問している。中国はかねて「祖国分裂主義者」と非難するダライ・ラマを台湾が受け入れ
たことで、さまざまな圧力を加えている。
経済誌NNAが伝えるところによれば「中国側は1日から開催する予定だった中台証券
市場についてのフォーラムで、出席予定だった中国人民銀行(中央銀行)の蘇寧・副行長
ら金融代表団の訪台を急きょ取りやめた。フォーラムは1週間の延期が決まった。上海市
党委員会の楊暁渡・常務委員が率いる訪台団も先月30日からの訪問を急きょ取り消し。4
日訪台予定だった南京市の朱善ロ(王へんに路)党委書記の一行も延期。山東省済南市の
張建国市長率いる100人規模の今月の訪問もキャンセルが決まった。先月31日には、直行
定期便の祝賀行事が中国側では控えられ、6日就航する中台初の客船フェリーも記念行事
は取りやめとなった」という。
歴史教科書問題が起こったときに、中国はやはり修学旅行や経済団体の訪日などを取り
止めることで圧力をかけてきたことを思い出させるが、今回のダライ・ラマ法王の訪台を
受け入れた台湾政府に対し、中国政府は「3つのノー」を要求、台湾政府はそれを呑んだ
という。それは「(1)記者会見なし、(2)与党、国民党幹部とダライ・ラマの会談なし、
(3)講演なし─の3点」だという。
これでまた思い出されるのが、李登輝元総統が2001年(平成13年)4月や2004年12月に
訪日したとき、日本政府が李元総統に呑ませたという訪日条件だ。
2001年は心臓病の治療を目的としての訪日だったが、それでも、当時の槇田邦彦・アジ
ア大洋州局長は「こんなことしていたら、北京の怒りを買って、日中関係はメチャクチャ
になる。日本の国益にとって、これは、大損失だよ。中国がこれに黙っているはずがない
だろう」(「週刊文春」平成13年5月17日号)と述べたことがあった。
2004年12月来日のときは、当時の王毅駐日大使が竹内行夫・外務事務次官に対してビザ
発給方針の再考を求め「李登輝は中国を分裂する方向に狂奔している代表人物。その人物
を日本に受け入れることは『一つの中国』政策に反する」と批判。中国外務省も李前総統
へのビザ発給方針の撤回を要求した。
このとき、中国は李元総統を「トラブル・メーカー」とか「戦争メーカー」と罵ったこ
とも思い出される。
そこで、当時の小泉純一郎首相は細田博之官房長官を通じ、李元総統へのビザ発給につ
いて「年末年始の純粋な観光目的の家族旅行をしたいということだ。何ら政治活動をする
ものではないと理解し、ビザを発給する方針だ」と発表するも、折衷案として日本政府は
李元総統に対し、訪日条件として(1)記者会見しない、(2)講演しない、(3)政治家
と会わない、(4)東京訪問は認めないという4つの条件を付けたのだった。
今回、中国が台湾に突きつけた条件と、当時の日本が李元総統に突きつけた条件はあま
りにも酷似している。いずれも、李元総統やダライ・ラマ法王の影響力を極力そぎたいと
いう中国政府の意向に屈した措置だった。
このとき日本李登輝友の会の小田村四郎会長は政府に対し、すでに私人となっている李
元総統の訪日に対して不当な条件をつけるべきではないとする要望書を送達した。
しかし、3年後の2007年5月、李元総統が奥の細道探訪のために訪日したときには、昨日
の本誌でも伝えたように、安倍晋三首相の決断により「政治家と会わない」という条件以
外はすべて撤廃され、2008年9月の沖縄訪問では、白昼堂々と仲井眞弘多・知事や高嶺善
伸・県議会議長などの政治家と昼食を食べながら尖閣諸島の日本領有論を話し、「政治家
と会わない」という条件も撤廃されたのだった。
この変化は、台湾の民主化やアイデンティティの高まりと無縁ではないし、中国による
このような外圧を内政干渉とする日本の世論や、「自由と繁栄の弧」を掲げて価値観外交
を進めて媚中外交からの脱却をはかった政府の対中関係転換政策に拠るところを多として
いよう。
5年前の日本とよく似た場面に遭遇した台湾は、果たしてこの難局をどう乗り切るのだ
ろうか。
昨日も書いたように、台湾は中国の唱導する「中華民族」幻想から目覚めるべきときで
あり、多くの犠牲者を出した台湾八八水害を、いかにして対中関係の転機とすべきかを真
摯に模索すべきときであろう。
(メールマガジン「日台共栄」編集長 柚原 正敬)
ダライ訪台「三つのノー」 中国への刺激回避で一致
【9月1日 中国新聞】
【高雄共同】チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の訪台をめぐり、記者会見の見
送りなど「三つのノー」を中国が台湾側に確約させていたことが1日、関係者の話で分か
った。ダライ・ラマ訪問をめぐり中国を過度に刺激しないことで中台双方が一致した舞台
裏が浮き彫りになった。
ただ、中国は中台間の「経済協力枠組み協定」の協議や、双方の交流窓口機関トップの
会談開催などについては「事態の展開を注視する」と態度を保留、ダライ・ラマの言動な
どを見守っている。
「三つのノー」は(1)記者会見なし(2)与党、国民党幹部とダライ・ラマの会談なし(3)
講演なし─の3点。
国民党の馬英九政権は訪台について8月26日、約5時間にわたる対策会議でビザ(査証)
発給を決定。ダライ・ラマ関係者らによると、馬政権はダライ・ラマ側に条件として、中
国を怒らせたり馬政権を困らせないことや、政治問題を持ち出さないことをのませた。
だが国民党が先週末、訪台の対応説明のため党幹部を北京に派遣すると、事態は急変。
関係者によると中国は訪台に「いかなる形式でも断固反対」と強硬姿勢を示し「三つのノ
ー」を条件として要求。これが守られれば、馬政権と国民党への批判は控えると確約した
という。
馬総統や国民党幹部らが「会う予定はない」と相次いで表明し、記者会見も急きょ中止。
講演会場も1万人収容可能な施設から定員約500人の場所に変更された。台湾総統府はすべ
ては「ダライ側の決定」と強調。国民党幹部は「コメントできない」と話している。
台湾滞在中のダライ・ラマは、訪問の目的について台風8号の被災者慰問とし「政治は
無関係」と繰り返し強調している。