【阿彰の台湾写真紀行】便當(piān-tong:ペントン)

【阿彰の台湾写真紀行】No.
20 便當(piān-tong:ペントン)

 台北でそれなりにボリュームもあって、値段も高くない食事を一人だけでしようと思ったら、円卓が並べてあるようなレストランには行かず、食堂風のたたずまいの店に行く。

 宴会ができるような形式のレストランでも、一人だけでの食事が割と安く食べられる店は存在するが、一般的にレストランスタイルの店だと4、5人ぐらいで一緒に食事をしないと経済的ではない。

 ボリュームもあって、値段も高くない食堂料理と言えば、お皿やポリスチレンペーパーの四角いトレイにライスが盛られ、その上に肉か魚の料理が一品と付け合わせの野菜や惣菜が2〜4品のせてあるものだ。付け合わせの野菜や惣菜は店側で決められたものが入れられる場合もあるし、客側が数多くの選択肢の中から自由に選べるスタイルを採用している店もある。店内で食べる場合はスープとお茶が飲み放題であることが一般的だ。そして、店内で食べるのか弁当のように紙箱に詰めてもらってテイクアウトするのかも選択できるシステムの店がほとんどだ。

 だからなのか、こういう類の料理の総称は便當(piān-tong:ペントン=弁当)と呼ばれることもある。「今日の昼はどこどこの店で便當を食べた」といった会話もよく聞く。また、
滷肉飯
(ló͘-bah-pn̄g:ロォバァプン)のように本来は小さいお椀のライスの上に豚肉のそぼろがのっただけの屋台料理でも、少し大き目のお椀に入れられ、2〜3品の野菜や煮卵などの惣菜をのせて、滷肉便當(ló͘-bah-piān-tong)という名称で提供している店もある。

 肉料理の便當には豬肉(ti-bah:ティーバァッ)、
雞肉(ke-bah / koe-bah:ケェバァッ)、
羊肉(iûⁿ-bah:イウバァッ)、
鴨肉(ah-bah:アーバァッ)、
牛肉(gû-bah:グウバァッ)などが使われる。定番中の定番は炕肉飯(khòng-bah-pn̄g:コンバァプン)であろう。これは皮付きの分厚く大きい豚バラ肉をトロトロに煮込んだものがライスの上にのっている料理だ。日本式中華料理の豚肉の角煮に似ているものもある。

 この炕肉飯は台湾北部でよく使われる名称であり、南部では滷肉飯(ló͘-bah-pn̄g
:ロォバァプン)という名称が使われている。しかし、北部で滷肉飯と言ったら、脂身の多い豚肉を細かく刻み、醤油ダレで煮込んで、煮汁と一緒にお椀の中のライスにかける屋台料理のことを指す場合が一般的だ。そして、南部には肉燥飯(bah-sò-pn̄g:バァソープン)と呼ばれる北部の滷肉飯に似た屋台料理がある。肉燥飯には北部の滷肉飯よりもっと細かく挽肉状態に切った脂身の少ない肉を醤油ダレで煮込んだものが使われる。

 この炕肉飯と人気を二分するものに排骨飯(pâi-kut-pn̄g:パイクップン)がある。排骨飯は平たく手のひらぐらいの大きさの豚の排骨(骨つきあばら肉)を揚げて、ライスの上に載せたものだ。排骨の調理法は店によっていろいろだ。小麦粉を溶いたものを塗って柔らかい食感になるように揚げた排骨と、サツマイモの粉や小麦粉、パン粉などの衣を付けて油でカラッと揚げた排骨の2種類に大きく分けられる。しかし、肉を直接揚げただけの排骨もあるし、衣を付けて揚げた排骨をさらに煮込んで仕上げたものもある。

 他の豚肉料理の便當には豬跤飯(ti-kha-pn̄g:ティーカァプン=豚足)、腿庫飯(thúi-khò͘-pn̄g:トゥイコォプン=豚の後ろ脚の付け根あたりの肉)、紅糟肉飯(âng-chau-bah-pn̄g:アンツァウバァプン=紅麹入りの衣を付けて揚げた豚肉)などがある。

 鶏肉料理の便當は雞腿飯(ke-thúi-pn̄g:ケェトゥイプン=鶏の骨付きもも肉を煮たり、焼いたり、揚げたものがご飯に載っている)に人気がある。鶏肉でなくアヒルのもも肉をつかった鴨腿飯(ah-thúi-pn̄g:アートゥイプン)も人気で、雞排(ke-pâi:ケェパイ=チキンカツ)
や煎雞腿(chian-ke-thúi:ツェンケェトゥイ=チキンソテー)を使った便當もある。

 魚を使った便當は鱈魚(soat-hî:ソアッヒィ=たら)や蜇魚(thē-hî:テェヒィ=まんぼう)、花飛(hoe-hui:ホエフイ=さば)、塗魠魚(thô͘-thoh-hî:トォトーヒィ=さわら)などをフライにしたものが多いが、虱目魚(sat-ba̍k-hî:サッバッヒィ=ミルクフィッシュ)などの白身魚を蒸したり、煮たりしたものを使った便當や秋刀魚(台湾語発音はsàm-mà:サンマ)などの焼き魚を使ったものもある。また
蝦卷(hê-kńg:ヘェクン)と呼ばれる魚やイカのすり身にクワイやエビを混ぜて、湯葉で巻いてから揚げた惣菜を使ったものや、小卷(sió-kńg:シオクン=けんさきいか)
などの海鮮を使ったものもある。

 これら便當の値段は地域やお店にもよるが、だいたい50元〜100元(日本円で約175円〜350円)ぐらいだ。便當の数量がまとまっていて、電話注文をしたら、バイクで配達してくれるお店もあり、特にオフィス街ではこういうシステムを採用している店が多いし、こういうお店を宣伝するビラ配りをしている人達もよく見かける。


編集部より:「阿彰の台湾写真紀行」では、台湾在住のデザイナー、『台北美味しい物語』著者である内海彰氏が撮影した写真とエッセイをお届けします。写真は末尾のリンクから取得することができます。


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