない。湯徳章が治安工作員の名簿を提出することを拒否し、多くの未来ある若者を守ったからだ。台南市は、頼清徳市長(現、副総統)時代の2014年に湯徳章が銃殺された3月13日を「正義與勇氣紀念日」(正義と勇気の日)に定め、毎年、慰霊と顕彰を欠かさない。

 また、日本時代には「大正公園」、戦後は「民生緑園」と呼ばれていたこの公園で湯徳章が銃殺されたことから、2・28事件を記念する和平記念日を翌日に控えた1998年2月27日、当時の張燦●市長は民生緑園を「湯?章紀念公園」に改名、銃殺場所に胸像を設置することを宣言、後日、胸像が設置されている。(●=洪の下に金)

 湯徳章の事績は、門田隆将氏の『汝、ふたつの故国に殉ず─台湾で「英雄」となったある日本人の物語』(2016年、KADOKAWA)に詳しい。今年2月に文庫本になっているが、単行本は、2・28事件から70周年を迎えた2017年1月、台湾で『湯徳章─不該被遺忘的正義與勇氣』(湯徳章 忘れられてはいけない正義と勇気)と題して出版された。

 このほど、青少年向けに32ページの絵本『正義與勇氣─湯徳章』(青林國際出版股?有限公司出版)が出版されたという。下記に中央通信社の記事をご紹介したい。

—————————————————————————————–2・28事件で市民救った弁護士、読み物に 正義と勇気の精神伝える【中央通信社:2020年12月1日】https://japan.cna.com.tw/news/asoc/202012010010.aspx

 (台南中央社)蒋介石率いる国民党政権が台湾市民を武力弾圧した1947年の「2・28事件」で犠牲となった南部・台南市の弁護士、湯徳章(日本名:坂井徳章)氏の生涯を描いた青少年向け書籍が出版された。自分の命を顧みず多くの人命を救った正義と勇気の精神を伝える。

 先月28日に市内で開かれた出版記者会見では、同市政府文化局の葉澤山局長が、湯氏の功績は台南市以外の土地ではあまり知られていないと指摘。しかるべき歴史的地位や評価が与えられるべきだと述べ、絵本を介してより多くの人々が湯氏についての認識を深めることに期待を示した。

 湯氏は日本統治時代の1907(明治40)年、日本人の父親と台湾人の母親の間に生まれた。日本で法律を学び、故郷で弁護士となった。2・28事件では、事態の収束を試みるも、鎮圧に乗り出した軍に連行され、3月13日に公開処刑された。身柄を拘束される前、決起を意図していた青年らの名簿を焼却し、多くの命を救ったとされる。

 書籍のタイトルは「正義と勇気−湯徳章」。湯氏の家庭背景や就学、結婚、仕事、晩年などがわかりやすい文章と豊富なイラストでつづられているほか、理解度を深めるための年表や写真なども配された。同市が出版を企画し、国家人権博物館から資金援助を受けて実現した。

同書は台南市立図書館やその分館などに所蔵されるほか、インターネットなどを通じて販売もされる。

(張栄祥/編集:塚越西穂)

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