――習近平少年の読書遍歴・・・“あの世代”を育てた書籍(習169)
第4原則=先ず敵の弱い部分に攻撃を仕掛け、各個撃破を狙え。
『我国古代以弱勝強的戦例』では、「先ず自己の少数精鋭の主力を敵の弱い末端部分に向ける。戦闘で勝利したなら、再び他に転じて各個撃破し全戦局で攻勢に出て戦いの主導権を握る」との毛沢東の考えを引用し、これこそが弱軍が強軍に勝利できる道だと説く。
正面に布陣する項羽軍主力を牽制する一方で、劉邦は韓信を北方に派遣し黄河を渡河させ、魏と代を破り、転じて趙、斉を各個撃破し、遂に項羽軍の羽翼を瓦解させ、項羽麾下の楚軍殲滅に極めて有利な条件を作り出した。第4原則による成功の典型例だ。
――これらの原則を拳々服膺・活学活用したからこそ、共産党政権は経済弱国・貧乏大国を経済強国へと大変身させることに大成功したと見なすならば、やはり「偉大的領袖毛主席、万歳」と大声で歓呼し、感謝の意を表して当然だろう。いや決して皮肉ではなく。
ところで硬軟様々な手法を駆使して対米戦争を展開する習近平政権だが、はたして以上の4原則を拳々服膺しているのだろうか。もっとも習近平政権が自らを「強」と、相手のアメリカを「弱」と捉えているとしたら、『我国古代以弱勝強的戦例』は余り参考にはならないはず、とは思うのだが。
『暴風雨前後』は15cm×15.5cmで35頁の絵入り物語。文章の程度からして、10歳前後向けと思われる。
灼熱の街道を三頭立ての荷車が疾駆する。鞭を振うは解放軍兵士だ。積載する軍用物資を今日中に部隊に届けなければならない。そんな彼を女性測候所員が呼び止め、「雨の予報が出ているから」と荷物を雨よけで覆ってやる。ここで兵士は「これぞ水魚の交わり」と「偉大なる領袖・毛主席の建軍路線の深い意義に思いを馳せる」のであった。
暫く走ると、風が吹き始め怪しい空模様だ。すると街道沿いの村人が声を掛け、兵士を一休みさせている間に馬の世話をかってでる。やがて篠突く雨。人民公社の事務室で電話記録簿に目をやると、どうやら女性測候所員が村人に支援を指示していたらしい。
雨も止んだので兵士は馬に鞭を入れて任務続行。だが雨でぬかるんだ道に車輪を取られ荷車は進まない。すると村人が総出で道を均す。
雨上がりの青空に掛かる大きな虹の下を、荷車は疾駆して行く。
「偉大なる領袖・毛主席の建軍路線の深い意義」を伝えようとするのだろうが、文革色の感じられない、なんとも他愛のない物語でもある。
あるいは文革に対する一種の“厭戦気分”すら感じられる『暴風雨前後』とは反対に、『広東革命歌曲選 2』は文革色に満ち溢れている。たとえば、
「毛主席がひとたび水を掛けたなら、真っ赤な花が咲きこぼれ、全山緑に覆われる」
「毛主席の心と結ばれれば、千年の奴隷も社会主義の大道を歩むことができるんだ。文化大革命の激浪だって乗り切れる」
「山には木はなく荒れ山で、川には水なく砂ばかり、共産党がなかったら、我らは生まれ変われなかった。共産党に解放されて、千年奴隷(えいえんのどれい)も救われた。幸福の花は大地を覆い尽くす」
「毛主席が革命の道を導いて、進めば進むほど前途は輝きを増す」
まだまだ毛沢東を頌え、共産党に忠誠を誓う歌は続くが、もはや“満腹状態”。それにしても、こんなにもバカバカしい歌が半世紀前の中国では恥ずかし気もなく唱われていた。いや正確に言うなら唱われることを推奨されていた事実だけは、忘れてはならない。
『漢語?音簡易読本』は正しい発音をローマ字表記で示す。文革が巻き起こした全国交流で改めて標準語(漢語)と方言の発音上の違いが浮き彫りになったのではないか。《QED》