【論説】台湾の運命を占う「五都選挙」

【論説】台湾の運命を占う「五都選挙」

(「時局コメンタリー」より転載)

「台湾の声」編集長 林 建良(りん・けんりょう)

守りの国民党と攻めの民進党 

11月27日に予定されている台北、新北、台中、台南、高雄の五つの行政
院直轄市の市長選挙が早くも白熱状態になっている。なぜ地方選挙にすぎ
ない市長選がこれほど注目されたのか。一言で言えば、選挙の結果によっ
て馬英九政権下での中国傾斜の流れが変わるか否かの鍵を握っているか
らだ。台湾では南部ほど台湾人意識が強く独立志向も強い。一方北部ほど
国民党支配下の中華思想強化教育に強く影響され、現状の中華民国体制
で安住する志向が強い。それを反映しているのは民進党政権下の台南と高
雄と国民党政権下の台中、台北と新北である。こうした現状の中、国民党は
現有の3つの首長ポストを死守する姿勢で、対する民進党は現有の二つの
首長ポストを固めながらそれ以上のポストを奪取する気勢で臨んでいる。

勝敗の鍵は中国化に対する危機感

この「五都選挙」の有権者数は台湾全国の有権者数の過半数を占めてい
るだけでなく、台湾の経済政治に対する影響は絶大で有権者数以上の力を
持つ。つまり、この勝敗の鍵は台湾人に中国化の危機感を持つかどうかに
よるものだ。民進党が現有のポストを上乗せができるなら、国民党政権が進
めている中国化にノーを突きつけることになり、馬英九の総統再選が危うく
なる。その逆なら馬英九政権の中国傾斜路線が正当化されることになり、亡
国路線がいっそう加速するのであろう。こうした国の運命をも左右する選挙
だからこそ、両陣営とも必死だ。国民党の手法は利益と恐怖による相手陣
営の分裂を誘導する策略である。それに対して李登輝元総統が「馬英九を
捨て、台湾を守れ」「五都を全勝せよ」と呼びかけ、台湾人の危機感を喚起
した。

台湾と中国との戦いでもある地方選挙

この李登輝氏の呼びかけで民進党の士気がかなり高まり、南部二都市で
は優勢を保っている。それに対し、国民党政権下の台中市では相次ぐ暴力
団関係者による銃撃事件などの治安問題で支持率が低下しており、台北市
では現市長の「花の博覧会」の花の購入価額の水増し不正疑惑が持たれ、
苦戦に強いられている。新北市でも蔡英文民進党主席が善戦しており、国
民党の朱立倫元副行政院長と互角の戦いになっている。 しかし、対岸の中
国も手を拱いていない。200万人に上る中国駐在の台湾人ビジネスマンと
その家族を人質にし、利益と恐怖による誘導作戦はすでに始まっている。こ
の選挙戦は2012年の総統選の前哨戦である一方、台湾と中国との戦いで
もあり、台湾の運命の転換点になることは間違いないのだ。


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