【宗像隆幸】台湾の総統選挙

【宗像隆幸】台湾の総統選挙

時局コメンタリー〈1304号〉 より転載

アジア安保フォーラム幹事  宗像隆幸

親中国派と台湾独立派の対決

 台湾の総統選挙は、来年1月14日(土)に立法院(国会)選挙と同時に行な
われる。総統候補は、中国国民党が現総統の馬英九(61)で、民主進歩党は
蔡英文(55)女性である。親中国派の馬英九が当選するか、台湾独立派の色
彩が強い蔡英文が当選するかで、台湾の将来は大きな影響を受けよう。馬
総統は中国と経済交渉などは行なうが、政治交渉は行なわないとして、「統
一せず、独立せず、武力を行使せず」をスローガンとしているが、去る10月
17日に「中国と平和協定を締結することも考えたい」と話した途端に人気が
急落して、両者の人気は伯仲するようになった。蔡英文が「台湾の主権を危
険にさらす」と馬英九を批判したように、台湾人の9割は中国との統一に反
対だから、平和協定に危険性を感じた人が多かったのである。

政権防衛に術策を弄する馬英九政権

 台湾では蒋介石・蒋経国父子が絶対的な権力者だった時代が42年間
も続いたので、その後遺症として現在も国民党が官僚機構と軍隊を支配し
ている。2000年から8年間、陳水扁が総統だったが、民進党は一度も立法
院で過半数を取れなかったので、やりたいことを殆ど実現できなかった。国
民党は2度と政権を奪われないために種々の術策を弄している。一例をあ
げると、これまで3月に行なわれていた総統選挙を旧正月前の1月14日に
決めたことである。台湾では選挙は本籍地でやらなければならないし、都市
で働いている人達も旧正月は故郷で過ごす。民進党を支持する人であって
も、すぐ故郷に帰るのだからと、選挙に帰らない人が増えるだろう。国民党
は支持者に旅費から小遣い銭まで配るから、その心配はないのである。

台湾人の意識変化は蔡英文に有利

 中国には何千社もの台湾企業が進出し、百万人もの台湾人が中国で働
いているので、中国が支持する馬英九に投票する台湾人が少なくないので
あるが、台湾人意識の変化は逆に蔡英文に有利に働いている。日本統治
下で大部分の台湾人は自分を日本人と信じるようになっていたが、蒋政権
下で殆どの台湾人は自分を中国人と思うようになった。しかし、蒋政権は中
国との交流を禁じていたが、李登輝政権以来、多くの台湾人が自分の目で
中国を見て、「自分は台湾人であって、中国人ではない」と思うようになった。
現在の台湾では「自分は中国人である」と思っている人は10数%に過ぎない。
蒋政権と一緒に台湾にやって来た中国人は台湾の人口の約13%だから、
殆どの台湾人が中国人意識を失ったのである。

                   (むなかた・たかゆき)


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