直轄市の6市長、16の県・市長の首長選や直轄市と県・市の各議会議員など9つの選挙を同時に行う。有権者は約1,920万8,000人(中央選挙委員会発表)。
この統一地方選挙は、2019年の年が明ければ2020年1月に予定されている総統選挙まで他の選挙はなく、統一地方選の結果がそのまま総統選挙に反映される可能性が高いことから、「総統選の前哨戦」と位置づけられる。
また、今回は、福島など日本5県産食品の輸入規制継続、「台湾」名義での東京五輪への参加申請、同性婚容認などの賛否を問う10の公民投票も同時に行われ、この結果も注目されている。
「公民投票法」の改正により、今回から年齢が引き下げられて「18歳以上」となったことから有権者約60万人が加わり、有権者総数は約1,980万人に増えている。
さらに、首長が替わった場合は政策が変わり、役人も一新されることから、姉妹都市や友好都市などの都市間提携を数多く締結し、多くの企業が進出している日本への影響もけっして小さくない。
そこで、本会は、4月の台湾セミナーでいち早く統一地方選挙をテーマに取り上げ、拓殖大学海外事情研究所教授で日本戦略研究フォーラム政策提言委員の澁谷司氏に「蔡英文政権と統一地方選挙」と題して話していただき、10月の台湾セミナーでも、平成国際大学教授で本会常務理事の浅野和生氏に「台湾統一地方選挙の現状と展望」と題してお話しいただいた。
このほど、澁谷司氏が「2018年台湾統一地方選挙直前の情勢」(日本戦略研究フォーラム・澁谷司の「チャイナ・ウォッチ」)を発表した。下記にご紹介したい。
なお、小見出しは本誌編集部で付したことをお断りする。
————————————————————————————-2018年台湾統一地方選挙直前の情勢政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司【日本戦略研究フォーラム・澁谷司の「チャイナ・ウォッチ」(第329回):2018年10月30日】
◆直轄市長選は民進党が現状維持の4勝の可能性
今年(2018年)11月24日(土)、台湾では統一地方選挙が行われる。2020年1月、台湾総統選挙の“前哨戦”として内外の耳目を集めている。
市長選は、市(県)議会議員選挙等と異なり、市長を1人だけ選ぶので、総統選と同じ選出方法となる。特に、台湾有権者の約70%を占める6直轄市長選挙の重要性は強調しても、し過ぎる事はない(大半の有権者は、同選挙と総統選で、似た投票行動を取る<同一の政党に投票する>傾向にある)。
この6市長選挙で、与党・民進党が過半数の4勝以上制すのか、それとも、野党・国民党が4勝以上制すのか注目される(両者が3勝3敗の場合、総統選は微妙な結果になるだろう)。
仮に、民進党が4勝すれば、蔡英文総統再選、或いは頼清徳行政院長(首相)の新総統誕生が近づく。反対に、国民党が4勝すると、再び国民党が政権に返り咲く見込みとなる。
各種世論調査から、11月の6直轄市選挙を占ってみたい。
第1に、台北市は、現職の柯文哲市長(無所属)が先頭を走っている。それを国民党の丁守中、民進党の姚文智が追う展開である。ただ、柯文哲の再選はほぼ間違いないのではないか。
第2に、新北市(かつての台北県)では、国民党の侯友宜(元?政部警政署長)が一歩リードし、民進党の蘇貞昌(元行政院長)が追っている。蘇貞昌は、苦しい戦いを強いられているのではないか。
第3に、桃園市は、陳学聖(国民党)が現市長の鄭文燦(民進党)に大きく水をあけられている。鄭文燦が圧勝する勢いである。
第4に、台中市では、現職の林佳龍(民進党)がわずかに盧秀燕(国民党)をリードしている。だが、林佳龍の逃げ切りが濃厚な情勢ではないか。
第5に、台南市(民進党の地盤)では、民進党の黄偉哲候補が圧倒的にリードし、国民党の高思博候補らの追随を許さない。黄偉哲の勝利は間違いないだろう。
第6に、高雄市では、民進党の陳其邁(かつて高雄代理市長を務める)が国民党の韓國瑜をリードしている。陳其邁が逃げ切るかもしれない。
以上をまとめると、現時点で、与党・民進党は、前回(2014年)の統一地方選挙結果と同数(4勝)の当選が期待される。
◆総統選に大きく影響する柯文哲氏の当落
もし民進党が6直轄市中、4人の市長当選者を出したとしよう。これで、次期総統選挙(2020年)で、民進党の勝利は安泰かと言えば、決してそうではない。
実は、前回(2016年)の総統選挙とは全く事情が異なるのである。その時、民進党の蔡英文、国民党の朱立倫、親民党の宋楚瑜の3候補が出馬した。
後者2人は、国民党系(宋楚瑜が多少、朱立倫の票を奪った)だったが、蔡英文候補としては、比較的楽な戦いだった。
ところが、次期総統選挙で、よしんば柯文哲(元来、民進党に近かったが、最近、中国共産党に近づき「親中派」へ鞍替えした模様)が市長職を投げ打って立候補したら、柯に民進党票がかなり侵食されるだろう。
民進党の票(蔡英文票或いは頼清徳票)が、無所属の柯文哲に大量に流れる恐れがある。そうなれば、国民党候補(朱立倫か?)が“漁夫の利”を得て、当選する公算が大きいだろう。つまり、2000年の総統選挙と“逆パターン”が起こる可能性を排除できない。
当時、もしも国民党の連戦と宋楚瑜が組んで出馬していれば、民進党の陳水扁は、彼らには絶対勝てなかっただろう。その頃、まだ国民党の票が約6割、民進党のそれは約4割程度しかなかったからである。
ところが、李登輝総統(当時)が国民党と連戦と宋楚瑜のペア成立に反対した。そこで、宋楚瑜は無所属で出馬せざるを得なかったのである。そのため、国民党の票が完全に二分された。
選挙当日、最終的に、陳水扁が宋楚瑜に競り勝った(連戦はすぐに脱落)。だが、勝利した陳水扁の得票率はわずか39.3%だったのである。
◆他の県市長選は民進党5勝、国民党8勝か 彰化県と嘉義市は激戦
最後に、他の次期県市長選挙を一瞥しておこう。
おそらく民進党が5勝(基隆市の林右昌、新竹市の林智堅、雲林県の李進勇、嘉義県の翁章梁、屏東県の潘孟安)、国民党が8勝(苗栗県の徐耀昌・南投県の林明湊・花蓮県の徐榛蔚・台東県の饒慶鈴・澎湖県の頼峰偉・<福建省>金門県の楊鎮浯・連江県の劉増応)、その他が1勝(民国党の徐欣瑩)だと予想される。
彰化県では魏明谷(民進党)と王恵美(国民党)が、嘉義市では黄敏恵(国民党)と●醒哲(民進党)が激しく争い、予断を許さない状況にある。(●=サンズイに余)