第15回李登輝学校研修団レポート(6) 許世楷先生「台湾の歴史と民主化」佐藤 和代

第16回研修団は11月3日〜7日を予定

 第15回目となる日本李登輝友の会の「台湾李登輝学校研修団」は、5月7日から11日の4泊
5日の日程で行われ、5月16日から本誌で本部事務局員の佐藤和代さんによるレポートを断
続的に掲載してまいりました。

 事情により中断しておりましたが、昨日から再開しました。これまでのレポートは下記
をご参照ください。

・第1回 5月16日  http://melma.com/backnumber_100557_5184997/
・第2回 5月18日  http://melma.com/backnumber_100557_5187069/
・第3回 6月3日   http://melma.com/backnumber_100557_5200121/
・第4回 6月6日   http://melma.com/backnumber_100557_5202526/
・第5回 7月29日  http://melma.com/backnumber_100557_5248773/

 なお、次回の第16回台湾李登輝学校研修団は、11月3日(木・祝)〜7日(月)に実施す
る予定です。近々、ご案内いたします。ふるってご応募ください。


◆第4日目(5月10日) 許世楷先生「台湾の歴史と民主化」

 許世楷先生は、日本留学中より台湾独立運動にかかわったため国民党政権のブラックリ
ストに載り、33年間も台湾に帰国できず、台湾の民主化が進んだ1992年にやっと帰国が叶
いました。民進党の陳水扁政権下の2004年から2008年に台北駐日経済文化代表処の代表(大
使に相当)を務められました。

 この代表のとき、李登輝学校研修団の参加者に代表処の官邸で事前レクチャーをしてい
ただいておりましたが、研修団でご講義いただくのは初めてです。

 先生のご講義は、日本統治下での台湾の近代化、その後の台湾の民主化過程で乗り越え
なければならない課題と希望についてでした。台湾人から見た日本統治評価は、日本人に
とっては少々ほろ苦く、民主化を阻む「特権」についても普段「平等意識」に慣らされて
いる現代人には理解しがたいところがありました。

 許世楷先生は台中市内にお住まいです。そこで、前半はスライドを使い、台中各地にお
ける台湾の近代化を見ていきました。台中駅の開通、上下水道の整備─浜野弥四郎(1869
〜1932)の功績、学校建設による教育普及(現在も台湾人の識字率は高い)など、100枚を
超えようかという迫力満点の写真でした。

 また台中には「宝覚禅寺」があります。台湾では戦後、亡くなった日本人の遺骨が4か所
(許先生は4か所−北部、中部、南部、東部と仰っています)に集め、ずっと供養されてい
ますが、台中においてそれは宝覚禅寺です。

 日本人の遺骨が祀られているのが「日本人墓地」、台湾出身の旧日本軍人約3万人の御霊
を祀っているのが、李登輝先生のご揮毫になる「霊安故郷」慰霊碑です。

 かつて日本の統治下におかれ、現在は実質的な独立国家である台湾によって、日本人が
手厚く葬られていることに改めて感謝の念を強くしました。

 次に、許先生は近年の台湾映画2本を紹介されました。「1895」と「海角七号」です。こ
れらの映画の背景に「台湾の主体性」「特権」「民主化」「平等」という要素があること
を先生は教えて下さいました。先生のご講義にますます熱が入ってきました。

≪「1895」は、日清戦争に勝利し台湾を南下してくる日本軍に対し、新竹の呉湯興率いる
義勇軍が必死に抵抗する過程を描いています。そこに北白河宮能久親王と森林太郎(森鷗
外)も登場し、台湾人の民族自決とそれを平定する日本人双方の心理描写をしています。

 「海角七号」は2つのラブストーリーから構成されています。1つは台湾で教師をして
いた日本男性が敗戦後、恋人(教え子)を残し帰国してしまうという悲恋。もう1つは現代
台湾人青年と日本女性との恋です。

 敗戦で特権を失った日本人はその恋を諦めるしかなかった。しかし現代は、台湾も日本
も平等であり、好きという気持ちだけで恋は成就します。恋愛も時代で変化したのです。

 李登輝元総統以来、台湾は民主化が進みました。民主化とは平等化を意味します。何十
年も台湾に住んでいる人々は平等であるべきです。しかし、現代においても平等化を止め
ようとする勢力は存在するのです。

 日本統治はよかったのか、悪かったのか、簡単には評価できません。なぜなら歴史にお
いて「過程」と「結果」は違うからです。歴史の過程として、大日本帝国の統治は本国・
日本の発展のためでした。烏山頭ダム建設もそうです。台湾人は客体であり、手段でしか
なかったという問題はあった。しかし、確かに結果として台湾人もその恩恵を受けていま
す。歴史は単純化できないのです。

 台湾の民主化においては、自分たちは何をしたいのか、という主体性が問われています。
それは具体的にいうと「国民投票」(台湾では「公民投票」)です。喫緊の問題は原子力
発電所の建設、存続について国民自らが判断を下す、ということでしょう。

 しかし、現実にはこの「公民投票」の成立は難しい。成立するには「投票権をもつ者全
体の過半数」が必要と定められています。その前に投票の法案を出すこと自体にも高いハ
ードルが課せられています。総統の任命した委員20名が投票に値する法案か否かを決める
権利をもっているからです。

 台湾は民主化が進んでいるようで、実は公民投票実施も難しく成立も難しい状況にあり
ます。それは、国民党が依然として昔の特権を保持したいという思惑を持っているせいで
しょう。「国民党」は正式には「中国(中華民国)国民党」です。馬政権が中国寄りなの
はこの経緯からいっても当然のことなのです。

 こうした台湾の難しい政治情勢において、大事なのは外交、国際関係。アメリカ、そし
て日本との同盟関係をどう築いていくかが重要です。

 台湾独立派は、アメリカや日本に「台湾は中国の一部ではない」と表明してほしいし、
「台湾独立は支持しない」と言うのはいたしかたないとしても「台湾独立に反対だ」とは
言って欲しくないと願っています。

 李登輝先生は総統時代に「台湾と中国は特殊な国と国との関係」と明言し、陳水扁総は
「台湾と中国は一辺一国」と主張しました。しかし、国民党の馬政権になってからという
もの「中華民国憲法に則り、中国と台湾は地区と地区の関係」と言い、傾中政策をとり続
けています。

 来年の総統・立法委員のダブル選挙で、果たして台湾人は民進党の蔡英文を選ぶのか、
国民党を選ぶのかが問われています。この選挙で台湾の民主化が進むか、アメリカと日本
との関係はどうなるか、国際圧力で中国をはね返していけるか、問われます。日本の皆さ
んにも、よい結果が出るようご支援をお願いいたします。≫

 充実したお話をお聞きした充足感とともに、胸の奥深くに留まるものを覚えたご講義で
した。

                                   (つづく)



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