岸信夫・防衛大臣は「日米台の安全保障対話」を実現できるか

 防衛大臣として初入閣した岸信夫・衆議院議員が昨年12月10日に発売された月刊「正論」1月号増刊「台湾危機」に寄せた「日米台の安保対話を」に注目が集まっている。

 岸氏は現在、超党派の国会議員でつくる「日華議員懇談会」幹事長を務めているが、2006年4月26日、安倍晋三氏が官房長官時代に自民党の国会議員だけで設立した「日本台湾経済文化交流を促進する議員の会」会長もつとめていて、「正論」1月号増刊ではこの肩書きを使用している。

 寄稿というより、正論編集部による聞き書きなのだが、世界保健機関(WHO)や国際民間航空機関(ICAO)という国際機関への台湾加盟の後押し、副大臣クラスの自由な往来、 日台及び日米台による安全保障対話の推進、日本台湾交流協会台北事務所の防衛担当主任(駐在武官)に現役の中堅クラス自衛官の派遣と増員の4点に言及している。

 いずれも日台関係の正常化のためには必要なことであり、特に「日台及び日米台による安全保障対話の推進」は防衛大臣の職掌とも関わる事柄なので注目を集めているようだ。

 昨年3月2日付の産経新聞に掲載された台湾の蔡英文総統へのインタビューで、蔡氏は日本政府に対して安全保障問題やサイバー攻撃に関する対話を求める意向を表明している。

 蔡総統が安全保障問題に関して日本との直接対話の意向を明言したのは初めてのことだったが、台湾が中国に武力を含めた脅威に直面し、日本も台湾と同じ脅威にさらされているわけだから、「台湾と日本の間の安全保障は実務上の協力を極めて必要としている」と述べ、その実務上の協力関係を作り出すため「日本側が法律上の障害を克服し、われわれと相互協力や、有効な情報交換の機会を持つことができるのを期待している」と述べたことは至極まっとうな意向表明だった。

 しかし、日本側の反応は鈍かった。当時の菅義偉・内閣官房長官は3月8日午後の記者会見でようやく蔡英文総統のインタビューについて政府の対応を質す問いに「1972年の日中共同声明にあるとおり、日本と台湾との間では、非政府間の実務関係を維持していくのが日本政府の立場であります。そうした発言は承知しておりますが、いずれにしても政府としては、いま申し上げた立場に基づいて適切に対応してゆきたい」と述べるに留まり、河野太郎・外務大臣も同日の記者会見で、菅官房長官と符節を合わせるように「日本と台湾との関係は非政府間の実務関係を維持していくというので一貫している。この立場に基づいて適切に対応してまいりたい」と述べただけだった。

 官房長官も外相も台湾との安全保障対話には直接触れず、公式見解以上の発言はなかった。それに対して、当時の岸氏は一国会議員として、日台及び日米台による安全保障対話を推し進めることは重要と考えていたので「正論」における表明となったのだろう。日台関係に造詣が深い国会議員としては当然とも言える見解でもある。

 下記に紹介する「夕刊フジ」は、この発言を巡って、防衛副大臣をつとめた日華議員懇談会副会長をつとめる長島昭久・衆議院議員の「日本も台湾も『通商国家』である以上、安全保障上も不可欠な海洋・航空情報などを共有できる仕組みをつくるなど、台湾とは国交未満のことは全てやるべきだ」という発言と、石平氏の「台湾を加えた日米台での安全保障協力の枠組みをつくるべきだ」という発言を紹介している。いずれも岸信夫氏の発言を擁護するものだ。

 日米同盟の一方の米国は、周知のように武器供与や国内法を整備することで台湾との関係強化を図っている。米国では防衛に関する見識を評価されているという岸防衛大臣の思惑どおりにはなかなかいかないかもしれないが、その手腕に期待したい。

