第15回目となる日本李登輝友の会の「台湾李登輝学校研修団」は、5月7日から11日の4泊
5日の日程で行われ、5月16日から本誌で本部事務局員の佐藤和代さんによるレポートを断
続的に掲載してまいりました。
事情により中断しておりましたが、一昨日から再開しました。
なお、次回の第16回台湾李登輝学校研修団は、11月3日(木・祝)〜7日(月)に実施す
る予定です。近々、ご案内いたします。ふるってご応募ください。
◆ 第4日目(5月10日) 黄智慧先生「台湾の原住民」
この日3番目の講義は黄智慧先生。黄先生はタイヤル族の民族衣装で登場されました。先
生のご講義は、台湾の民族構成、その歴史と文化、台湾原住民の現在の状況と、李登輝総
統時代の飛躍的な改革−民族の人権保障、今後の課題にわたるものでした。
■民族承認
現在、台湾の4大民族は原住民2%、客家17%、ホーロー(福建)65%、外省人15%。3万
年前には先住民族が既におり、17世紀に客家が、1945年になって外省人が入ってきます。
台湾にいる時間が長いほど、台湾への思いが強いと言えます。
現在、中央政府が承認しているのは14民族ですが、黄先生はシラヤ族も入れて15民族と
考えているそうです。こうした承認によって、例えばツオウ族は最初285名だったものが60
0名数えられるようになるなど、そのメリットは大きいのです。
■台湾原住民の政治的発展
19世紀末以前の台湾は部族社会で、まだ国家意識がありません。多種多様な文化・言語、
祖霊信仰。社会制度も部族ごとに異なり、継承も母系、父系、双系など様々です。
20世紀前半からは日本統治下におかれ、台湾原住民は初めて国家体験をしました。日本
側もかつて統治されたことのない山の民族相手ですから、まず大規模な調査事業を行いま
した。そして日本は山深いところに住む無文字の民族の教育にも力を入れました。その成
果がその後、大東亜戦争中日本の味方となって出征したことに表れています。
前の許世楷先生のご講義では、日本の統治はあくまで本国のためであった、その結果と
過程の評価は難しいとのことでした。しかし以前、ジャーナリストの片倉佳史さんは、台
湾人はかつてなかった国家のために働くという目的と誇りを持てたのだと分析されました。
日本統治がよかったか悪かったか簡単に答えは出ませんが、人は強いもので、運命を受
け入れながら常に最良の状態を求めようとするものだと思います。
20世紀後半、1945年の日本の敗戦で日本は去り、中華民国国民党が台湾に入り、台湾人
のアイデンティティをことふぉとく奪う政策をとりました。
こうした状況を打破したのが、李登輝総統時代の飛躍的な改革です。行政組織の格上げ
をし、「行政院原住民族委員会」を設立、「原住民族」呼称に改正、台湾人アイデンティ
ティを取り戻していきました。ただそれだけでなく、李総統は戦後処理も行ったのです。
■台湾における戦争と慰霊
台湾では日中戦争、国共内線において戦没した人々は忠烈祠で手厚くまつられながら、
一方、大東亜戦争で日本兵として戦った高砂義勇隊は長い間放置されたままでした。
こうした放置された人々を慰霊しようという動きは民間レベルで起きました。「新竹北
(土甫)済化宮」はもともとは関聖帝君と観世音菩薩を主神として1961年に建立されたも
のですが、その後、台湾出身の元日本兵の霊を靖国神社から迎え、祀るようになったもの
です。
また、台中にある「宝覚禅寺」、台北の烏来郷にある「高砂義勇隊慰霊碑」があります
が、いずれも太平洋戦争の戦没者の遺族および生還者の義捐金によって建立されたもので
す。
宝覚禅寺にも高砂義勇隊慰霊碑にも李登輝元総統の揮毫「霊安故郷」が見られます。
また台湾最南端の地に建てられた英霊鎮魂の「潮音寺」もあります。バシー海峡で命を
落とした軍人や従軍看護婦は多く、奇跡的に助かった中島秀次氏が財産を投げ出し、また
寄付によって慰霊施設「潮音寺」を建てました。
台湾という国にとって戦没者の慰霊は重要な意味を占めていると分かるとともに、その
重要性をいちはやく察知した李登輝先生はやはり並大抵の方ではないと改めて思いました。
■近年改善される社会保障
近年、台湾原住民は様々な社会保障(保留地、老人年金の前倒し供給、各種奨学金・学
費免除、国会議員議席数の保障)が受けられるようになりました。
しかし、なお残された課題も多いと言えます。まだまだ法律の整備はなされず、差別も
あり、原住民文化は教えられないので歴史の認識がなされない等あります。
21世紀に入り、新国家建設に向かう台湾では民族認定にとどまらず様々な法整備をして
いかなければならないでしょう。いずれは新憲法の制定もされるべきです。
台湾新憲法では、原住民尊重を設け、多民族国家であることが明記され、各民族の民族
議会を設立、自治区を作ることが定められるべきと、黄先生は講義を終えられました。
黄先生のご講義を拝聴し、台湾に住む様々な民族がそれぞれの思いを抱きながら生活を
していて、それが長年癒されることの無い深い悲しみや苦しみならば、それをいくらかで
も軽減し、同じ故郷に住む者として共に手を携えることができたら、どんなにかいいだろ
うと思いました。
中国寄り、中国への統一へと進むことなく、台湾という国の民族であり続けるという前