AIT台北事務所は、日本の日本台湾交流協会台北事務所に相当する実質的な大使館だ。現在の台北事務所長(駐台大使に相当)はキン・モイ氏。
また、日本の日本台湾交流協会の台湾側のカウンターパートが台湾日本関係協会であるように、AITの台湾側カウンターパートは北米事務協調委員会。また台湾日本関係協会が日本に台北駐日経済文化代表処を置いているように、台湾も米国に駐米台北経済文化代表処を置いている。
キン・モイ氏の前の前に台北事務所長をつとめたビル・スタント氏は、台湾安保協会(陳重光理事長)が9月16日に開催した国際シンポジウム「アジアの不確定時代と台湾」に登壇し、「トランプ政権のアジア安全戦略:断続的な政策と不安定な未来」と題して基調講演を行い、蔡英文政権に対し「台湾は自己防衛力を早く改善すべきだ」と警告したという。
米国在住のアンディ・チャン氏がスタントン氏の講演を読んで非常に感銘を受け、その発言を詳しく紹介するとともに「蔡政権は現状の緊急事態について日本と軍事、経済、防衛の合作を協議すべき」「国防部長は早急に更迭すべき」など4点を提言している。
—————————————————————————————–【Andyの国際ニュース解説No.660「アジアの不確定時代と台湾」:2017年9月20日】
*原題「アジアの不確定時代と台湾」を「スタントン元AIT台北事務所長が蔡英文政権へ重要警 告」に変更したことをお断りします。
本月16日、台湾安保協会は「2017年、アジアの不確定時代と台湾」と呼ぶ国際討論会を開催した。この討論会で米国在台協会(AIT)の元処長(駐台大使に相当する)のBill Stanton(中国名は司徒文)は、「トランプ政権のアジア安全戦略:断続的な政策と不安定な未来」と言う主題で講演を行い、「もしアジアで武力衝突が起きた場合、台湾はアメリカの支持を求めることになるが、同時に台湾側が国家安全政策と自己防衛の決心を示すことが重要である。台湾の自己防衛力と人民の危機意識は十分かと問えば二つとも足りない」と喝破した。
スタントン氏はトランプ政権の現状不確定を指摘しながら台湾の自己防衛力や台湾人民の自己防衛に対する認識不足に警告を発したのである。
司徒文(ビル・スタントン)と言う人はまことに異色の人物で、米国の外交官としてオーストラリアと韓国の大使館で副館長を務めたほか、中国、エジプト、レバノンなど諸国の大使館で勤務した経歴を持ち、更に国連政治事務主任を務めた経歴もある熟練外交官である。それなのに彼は2009−2012年に台湾でAIT処長の任期を終えた後はアメリカに戻らず台湾に永住を決心し、清華大学の「アジア政策中心主任」を務め、今では清華大学の副校長まで昇進した人物である。外交官の経歴を捨てて台湾に永住するアメリカ人は二人と居ない。
●スタントン氏の国際現状分析
講演でスタントン氏はアジアの現状と台湾の関係について以下の諸点を指摘した。
まず、オバマからトランプ政権に変わり、アメリカのアジア関与は以前より積極的になったが、トランプ政権の外交政策は今も不安定要素が多く、閣僚人事の任命も多くが未確認であり、内部分裂や不確定要素も多い。
特に最近の北朝鮮の挑発についてトランプは武力と外交交渉の両面を進めているが米国と北朝鮮の関係はどんどん悪化している。トランプは中国が北朝鮮問題で強い態度を取ることを求めているが中国の反応は曖昧なので米中関係も不安定である。つづいて国連安保理会議では全員一致で北朝鮮の経済封鎖を決定したが、ロシアと中国の態度は明確でない。
このような状況は台湾にとって良いことではない。トランプ大統領は台湾の安全を保障したと言えるが、中国との関係が曖昧なので、アメリカが米中関係において台湾を「交渉の駒」とする可能性もある、その反面では、中国が台湾に圧力を加えることによってアメリカに対抗することも考えられる。
