安倍政権の台湾に対するスタンスを明瞭に示すシグナル [花岡 信昭]

参院選後の政局を「解放された視点」で見ると

★★花岡信昭メールマガジン★★355号[2006・11・30]

《 参院選後の政局を「解放された視点」で見ると 》

 先週後半は台北で過ごした。中華欧亜基金会、アジア問題懇話会共催のシンポジウム「
日本の新政権と東アジア情勢」に招かれ、安倍政権の現状と展望を報告した。

 台湾側の関心はもっぱら安倍政権が長期政権となるのかどうかという点にあった。筆者
は来年7月の参院選の結果がすべてであり、自公与党が過半数割れに終わると安倍首相退
陣の可能性が高い、といった一般的な永田町の観測を説明した。安倍首相が保守政権らし
さを打ち出すのは参院選後で、それまでは「あいまい戦術」で臨むだろうと予測したので
ある。

 帰国してたまった新聞を整理していて、日本経済新聞26日付の2面コラム「風見鶏」
にぎくりとした。「水鳥の羽音が怖い自民党」という見出しで編集委員の伊奈久喜氏が書
いている。趣旨は、参院選敗北だと安倍首相退陣という見方が強いが、首相が辞める必要
がないと考えれば辞めさせるのは難しい、というものだ。

 自民党の青木幹雄参院議員会長は参院選敗北だと安倍政権は「死に体」になるとしてい
るが、これは論拠に乏しいとし、「水鳥の羽音で逃げた平維盛を連想させる」というので
ある。

 実はこの見方は、以前にも伊奈氏から直接聞いていた。伊奈氏は外交、安全保障が専門
で、その鋭い論評記事は定評がある。こういう表現はおかしいかもしれないが「永田町ど
っぷり」の政治記者とはやや違った視点で政局を見つめている。

 その伊奈氏から「安倍首相が辞めない可能性」を指摘されて、そのときも目を見開かさ
れる思いがしたのだが、改めてコラムを読むと、なるほど説得力はある。

 アメリカでは中間選挙で共和党敗北となったのに、ブッシュ政権は死に体とはならなか
った。自民党総裁選で66%の得票で選ばれた10ヵ月後に、安倍氏に代わる党の顔が現
れるか・・・。

 さらに、「参院選の結果、首相を辞めさせるのは憲法が想定する事態ではない」という
指摘も鋭い。

 この点はまさにその通りであって、衆院の優位性が定められている以上、参院と政局を
絡めてはいけない。昨年の郵政解散は参院が郵政民営化法案を否決したために起きたが、
参院自民党が政局に介入した点こそが最も責められるべきポイントである。

 そんなことを考えていたら、台湾での見聞と日本の政局見通しが絡み合って、なにやら
「政治の政治たる所以」とでもいうべき重いテーマに行き当たった。

 結論からいえば、政治展望を試みるときは、あらゆる制約から解き放たれて、何があっ
ても不思議ではないというぐらいの感覚にいったん立ち戻らないと間違えることになる、
という戒めである。その意味で伊奈氏の指摘は興奮を禁じえないものであった。

 筆者が台湾にいたのと同じ時期に森喜朗元首相が訪台、陳水扁総統から「特種大綬景星
勲章」を授与された。首相時代に李登輝前総統の訪日を受け入れたこと、台湾から日本へ
の観光客に対するノービザ措置の恒久化を果たしたことなど日台関係強化への貢献による。

 元首相の台湾訪問など、少し前までなら考えられなかったことだ。日本のメディアは「
中国の反発必至」と報じた。ここは訪台を決断した森氏の政治センスを買わねばなるまい
。中国外務省の反応は、報道官が定例会見で、中国の重大な懸念を顧みなかったことに「
強い不満と遺憾」を表明するというコメントを出しただけで終わった。

 森氏は自身の訪台をめぐる情勢分析を十分に行った上で敢行したのであろう。これは安
倍政権の台湾に対するスタンスを明瞭に示すシグナルともなる。安倍首相の訪中以後、日
中関係は明らかに変化しつつある。中国外務省が一片のコメントでとりあえずメンツを立
てるだけにとどめたことをこそ注目すべきだ。

 安倍首相はその著「美しい国へ」の中で、自由、民主主義、基本的人権、法の支配とい
った「価値観の共有」を強調、その文脈の中で、「台湾も視野に入れる必要がある」と日
台関係の強化に言及している。

 伊奈氏が指摘した「参院選敗北でも安倍首相退陣とはならない可能性」と、森元首相の
訪台をめぐるメディア報道。まったく違う次元の話のように見えるが、「政治のアヤ」と
でもいうべき感覚は共通する。そこを見据えていかないと、政治情勢の分析を誤ることに
なる。

 もうひとつ、台湾政局は混迷の極みにあった。民進党・陳水扁政権はスキャンダルにま
みれ、危機に瀕している。機密費の私的流用の疑いで夫人が起訴されるまでに至ったのだ
から深刻だ。

 12月9日の台北、高雄市長選が当面の焦点で、国民党候補の勝利が確定的とされ、そ
の流れから2008年の総統選挙では「国民党主席・馬英九氏が当確」とまで言われてい
る。馬氏は「反日派」とされ、日本としては歓迎しにくい展開だ。

 だが、台湾政局に詳しい長老らからあれこれ取材してみると、「機密費事件の展開にも
よるが、『馬総統』確定と見るのは時期尚早。まだヤマはいくつもある」。つまりは、台
湾メディアの一過性の激しい報道ぶりに惑わされるな、というのである。民進党、国民党
がそれぞれ割れて新党ができる可能性にまで言及した人もいた。

 筆者は台湾政治は専門外なので何とも判断しにくいのだが、前述してきた「政治を見る
にはあらゆる制約条件から解放された感覚が必要」という点では、ここにも共通するもの
がある。

 さて、参院選敗北なら安倍政権崩壊となるのかどうか。これまで政治を見てきた感覚か
らすれば当然ながら退陣必至ということになるのだが、この見極めは政治ウオッチャーの
真価が問われるものとなりそうだ。

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