台湾総統選に国際監視団 彭明敏委員長に聞く

台湾総統選に国際監視団 彭明敏委員長に聞く

【東京新聞:2011年12月28日】
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2011122802000039.html

 台湾の総統選挙を前に民間組織「台湾公正選挙国際委員会」(ICFET)が発足した。
来年1月14日に行われる選挙の実態を国際選挙監視団として視察するとともに「外界からの
選挙への干渉」を抑止するのが狙い。1996年に始まった総統選挙は今回で5回目。民主化が
既に定着した今、なぜ初の「国際監視」が必要なのか。彭明敏委員長に聞いた。
                          (台北・迫田勝敏、顔写真も)

─ 台湾の選挙は民主的ではないのか。

「前政権の陳水扁氏(民進党)の功績は台湾人に誇りを持たせ、主体性を持たせたこと
で、台湾意識は強くなった。しかし不幸なことに今の国民党政権はそれを壊している」

「“含涙投票”という言葉がある。いやだけれど涙をのんで投票するという意味だ。陳水
扁台北市長の2期目、世論調査では70%が市長の業績を評価していたが、落選した。既得権
益など過去のしがらみから、陳支持の自分の意に反した投票をした人が多かった。今もそ
れに近い状況だ」

─ 投票所は公正に管理されているのでは。

「台湾人は日本の植民地時代、さらに戦後の国民党独裁時代と長い間、いわば“奴隷教育”
を受けて、二等国民意識が染み込んでいる。われわれはダメだ、という心理だ。上から強
く言われると、不本意ながら従ってしまう。台湾が民主化したのは間違いないが、今は危
なくなっている。台湾は『弱い民主』だ」

─ 上からの圧力は外国人の監視委員には分かりにくいのでは?

「万一、そういうことがあり、選挙後、問題になった時、視察していれば『私はそこにい
た』と内外に証言できる。見証でいい。86年のフィリピンのピープル・パワー革命では、
マルコス政権の選挙を視察した米国人たちの働きも米政府を動かした一因だった」

─ 「外界の干渉」とは何を想定するのか。

「どことは言わないが、選挙に介入する勢力はある。過去にはあった。私が立候補した96
年の総統選挙では中国が台湾周辺海域にミサイルを撃ち込んだ。おかげで、独立派といわ
れた私の票はかなり減った」

─ 趣意書では「選挙結果を覆す重大な政治事件が起こる可能性もある」と予見している。

「今回の選挙は立法委員とのダブル選挙で、選挙後、新総統就任まで4カ月もある。それが
一つの問題だ。2004年の総統選では、負けた国民党が負けを認めず、選挙無効、票の数え
直しを求めて裁判を起こし、総統府前で違法の座り込みデモを何日も続け、騒乱を起こし
た。今回は国民党政権は負けても5月まで実権は握っている。その間に何をやるか。国際監
視委員を通じ、選挙結果を早く国際社会に認知してもらうことが大事だ」

彭明敏(ほう・めいびん) 台湾高雄市出身。国際法学者。88歳。戦時下、長崎で米軍の
砲撃に遭い左腕を失う。戦後、台湾大卒。同大教授当時の1964年、大陸反攻の中止、新憲
法制定などを求めて「台湾自救運動宣言」を書き、逮捕される。70年、米国で独立運動。
92年に帰国、96年の総統選に民進党から出馬し国民党の李登輝候補に敗れた。

<国際委員の顔触れ> 内外約60人の政治家、学者らに委員就任を要請中で、マカウスキ
元米アラスカ州知事、日本の大野功統元防衛庁長官らが参加の見通し。カーター元米大統
領からは主要候補者の同意があれば承諾と返答があったが、国民党が拒否したため不参加
の見込み。


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