このような現状において台湾側はどれだけ準備しているだろうか。軍事力の不安定、殊に台湾の予備役軍人の徴用は非常に不明瞭である。政府は軍事予算を増加して最新武器を購買しているが、武器を扱う兵員はこの数年減少している。新式武器があっても兵の訓練が不足していては戦えない。予備軍人の準備はどうなのか。台湾は自己防衛力を早く改善すべきだ。
●蔡英文政権に対する警告
私はスタントン氏の講演を読んで非常に感銘を受けた。台湾を愛するアメリカの元外交官が国際討論会の機会を利用して台湾の現状に警告したのである。蔡政権はこの機会に国防外交の諸問題を再検討すべきである。
外交官で駐台(AIT)大使を務めたリチャード・ブッシュとかダグラス・パールなどは、退任すればワシントンの国際問題研究ファンドなどで顧問となって過去の経験を生かして活躍する。だがスタントン氏は彼らと同じような経歴を持ちながら、アメリカに戻らず台湾で台湾の為に努力している。台湾政府は彼の警告を有難く受け止めるべきである。殊に現在は北朝鮮や南シナ海などの不確定な状態に山積しているのに蔡政権は現状維持で何もしない。このような堕落した政権ならアメリカや日本は台湾に頼れない。
正直言って、オバマは孤立主義よりも不干渉主義だった。国内でも黒人優先のみの無能な大統領だった。もしもオバマの8年間にアジアで武力闘争が起きていたら、オバマは台湾を放棄したかもしれないし、日本の安全保障さえ援助しなかったかもしれない。オバマは外国の為にアメリカ人の血を流すことに反対だった。だからオバマの中東政策とは「民主主義を推進し武器を提供する」ことで中東諸国の革命を陰で援助し、そのためにベンガジ事件が起きたのだ。
だが、トランプのアメリカファーストは孤立や不干渉ではなく、アメリカの国益優先のためなら積極的に諸国に干渉し取引をする。つまり、トランプのアジア政策は中国の太平洋進出を阻む重要拠点である台湾を放棄することはない。
だがスタントン氏が指摘した通り、トランプのアジア政策がどうであっても台湾は自己防衛力を増強しなくてはならない。これが講演の重点なのだ。
●蔡英文は何をすべきか
蔡英文が政権を取ってから1年半たった。蔡英文は就任して以来、中国の台湾統一の圧力に「我慢と無抵抗」を維持してきた。国内では二大政党を維持し、外省人を起用してきたので蔡英文の支持率は一時35%まで下落した。先週になって内閣改造と行い、台湾人を行政院長に起用したので蔡英文の支持率は45%まで回復した。
しかし、軍事と外交は今も外省人を起用し、司法部も山積した違法や不正を糾すことが出来ない、つまり軍事、外交と司法は国民党政権のままと言える。蔡英文が国民の期待に応えるには以下の諸点を早急に実施すべきである。
第1に、台湾は政治、外交、司法の方面で現状維持を止めるべきである。北朝鮮が水爆実験を実施しミサイル開発を進め、米国と北朝鮮の関係が悪化して戦争になったら日本と韓国だけでなく、中国と台湾も巻き込まれる時代に現状維持で太平の夢を貪ることは許されない。蔡政権は現状の緊急事態について日本と軍事、経済、防衛の合作を協議すべきである。
第2に、軍隊の戦力は軍備の数量でなく兵の戦闘能力である。最近数か月だけでも台湾でミサイル不発や軍艦の衝突など事故が相次いだ。中国に機密を売る事件が頻発する現状で、「私の自己評価は百点満点です」と国会で自慢した国防部長は早急に更迭すべきである。軍の指導部を外省人に頼っている台湾は、中国と戦争になれば必ず内部崩壊する。
第3に、兵員の戦闘能力は不断の訓練と自己防衛の決心である。これまで台湾の予備軍の徴用問題を提起した人は居なかった。スタントン氏はこの問題を指摘したのである。台湾有事の際に、政府が後備軍人の徴用を実施したらどれだけの兵力が集まるのか。軍部はこのことを検討すべきである。
第4に、自己防衛とは、軍人のみならず全ての国民が台湾を愛し防衛する決心を持たなければならない。台湾で中国の統一や民族自決の言論に一致が見られないのは、蔡政権の責任である。国民の愛国教育とメディアの売国言論を早急に改善すべきである。
以上の4点は一朝一夕に達成できることではない。今すぐ着手すべきだ。蔡英文の任期はあと3年足らず、惰眠は許されない。