ブログ「台湾は日本の生命線」より
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■訪台した安倍元首相をタクシーに
十月三十一日から十一月一日まで台湾を訪問した安倍晋三元首相は、総統府ではVIPとして馬英九総統の手厚い歓迎を受けたものの、野党民進党の蔡英文主席との会見会場へ向かう際は、まるで一般観光客のように自分でタクシーを拾っている。
そこで台湾国内では「中国には媚びるが日本の元首相は侮辱するのか」との国民党政権批判が巻き起こった。これにはさすがに呉敦義行政院長(首相)も「もし事実なら失礼なことだ」と、政府側の対応の過ちを認めざるを得なかった。
その後の報道によると、安倍氏サイドは当初、台湾外交部(外務省)に蔡氏との会見を希望したが、セッティングを断られたのだそうだ。そこで自身のルートで会見を設定したのだが、外交部は警護を外し、車輌も出さなかった。外交部は「蔡氏は選挙で忙しいからセッティングは難しい」と説明したらしい。しかし蔡氏側は外交部から、安倍氏が会見を希望していることなど聞かされていなかったことが判明している。
つまり国民党政権による民進党への嫌がらせなのである。
ことに十一月二十七日の五大都市長選挙を間近に控える時期に、新北市長候補でもある蔡氏が安倍氏と会見し、同党の日本との関係の強さをアピールし、得点を稼いでほしくなかったのだろう。そこで台湾に友好的な日本の元首相の行程を平気で妨害して見せたのだ。
■日本人と台湾人の結合を嫌う国民党
実はその数週間前にも、外交部は同じ手口で、欧州の二カ国からの要人と民進党側との会見を妨害したそうだ。
さらにいえば国民党政権は〇八年の発足以降、日本から来訪する大勢の国会議員たちにも同様のことをしているらしい。
まず「誰と会いたいか」と聞くそうだ。すると多くは李登輝、馬英九、蔡英文の名を挙げるのだが、「蔡」と聞くだけで「彼女は忙しい」というらしい。ことに各種選挙の前あたりでは、日本の国会議員のほとんどは「選挙で多忙」と聞かされ、面会を諦めさせられている。
このように自己の利益のためなら手段を選ばず、良心、公正さを放棄して国益も眼中に入れず、さらには政敵(競争相手)への憎悪を滲ませながら、平然と人を欺く「詐の文化」に、国民党は中国から台湾へ亡命してきて六十年を越えながら、いまだに染まり続けているのか。
ちなみにこうした妨害は、民進党=台湾人政治勢力への憎悪のためだけではないと思う。おそらく日本人と台湾人を分断、離間させたいとの感情、計算も働いているのではないか。国民党内部の中国人勢力は、台湾亡命当時から日本人と台湾人との再結合を恐れてきたのは事実だ。
■日本のメディアで繰り返す台湾人への誹謗
このように、台湾に親しみを抱いてきた多くの日本人には意外な、醜悪な文化的な一側面(国民党の中国政治文化)が、あの国の社会にはあるのである。
そしてこの国民党政治文化を、惜しげもなく日本国民の前で曝し続ける人物がいる。馬英九総統の側近でもある馮寄台駐日代表(駐日大使)がそれだ。
この人物の日本での重要工作の一つは「馬総統の『反日イメージ』の払拭」(自由時報、十一月八日)だそうだが、さらにいえば「親中イメージ」の払拭も挙げることができよう。
そしてそこで行うのが、日本のマスコミを利用しての宣伝工作である。寄稿などを行って、国民党政権の中国との関係改善、経済交流政策(中国傾斜政策のこと)が、いかに東アジアの平和に寄与しているか、そしてそうした対中交流を妨害してきた民進党政権が、いかに平和の敵であったかを繰り返し強調するのである。
台湾事情に通じる親台派の日本人の多くは、こうした言論には思わず反発している。なぜならこうした民進党批判、侮辱が、中国に呑み込まれたくないと願う台湾国民への批判、侮辱に聞こえるからだ。中共とも共通する中国人特有の台湾人への憎悪感情が反映されているようにも感じられ、それが日本人に不快感を与えるのである。
さて、その馮寄台代表は、テレビ番組を丸々一個買ったのだろうか。
台湾の駐日代表処の協力の下、とちぎテレビが製作した「新時代を拓く台湾−2010−進展する台日交流」なる三十分間の番組のことだ。
■東京MXテレビ等が国民党アピール番組
これが十一月下旬、とちぎテレビ、テレビ神奈川、東京MX、テレビ埼玉で相次ぎ放送されたのだが、おそらく国民党政権のアピール番組になるだろうとの「臭い」を嗅ぎつけた私の仲間たちが、ちゃんと内容をチェックしていた。
それによると番組では、案の定馮寄台氏が出演し、いつもながらに大いに語っていた。
「日本は世界で一番文明の国。外交官として日本に来れたのは最高の誇り。日本に来て二年経つが、本当に来てよかった」と、反日イメージを拭い去ろうとするかのように日本を懸命に持ち上げながら、例によって例の如く、中国傾斜政策の正当化宣伝に乗り出した。
