時局コメンタリー〈1329号〉 より転載
台湾の声編集長 林 建良
台湾人意識の高揚と選挙結果の乖離
1月14日に行われた台湾の総統選挙において中国寄りの馬英九氏が勝
利し、民進党の蔡英文氏は敗北した。これで馬政権の政策が支持されたと
解釈するのは些か短絡的だと言える。2008年に馬政権が発足し、台湾の
いたる所に中国の存在が目に見えるような形で現れた。ところ構わず大声
で騒ぎ、ゴミを捨て、喫煙する傍若無人な中国人観光客を目にしない日はな
い。それゆえ中国との距離が縮まれば縮まるほどに台湾人の心が中国から
離れていく皮肉な現象が起こっている。世論調査では法理独立、もしくは実
質的独立の現状維持を支持する台湾人が8割を超え、中国と統一しても良
いと答えた台湾人はわずか数パーセントだった。それならば何故、台湾人意
識の高揚は蔡英文氏を勝たせる事が出来なかったのか。
恐怖心を利用した馬英九
中国要素以上に選挙結果へ影響したのが台湾人の恐怖心であろう。今回
の選挙は馬英九政権が2ヶ月も前倒して実施したのだ。国民党政権が敗北
すれば5月20日まで政権交代の権力空白の期間が4ヶ月間にも及び、その
間の政治不安は充分予想される。何故ならば国民党がすんなりと下野してく
れるとは誰一人として思っていないのだ。実際に2004年の総統選挙に敗北
した国民党は、6ヶ月もの間、騒動を起こして台湾を恐怖と不安に陥れた前
科がある。今回の選挙も国民党が負けて政権を渡さないと言い出せば、そ
れ以上の混乱になるだろう。この恐怖は強引に選挙日を1月14日にされた
時から台湾人に重くのしかかっている。「恐怖心を利用する不道徳なやり方
だ」と国民党寄りの政治評論家南方朔氏も見かねて厳しく批判するほどだっ
た。
日本版台湾関係法を制定すべき
45%の票を得た蔡英文氏の戦いは孤立無援の中で善戦したと評価する
べきものだ。今回の戦いは、民進党対国民党の戦いではなく、台湾対中米
連合体との戦いなのだ。中国の意向に沿ったアメリカは、陰に陽に民進党
陣営の足を引っ張り、国民党陣営を応援した。それによって、民主的な台
湾は独裁国家の中国に押し付けられる形となり、台湾は中国に引っ張られ
るスピードが一層加速する。それを食い止める力は日本が持っているのだ。
台湾人は日本との関係強化を強く望んでいる。この危機的状況だからこそ、
日本も自国の安全保障の観点からイニシアチブをとるべきではないだろう
か。その第一歩として台湾との関係強化に法的根拠を与え、是非とも準国
と国との関係を結べることの出来る日本版台湾関係法を制定してもらいた
い。
(りん・けんりょう)