【AC論説】蔡英文執政一年の成績表

【AC論説】蔡英文執政一年の成績表

       Andy Chang

5月20日に蔡英文が台湾の総統に就任して満一年になる。就任当時
は支持率が70%もあったのに一年経った今では支持率が40%である。
台湾人の総統で立法院で民進黨多数という「完全執政」を得たにも
拘らず、サラリーと労働階級、中台関係、転型正義、司法改革と財
政経済の五つの分野ですべて40%以下の評価で、民間では政権に対
する不満は68%に達していると言う。

蔡英文はアメリカから現状維持を強いられ、中国から92共識(台湾
は中国の一部)主張を強要されたためWHO(国連衛生組織)に観察
員として参加する事も拒否された。国内では国民党と外省人の跋扈
を抑えきれず、中華民国体制を維持すれば台湾独立は難しいと厳し
い評価を受けている。それでも蔡英文の任期はあと三年あるから今
後の発展に期待すると言う者は70%に上る。この一年間の成績を行
政、立法、司法、経済、軍事の分野で評価してみよう。

●行政改革

行政院長(総理大臣にあたる)林全は外省人で親民党員である。蔡英
文は閣僚に外省人を多く起用しているので外省人や国民党の勢力強
大で政策の施行に妨害を繰り返している。現状維持で外交方面に進
展はなく、世界の政治ニュースは殆ど台湾に伝わっていない。中国
は「92共識」を認めろと圧力をかけ、台湾が国際衛生組織(WTO)
に観察員として参加することも拒否された。

人民の蒋介石銅像の撤去運動に対し、マフィアに属する外省人が八
田与一の銅像の首を切る事件が起きた。犯人二人がフェイスブック
に堂々と名乗りを上げても政府は彼らを逮捕できない。政府が進め
る年金改革と週休二日の実施に対し反対デモが多発した。

アメリカかパナマ文書を発表して台湾の兆豊銀行がマネーローンダ
リングに関与していたことがわかったが誰も逮捕されず、その後メ
ディアはこの事件の報道さえしなくなった。在野の評論家が日台関
係の改善、日台防衛協定の締結を提案しても蔡政権は相変わらず尖
閣諸島は台湾の領土であるとか、南シナ海の太平島は中華民国領土
であるなど主張している。

●立法院の議題

立法院(国会)は民進党が大多数だが、国民党の妨害が激しくほとん
どの議案に反対、暴力で票決を拒否し、議会の外では連日抗議デモ
である。

国会の主要議題は国民党が違法接収した旧日本政府の資産の返還、
軍公教の年金改革、週休二日制度の実施の三つである。この三つの
うち国民党資産の調査委員会を設置したが調査は難航し、年金改革
は国民党議員の反対と街頭デモで進展しない、週休二日制度は雇用
側の反対が強力で進展しない。民進党側は国会多数だが事々に国民
党の反対に譲歩を繰り返している。

●司法改革

人民が蔡英文に最も期待していたのが司法改革だったが、人民が最
も失望したのも司法改革だ。法務部長(司法部長)は台湾人だが司
法改革は殆ど進捗していないし、人民の期待する主な法律事件、例
えば陳水扁冤罪の再審査と判決、転型正義に関わる調査は進展して
いない。

司法部には情報処、検察機関などが直属していたが詳細はかなり不
明である。法務部長は去年、司法部特捜部の廃止を述べたが、その
後の進展は不明である。この他に司法部に属さない国防部軍事調査
局と呼ぶ組織がある。この組織は古い蒋介石時代からあった情報局
で、名義も特務処、軍統局、情報局などから85年に軍事情報局に改
称された。国民が最も忌避するのは国民党特務だが、特務機関が幾
つあったか、人民に対しどの様な秘密調査をしていたか、冤罪事件
などは今もって五里霧中である。

●経済発展

蔡英文の主要任務の一つは馬英九時代に落ち込んでいた経済を立て
直すことだった。蔡英文はハイテクの新発展をITからAIへ、そし
て電子工業から生化学へと重点を変える。中国依存の経済を自立経
済へ発展させる。南進政策を取るなどだった。

この一年の間に南進政策は少しずつ成果を上げ、株式と台湾元は上
昇気味だが、土地不動産は下落を続けている。憂慮すべきは中国の
経済侵略が台湾企業を買収し統一路線を進めていることである。

●軍事方面の評価

蔡英文の起用した国防部長馮世寛は外省人である。国民党時代から
今まで軍の上層部は外省人によって占められていた。この状況は変
わってない。しかも退役将軍たちが何人も中国を訪問したり永住し
たり、軍事情報を流した事件は多い。今年に入っても現役軍人のス
パイ事件が二件起きた。このような軍隊が中国と戦えるはずがない。
馬英九は義務兵役を廃止して志願制にしたがたちまち兵力が不足し
てしまった。いくら最新武器を購入しても士気が上がらなくては戦
にならない。

蔡英文は軍備更新を目指してアメリカからF-35やミサイルの購入
を要請し、潜水艦の自力建造計画を発表した。だがアメリカがスパ
イ事件や外省人の跋扈する台湾の軍隊に最新武器を提供するはずが
ない。蔡英文は武器購入よりも早急に台湾軍の再構築を進めるべき
である。

以上簡単ながら蔡英文の成績を採点してみた。成績が芳しくない事
に対し蔡英文は、「夜明け前の暗さだ。これからどんどん明るくなる」
と述べた。人民の評価が低迷し、政権の各部門で問題続出だからア
メリカは信用しない。要は平和を維持するだけでなく国際評価、最
も大切なのは外交である。現状維持で外交が停頓すれば台湾の国際
的地位は下がる。蔡英文は早急に日台関係の改善と、アメリカや諸
外国が信頼できる国となるべく努力すべきである。

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