そしてそこで大きく取り上げたのが、国民党政権が先ごろ中国との間で締結したECFA(経済協力枠組み協定)だった。
これは「台湾を『一つの中国』市場に入れて主体性を奪い、香港化するための罠」(李登輝氏)といった批判などが国内で巻き起こったが、国民党は中国の磁力に引き寄せられるかのように、締結を急いだ代物だ。
馮寄台氏は番組の中で、その締結に至る経緯を、次のように語っている。
―――我々が政権をとった時には「中国は台湾の第一位の貿易のパートナー」になっていた。
―――にもかかわらず、前政権は中国との付き合いを阻止していた。
―――台湾人の中国での権益を守るため、中国と話し合ってきた。台湾の経済は(民進党)政府の反対にもかかわらず中国に依存していた。(国民党政権は)この関係を正常化するため中国と相談をした。
いつものことだが、こう強調したいのだろう。
“台湾企業の「中国傾斜」は民進党政権時代からのもので、我が政権以降のことではない”“民進党政権は愚かにも対中交流を妨害した”“そこで国民党が対中関係を改善した”
■日台中「二等辺三角形」を求める中国の代弁者
そしてその上で馮寄台氏は、次のように日本に対してアピールする。
―――日本と台湾と中国は切っても切れない経済関係。日本も台湾と一緒に組んで中国で「ウィンウィンウィン」の経済的・貿易的関係ができる。ECFAは台湾人だけでなく、日本人にも中国人にもよいことだと思う。
これも国民党政権のいつもながらの訴えである。つまり日本も台湾とともに中国に擦り寄り、中国との摩擦なき東アジアの平和と繁栄を築こうとの誘いなのだ。
ちなみに日本を見下すような話の仕方だったとか。これは台湾人ではなく中国人の作法といえる。
だがここで日本人が考えるべきは、現在中国は何を狙い、何を進めているかである。
今、中国が全力を挙げて遂行しているのは、日本、台湾と連なる海洋進出の隘路、第一列島線を軍事的に無害化し、勢力下に収める戦略である。そして台湾の国民党政権を屈従させ、締結されたのがECFAである。かくて台湾との政治統一の前提としての経済統一が緒につこうとしているわけだ。
そしてその中国に屈従し、傀儡と化した国民党政権が日本に対し、中国を頂点とする中台日の二等辺三角形を形成しようと呼びかけているのだ。敗北主義の中国人がどこの国に物を言っているのかと問いたくなるが、これは明らかにおそらく中国の代弁だろう。少なくともあの国の戦略とまったく合致している。
■安倍氏発言をでっち上げた馬英九
国民党政権が「反日」と警戒されるのは、歴史問題、領土問題での中国人意識に基づいた反日姿勢のためだが、第一列島線の一環である台湾の島を中国の献上しかねない投降姿勢こそが最大の「反日」といえるだろう。
ちなみに番組では、訪台した安倍氏と馬英九総統が握手し、乾杯する映像が繰り返し流された。これが駐日代表処の願望に従うものなら、まさに国民党政権による「進展する台日交流」の宣伝となろう。
馬英九氏は〇六年、二年後の総統選挙出馬を視野に来日し、日本との関係の密接ぶりを有権者にアピールしようと試みたが、逆に会見する親台派の国会議員たちからは、親中姿勢への懸念を示されるなどで失点が目立った。
そこで当時は自民党幹事長で次期首相の有力候補だった安倍晋三と、何とか電話で数分間の挨拶程度の話をできたことを誇大宣伝し、「安倍氏との会見を果たした。安倍氏は『日本では李登輝さんの影響(台湾独立派の影響)が大きいために台湾の実情があまり知られていない。将来は馬英九効果が起こることを期待している』と述べた」などと、あたかも安倍氏が国民党政権の誕生を願っているかのような捏造報道を同行記者に行わせたことがある(馬氏はこの報道を事実と主張した)。
■日本は反国民党のメッセージを台湾国民へ送れ
安倍氏は「李登輝氏を尊敬する自分がそんなことをいうわけがない」と、会見があったことを否定しているが、今回蔡英文氏との会見を邪魔された同氏は、おそらくそのときのことを思い出したことだろう。
このようにすぐに明らかになる嘘でもついたほうが勝ちだと考えるのが中国人の「詐の文化」の極意というものか。
これでは民族性が正直すぎる台湾人も日本人も、なかなか太刀打ちなどできない。
中国の脅威が第一列島線に及びつつあるときに、この列島線の一角で中国に呼応し、台湾人ばかりか日本人をも騙し、あるいは日台離間を目論む国民党という中国人勢力の存在に、日本人はもっと警戒した方がいい。
そして日本人は東アジアの安全保障の観点から、国民党政権に懸念を抱いているとのメッセージを台湾国民に発信し続けるべきだ。日本のそうした反国民党、反中共の姿勢は、かならず同じ第一列島線上の盟友である台湾の有権者を覚醒させ、あるいは激励することになるはずだ。
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