 なお、月刊「正論」1月号増刊「台湾危機」では、産経新聞が2019年に行った蔡英文総統へのインタビュー「中国に誤った判断させない」や李登輝元総統への河崎眞澄氏によるインタビュー「台湾が中国の手に落ちれば日米の喉元にナイフ」をはじめ、台湾独立の歩みのコーナーを設け、王明理・台湾独立建国聯盟日本本部委員長による「台湾独立運動の歩みを振り返る」(書下し)などを掲載し、本会の柚原正敬事務局長も「これが日本版台湾関係法だ」(書下し)を寄稿している。さらには、本会の渡辺利夫会長と西岡力・麗澤大学客員教授の対談「朝鮮・台湾の日本統治 なぜ、かくも評価が異なるのか」も再録されていて、この1冊で台湾問題のほとんどがわかると言っても過言ではないほどよくまとめられている。

◆月刊「正論」1月号増刊「台湾危機」 https://seiron-sankei.com/11601

—————————————————————————————–「親台湾派」岸防衛相の論文、専門家はどう見た? 識者「中国封じ込めへ日米台での安全保障の枠組みを」【夕刊フジ:2020年9月30日】https://www.zakzak.co.jp/soc/news/200930/pol2009300003-n2.html

 岸信夫防衛相が、月刊誌「正論」1月号増刊「台湾危機」に寄せた論文が話題になっている。安倍晋三前首相の実弟であり、政界有数の「親台湾派」で知られる岸氏が、日本と台湾の外交・安全保障も含めた連携強化について、大胆に吐露しているのだ。「安倍路線を継承する」という菅義偉政権の外交戦略にも影響するのか。

 「日本と台湾の関係はこれからもさらに深くなっていく」「台湾は地理的にも近いパートナーとして、良好な関係を今後も維持発展させていくことがきわめて重要」

 岸氏は「日米台の安保対話を」とのタイトルが付いた、7ページにわたる寄稿文の冒頭、こう記していた。「日本・台湾経済文化交流を促進する若手議員の会」の会長と、衆院議員という立場を明記していた。

 注目すべきは、中国が「確信的利益」とする台湾にプレッシャーを向けている現状を受けて、岸氏が「台湾をそのままにしておいていいわけではありません」「日本としては、台湾が活動できる空間をしっかり確保してくことが大切」と明記している点だ。

 具体的には、WHO(世界保健機関)や、ICAO(国際民間航空機関)への台湾加盟に向けた積極的支援を打ち出していた。

 そのうえで、「(日台間で)副大臣クラスの自由な往来くらいはできるようにしたらいい」「今後は日本台湾交流協会に中堅クラスの自衛隊員を派遣することも考えるべきだ」と提案している。

 日本と台湾は、「自由・民主」「人権」「法の支配」という理念を共有する。2011年の東日本大震災で、台湾は日本に200億円もの義援金を贈ってくれた。東アジアで、中国の軍事的覇権拡大が進むなか、日本と台湾は協力していく必要がありそうだ。

 岸氏は、防衛相就任後の記者会見(18日)で、台湾との安全保障協力をめぐる考えを問われ、「1972年の日中共同声明のとおり、台湾とは非政府間の実務的な関係を維持する、との立場に基づき、防衛相として適切に対処したい」と述べるにとどめた。

 改めて、岸氏の寄稿文を読んで、どう思うか。

 自民党の「国防族」である長島昭久衆院議員は「日本も台湾も『通商国家』である以上、安全保障上も不可欠な海洋・航空情報などを共有できる仕組みをつくるなど、台湾とは国交未満のことは全てやるべきだ。まずは、日米台の議会人同士の交流を深め合うのも一案だ」と指摘した。

 評論家の石平氏は「日米同盟をより強固にし、中国の軍拡暴走を封じ込むためにも、台湾を加えた日米台での安全保障協力の枠組みをつくるべきだ。これこそが岸防衛相の使命だ。台湾との関係で、いつまでも日本は中国に配慮する必要はない」と語った。

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