*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部で付したことをお断りします。
◆寄付も有り難いが、こんなときだからこそ花蓮に来て欲しい
前回のメルマガでお伝えした通り、今回、花蓮で発生した地震の被害に関しては、迅速な死者及び行方不明者の捜索活動が行われ、結果的に死者17人、負傷者280人超を確認して、わずか5日間で捜索打ち切りとなりました。
東日本大震災のときも、熊本地震のときもそうでしたが、地震が発生した後に必ずやってくるのは風評被害です。専門家のなかには、放出されていないエネルギーがまだあると指摘する人もおり、地元の人々はこれ以上誇張しないで欲しいと望んでいます。すでに、春節を目前にしての地震により、宿泊施設や列車などの観光施設へのキャンセルは9割に達し、現地の観光業の損失は6月までで、少なくとも80億台湾元(約296億円)に上ると試算されているそうです。
現地では、ある宿泊施設が一晩千元(約3,660円)にまで値下げしているにも拘わらず、「地震があってどうせ客が来ないんだから、もっと安くしろ」と言ってくる不届き者もいるようで、宿主は「そんなヤツは来なくていい」と立腹しているとのニュースもありました。
そんな状況の中、現地在住の日本人観光ガイドなどは日本人の観光客は、寄付も有り難いが、こんなときだからこそ花蓮に来て欲しいと日本にラブコールを送っています。花蓮は観光が重要な産業のひとつですから、観光へのダメージをいかに早く脱却するかは非常に重要です。
◆中国がいかに日台関係に横槍を入れようとも台湾人はしっかり見ている
こうした天災があるたびに日台が相互協力しあう姿は、中国には目障りなことに映るという話も先週しました。中国の歯ぎしりは、捜索が打ち切られ、台湾のメディアも地震のニュースは一段落し、ニュースのメインは春節の話題に移行してからも続きました。花蓮県は、中国が友好都市として挙げている数少ない国民党系の街です。だからこそ、地震の第一報が流れた直後には支援の申し出をしました。以下、報道を引用します。
<地震発生翌朝の7日午前、中国で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室は花蓮県の県長に直接電話し、『両岸(中台)の同胞の血は水よりも濃い』と救援隊の派遣を申し出た。中国政府は16年5月の蔡政権発足後も、花蓮など国民党系の8県・市には観光や農産品購入で優遇策を取っている。
これに対し、蔡政権は『海外の援助は必要ない』と謝絶したが、日本からの救援隊は『台湾より高性能な生命探知機があり例外だ』として受け入れを表明、東京消防庁や海上保安庁などの専門家が花蓮を中心にビル倒壊現場で人命探査装置による捜索活動を始めた。>
とにかく、この態度が気に入らなかったのでしょう。捜索活動の動画を都合のいい部分だけ抜き取って、日本を批判するようなフェイクニュースまででっち上げる熱の入れようです。以下、報道を引用します。
<2月13日、中国の環球時報(電子版)は、台湾東部地震の被災地救援で、日本から派遣された捜索チームが『危険な場所には入れない、とたびたび訴えていた』と伝えた。(中略)
環球時報は「日本チームは8日昼に現地に到着したものの、積極的に捜索に加わらず、10日は任務を切り上げて台湾を離れた。日本側は『機材を提供し、台湾の人たちに使い方を指導しただけ』と説明している」と報じた。
さらに、中国のテレビ局・東南衛視の記者は、ネット上に「台湾の消防隊が日本の救援チームに『あなたたちの機材の使うのに私たちは慣れていない。現場に入ってくれないか』と頼んだにもかかわらず、日本側は『危ない場所には入れない』と拒否した」と伝えた。
これを受け、環球時報は「台湾の与党系メディアは日本に気を使い、一斉に『台湾側の人員不足で、日本の好意を断らざるを得なかった』とかばい始めた」と報道している。
なお、中国版ツイッター・微博(ウェイボー)では、日本側が台湾側とのやり取りで「危険な場所には入れない」と話している様子を撮影した動画が多数転載されている。>
安倍首相のお見舞いメッセージにケチを付けて、「蔡英文総統閣下」を削除させただけでは気がすまず、こんなデタラメまで流すとはあきれてモノが言えません。賢明な読者は、危ない地域には捜索に入れないとの決断もあって当然だとのコメントを残していますが。こんな不毛なことをする労力のほんの少しでも、花蓮の観光業回復に役立てて欲しいものです。
また、台湾で行われた今回の地震に関する調査で、地震への迅速な対応が功を奏して、「82.9%の人が『政府による救援活動に満足している』と回答し、73.4%の人が『蔡英文総統の対応を評価する』と回答した」そうで、蔡英文総統の下がり気味だった人気は持ち直したようです。同じ調査で、「『最も思いを寄せてくれた国』は日本が75.8%となり一番高かった。次いで中国だったが、1.8%にとどまった」ということです。
