回の選挙では中国国民党候補の朱立倫氏を大きく引き離してリードしているが、その原因を前回総
統選との比較から掘り下げている。
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台湾 政権交代濃厚に 蔡氏優位、対中政策見えず 総統選まで1ヵ月
【西日本新聞:2015年12月16日 】
台湾総統選は来年1月16日の投開票まで1カ月となった。最大野党、民主進歩党(民進党)の蔡英
文主席(59)は圧倒的リードを保ち、初の女性総統誕生と8年ぶりの政権交代の可能性が濃厚だ。
与党、国民党の馬英九政権は2008年から中国との関係改善を急速に進めてきたが、独立志向の民進
党による政権奪取となれば、中台関係は新たな転換点を迎える。東アジアの安全保障や経済への影
響も注目される。 (台北・横尾誠)
「両岸(中台)の平和で安定した関係を継続させなければならない」
与党国民党の候補、朱立倫主席(54)は各地の演説で必ず「両岸の安定」を強調する。念頭には
00〜08年の民進党政権時代がある。
当時、中国は党綱領に独立を掲げる民進党を警戒し中台関係は極端に悪化、景気も低迷した。朱
氏は、あの時代を繰り返すのかと有権者の不安感に訴える。
一方、民進党の蔡氏が力を入れて語るのは食品の安全問題、貧富差の拡大、不動産の高騰…。馬
政権であらわになった身近な社会問題だ。対中関係では「現状維持」を掲げるが、その「現状」の
中身を詳しく説明することはない。
世論調査会社の台湾指標民調(TISR)が14日に発表した最新の調査で、蔡氏は46・1%と朱
氏の16・1%に30ポイントの大差をつけた。野党、親民党の宋楚瑜主席(73)は9・1%にとどま
る。ほかの調査も同じ傾向だ。
蔡氏は12年の前回総統選にも出馬した。当時は対中政策の曖昧さが不安視され、敗因となった
が、今回事情は大きく異なる。
◆台湾人意識
馬総統は08年の就任直後から経済大国化する中国との関係を急速に改善。中国人の台湾観光や三
通(通信、通商、通航の直接開放)を実現させ、経済一体化の動きを加速させた。
しかし、恩恵は一部大企業に集中、社会に不公平感が広がり、昨年3月には学生らが立法院(国
会)を占拠する「ヒマワリ学生運動」が起きた。背景には「中国にのみ込まれる」という強い懸念
と「台湾人意識」の高まりがあった。政権の支持率は10%前後に低迷。同11月の統一地方選で与党
は歴史的惨敗を喫した。
台湾統一を目指す中国は、民進党との公式対話を拒んできた。中国ビジネスで利益を上げてきた
台湾の経済人には、民進党の政権にはなお、不安感が強い。
しかし今年の台湾の経済成長率は中国経済の減速が大きく響き、1%程度に落ち込む見通し。中
国経済への依存度の高さはリスクになっている。「馬政権への失望の深さと今の経済環境からすれ
ば経済界も民進党を批判しづらい。そこが前回選とは違う」と民間シンクタンクの研究員は語る。
◆立法委員選
国民党は、馬総統と中国の習近平国家主席による初の中台首脳会談も追い風にすることはできな
かった。
焦点は、総統選と同じ日に投開票される立法委員(国会議員)選(定数113)で、現有40議席の
民進党が過半数を得られるかどうかに移っている。
立法委員選は、党より候補者個人への評価が重視される傾向があるが、民進党が大勝して盤石の
態勢を築いた場合、習近平政権も敵対的な姿勢は取りづらくなる、との見方が強い。
台湾にもある「今年の漢字」は「換」を世相を表す一字に選んでいる。蔡氏は13日、朱氏が市長
(休職中)を務める台北郊外の新北市に乗り込み、訴えた。
「『換』は新しい政権に変えるという意味。政権だけではなく、立法院(国会)も変えるので
す」
▼台湾総統選
台湾の最高指導者を決める選挙。総統と副総統候補の2一組で争い、有権者はペアに1票を投じ
る。任期は4年。3選はできない。1996年の初の直接選挙では国民党の李登輝氏が圧勝。2000年は民
主進歩党(民進党)の陳水扁氏が当選、50年余りの国民党一党支配が幕を閉じ、台湾史上初の政権
交代が実現した。陳氏は04年も再選。08年は国民党の馬英九氏が政権を奪還。12年も馬氏が民進党
の蔡英文氏を破り再選を果たした。16年の選挙は1月16日投開票。総統の就任式は5月20日に予定さ
れている。