【産経新聞「主張」:2020年4月26日】
中国政府が南シナ海の各諸島を管轄する自治体として一方的に置いている「三沙市」傘下の行政区域として、「南沙区」と「西沙区」を新設すると発表した。
それぞれ「区人民政府」を置き、南沙、西沙各諸島と周辺海域を管轄するという。
だが、中国の南シナ海支配は、2016年7月にハーグの仲裁裁判所が国際法違反であるとして全面的に退けている。そのうえ中国が造成した人工島は国際法上、領有権を唱える対象にならない。
行政区を設定する権利など中国は持っていないということだ。直ちに撤回すべきである。
西沙諸島などの領有権を主張するベトナムの外務省は声明で、中国による行政区設定を「無効であり、誰も認めないものだ」と非難し、設定の破棄を求めた。
中国が人工島に飛行場や港湾を建設し、ミサイルやレーダーを配備するなど軍事拠点化を進めてきたことも許されない。
今月2日には西沙諸島近くで中国海警局の公船がベトナム漁船に体当たりし、沈没させる事件も起きている。
南シナ海をめぐっては、中国による支配を認めない米国がイージス艦などによる「航行の自由」作戦を続け牽制(けんせい)してきた。これに賛同する英仏やオーストラリアが南シナ海へ海軍艦船や航空機を派遣してきた。
米国を含む世界の国々は新型コロナウイルスへの対応に追われている。米軍は21日、巡洋艦など2隻の南シナ海派遣を発表した。そうであっても空母の乗組員に新型ウイルスの感染が広がるなど米海軍の即応力低下は否めない。
そのさなかに、中国が行政区を設定するのは、南シナ海に一時的に「力の空白」が生じたようにみえることに乗じた火事場泥棒ともいえる行為である。
米国務省報道官は行政区設定について、「新型コロナウイルス対策での忙殺に付け込んでいる」と中国を批判した。
茂木敏充外相は21日、中国の王毅国務委員兼外相と電話で会談した際、行政区設定への懸念を伝えた。懸念の表明程度では中国は馬耳東風ではないのか。南シナ海を法の支配に基づく自由で平和な海に戻すため、日本は各国に呼びかけ、国際社会の怒りを中国にぶつけていかなければならない。
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