中国がいかに日台関係に嫉妬して横槍を入れようとしても、人々はそれほど馬鹿ではありません。問題の本質はしっかりと見ているのです。
◆羽生結弦選手を褒めちぎる一方で中国人審判の「不正採点疑惑」も
そんな中国ですが、平昌オリンピックでの羽生結弦選手に対してだけは特別らしく、今回の連覇については多くの中国メディアが絶賛しています。国営の中央テレビの女性解説者などは、羽生選手の快挙に自作の漢詩を贈ったそうです。
中国での羽生選手への賛辞は実に大げさで、日本でも見ないような報道ぶりです。以下に少し引用しましょう。
<遼寧晩報は「次元の壁を突破する美しさ!」と評し、これまでの紆余曲折のスケート人生を紹介した。
信息時報は「羽生結弦、プルシェンコのように強く」と題した記事で、2014年の中国杯の試合前の練習中に中国選手と激突して負傷しながらも強行出場して2位になったことに触れ、「ソチ五輪の金メダリストである羽生は、このような大会で何かを証明する必要はなかった。しかし、彼は勇気と意志を持ってこの試合を完成させ、多くの観衆を魅了した。名声を手にしても依然として謙虚で礼儀正しい。これほど素晴らしいアイドルを愛さずにいられるだろうか」などと称えた。
新京報も同じく、中国杯での激突事件に触れ「熱血少年」と評し、東日本大震災の被災地の人々との交流、母親やブライアン・オーサーコーチとの絆などを紹介している。
新浪体育は「純白の戦場、君こそ王者だ──羽生結弦」と題した記事で、「五輪は4年に一度。すべてのフィギュアスケート選手が追い求める舞台。五輪の金メダルは無数の選手たちが描く究極の夢。そして、五輪連覇はかつて世界の頂点に立った者だけが挑める神聖な戦い。この60年余りの間、多くの人が挑戦しながら誰一人成功しなかった。そして今日(17日)、それを達成した者がいる。彼こそ羽生結弦だ!」と情感豊かに伝えた。>
羽生選手を褒めたい気持ちはとてもよくわかりますが、歯の浮くような言葉のオンパレードで、どうもウソっぽい印象を持ってしまいます。
中国のニュースは、前述したように都合のいい部分だけを抜き出してフェイクニュースをでっち上げることばかりしているから、そうした先入観が賛美の記事もウソっぽく見せてしまうのでしょうか。そもそも、中国共産党に牛耳られたメディアが発するものに真実を求めるのは間違いなのでしょうが。
その一方で、中国人審判の「不正採点疑惑」が持ち上がり、世界的な話題ともなっています。4位の中国人選手に対して、公正とは言い難い高得点をつけ、2位の宇野昌磨選手や3位のフェルナンデス選手に対しては審判員中で最も低い評価を下したというものです。まあ、羽生選手の過剰な持ち上げ方に比べれば、こちらのほうが「中国人らしい」といえますが。
◆簡単には信用できないのが「笑裏蔵刀」の中国
台湾人は、中国政府のウソに慣れているため、簡単には騙されません。あの馬英九元総統でさえ、中国の対応に慎重になったことがありました。
2009年8月、台湾中南部を襲った台風8号の救援活動のときです。この時の被害は大きく、政府発表によると681人が犠牲となりました。支援のためという名目で中国側がヘリコプターの提供を申し出ましたが、これを機に「軍の関与」を懸念する台湾政府が返事を延ばしたと、当時は報道されました。
結局このときは、米軍が中国の許可を得て、支援物資を積んだ輸送機を台湾に飛ばしたのでした。もちろん、中国のメディアは軍の関与など考え過ぎで馬鹿げていると言いましたが、台湾メディア界の友人によると、中国が救護という大義名分のもとに中国軍が台湾に進駐すると予測した米軍は、先手を打って中国の許可を経て台湾入りしたのではないかということでした。
事の真偽は分かりませんが、このようなことがおおいにあり得るのが中国です。中国はなんでも政治利用することを台湾はよく知っています。だからこそ、中国からの申し出を軽々と受け入れなかったのです。
昔から中国人は「幸災楽禍」といわれるように、他人の不幸を喜ぶ民族です。春秋時代から、すでに天災を政治利用してきました。「天災人禍」を利用するやり方は、中国の伝統文化と言っていいでしょう。
東日本大震災の後、日本のスーパーから東北産の食品が消えたかわりに、それ以前に「毒餃子事件」で消えていた中国産の食品が棚に並ぶようになりました。風評被害を煽って東北産の食品を売れないようにしてから、中国産を登場させる。この一連の流れは、中国の仕掛けた戦略ではないかと私は睨んでいます。
また、東日本大震災のために台湾から集まった200億円の義援金は、台湾赤十字経由で現地に届けられましたが、台湾赤十字は中国に牛耳られている組織です。そのため、善意の義援金が全額日本に渡ったのかどうか、真相は藪の中です。
中国には「笑裏蔵刀」(笑顔の裏に刀を隠す)という言葉がありますが、日本叩きにせよ、日本賛辞にせよ、簡単には信用できないのが中国なのです。