台湾発「WHO can help?」が世界に問いかけること  黄 文雄(文明史家)

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2020年4月16日】*小見出しは、読者の便を考慮して編集部が付していることをお断りします。

◆米国がWHOは任務を怠ったとして拠出金停止

 WHOが何かと話題を振りまいています。トランプ大統領が、WHOは中国寄りで基本的な任務の遂行を怠ったとして、資金拠出を停止するように指示しました。報道によれば、米国のWHOへの拠出は世界最大。2019年の拠出は4億ドル以上で、WHO予算の約15%を占めたそうです。

 これに対して、WHOはすでに「遺憾だ」との声明を出しています。一説には、新型コロナへのトランプ大統領の初動対処の遅れをWHOに責任転嫁するため、WHOを標的にしたとの見方もあります。確かに、アメリカの感染者と死者が世界最多となっている状況では、トランプ大統領の責任を問われても仕方ないかもしれません。武漢の感染者がピークだった頃、トランプ大統領はアメリカは大丈夫だと楽観視していたのも事実です。

 トランプ大統領のこの決定に対しては、国際社会からも非難が相次いでいます。EU、フランス、ドイツ、ロシア、イランなどから、今は人道的援助資金を削減するときではないとの声が出ています。

 しかし、トランプ大統領の言っていることは間違いではありません。WHOは一貫して中国寄りの発言をしてきていますし、台湾に対して非常に無礼な態度を取り続けています。

 すでにこのメルマガでも取り上げましたが、台湾のWHO加盟について記者から質問を受けた幹部は、答えをごまかしました。また、台湾から人種差別的な攻撃を受けたとして、テドロス事務局長が台湾を名指しで批判しました。さすがにこれに対して、台湾当局は根拠のない中傷だと反発しました。蔡英文総統はフェイスブックで以下のように反論しました。

<台湾は長年国際組織から排除され、誰よりも差別と孤立の味を分かっている。テドロス事務局長にはぜひ台湾に来てもらい、差別を受けながらも国際社会に貢献しようと取り組む姿を見てほしい。>

◆台湾の人気タレントなどもテドロスWHO事務局長へ非難の声

 新型コロナでは世界中で唯一ウイルスの封じ込めに成功し、感染者ゼロの日もある台湾の政策は、世界が学ぶべき点が多々あります。そんな優等生の台湾に対して、WHOからの突然の非難に、台湾側は驚くと同時に怒りを抑えきれません。ネットではテドロス氏への抗議が相次ぎ、人気タレントたちも声を上げました。以下報道を引用します。

<人気グループ・フェイルンハイ(飛輪海)出身の俳優で歌手AARONは、フェイスブックに英文で抗議の意を表明。「世界があなたの間違った指導で苦しみ、深刻な経済的損失、医療崩壊を招いているのに、国際的な場で自分の個人的なことを演説する神経に驚かされる。黙って自分の仕事をしろ」と書き込み、この投稿がネットユーザーの間で広く支持されている。このほか、今年2月にWHOへの批判を込めた楽曲「WHO」をリリースした人気ラッパーの大支(Dwagie)らも、それぞれ抗議の声を上げている。>

◆台湾有志がニューヨーク・タイムズにWHOへ反論の意見広告

 さらに、台湾の有志が集まり、WHOの言いがかりに対して反論する広告をアメリカのニューヨーク・タイムズ紙に出しました。広告費用をクラウドファンディングで募ったところ、2万6000人から約2000万台湾ドル(7100万円)集まったそうです。そして出された広告に内容は、以下のような内容でした。報道を引用します。

<広告は上下で対比したデザインになっている。上部にはWHOをイメージしたとみられる青色で「WHO can help?」と書かれ、下部では「Taiwan」と宣言している。

 小さな文字で「孤立した時代に、私たちは連帯を選びます」とのメッセージもある。2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)での辛い経験や、WHOから台湾が排除されている現実、台湾が諸外国へ新型コロナの感染拡大に向けて支援している点に触れ、「あなたは一人じゃない。 台湾はあなたと一緒です」「誰が台湾を孤立させることができるか? いや、誰もできない。なぜなら私達は手助けるためにここにいるから」>

 広告の特設サイトもあります。 https://taiwancanhelp.us/

 反論広告の発起人は、人気ユーチューバーのレイ・ドゥ(阿滴、都省瑞)氏やデザイナーのアーロン・ニエ(聶永真)ら5人。広告デザインはニエ氏が担当しました。デザインの概念についてニエ氏は、フェイスブックで次のように説明しています。

<広告は、上部を黒、下部を白の2色で分け、上部には「WHO can help?」文字をWHOのロゴに使われている青色で示し、疑問を投げかけた。文字の下には長方形の穴がデザインされた。ニエ氏によればこの穴のイラストは、感染症発生時のWHOの反応の遅れと外部からの政治的干渉によって生じた防疫の空白地帯を表しているという。

 下部の白色の部分には「Taiwan.」(台湾)の文字をあしらい、その下には出入口のイラストを配置。閉じこもっているWHOと対比させ、台湾が積極的に通路や出口、方法学を築き、対外的に最大限の支援をしているということを示したという。

 下部に書かれたメッセージでは、台湾が2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)で苦しんだことやWHOから排除されている事実、各国へのマスク寄贈などを紹介し、『誰が台湾を孤立させられるのか。誰もできない。私たちは手助けをするためにここにいるのだから』と主張した。>

 広告への評判は上々で、日本からも秀逸だとの声が出ています。今の台湾は、国際社会で不当な扱いに屈せず堂々と反論するほど強くなっているのです。

◆台湾は国連から追放されたのではなく脱退

 ここ数年、台湾は毎年WHOに台湾名義での国連加盟を申請していますが、もちろん申請は通りません。しかし、台湾人医師団などの団体はめげずにスイスやニューヨークに集まって活動をしています。

 国連加盟への申請活動も、毎年夏になると国連本部前で行われています。台湾は国連を追放されたと報道する日本のメディアもありますが、それは事実とは全く違います。

 史実はこうです。1971年、アルバニアの提案で国際社会における「一つの中国」の代表は「中華人民共和国政府」となりました。これに対し怒った蒋介石が、国連から「中華民国」撤退の声明を出したのです。

 台湾の国連から「追放」ではなく「脱退」したのです。いま振り返れば、蒋介石のこの決断は早まったものでした。国連を脱退したことで、台湾は国際的な政治力を失ったわけですから。

 当時、日本の岸信介元総理大臣は、蒋介石に対して国連に一般加盟国として留まるよう説得しましたが、今から思えば、さすが先見の明がありました。そのようなリーダーがいたおかげで、日本は、開国維新から今日に至るまで国際政治力を維持することができたのです。

◆台湾から英国留学中の女性研修医も英語で反論

 本来なら、日本は台湾の兄です。日本が台湾経営していた間の日本統治時代、日本の最大の貢献は医療衛生面でした。王育徳博士の『苦悶する台湾の歴史』は、このことを強調しています。90年代、李登輝元総統の指揮のもと教育改革が行われ、中学生に医療衛生について詳しく教えています。

 その精神は今の台湾の若者にも受け継がれています。WHOのテドロス事務局長の台湾非難について、イギリスに留学中の台湾の若い研修医がユーチューブで堂々と英語で反論しています。そして、彼女の発言は世界中で支持されています。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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