文雄】習近平の失態で支持率回復した蔡英文と台湾の行方
黄 文雄(文明史家)
【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」より転載
*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部で付したことをお断りします。
◆蔡英文総統が女性タレントの侮辱コメントに真っ向から反論
台湾の女性タレント張瑞竹が、蔡英文総統を侮辱するようなコメントをフェイスブックで投稿し
たことが話題になっています。
その内容は、蔡総統は「見た目も残念、スタイルも残念な女。彼女は毎日何もせず、ただ向かい
に住んでいるイケメンに犯されると毎日叫んでいる」というもの。この中に出てくる「向かいに住
んでいるイケメン」とは習近平を指しているそうです。習近平を暗示するなら、「イケメン(帥
哥)」ではなく「アニキ(大哥)」だと思いますが・・・。そして極めつけは、批判文の最後につ
いた「三八(バカ女)」の二文字でした。
これに対して、蔡総統は自身のフェイスブックで反論しています。
<CNNの独占インタビューでも言ったように、私は数千年来の華人社会において、最初に民主的
に選出された女性の総統です。これにはとても大きな意義があり、この事実は女性は性別で差別さ
れることなく、無限の可能性を秘めていることを証明しています。
台湾の最初の女性総統として、私はあらゆる挑戦を受けますが、私は性別、見た目、スタイルと
いった生まれ持ったもので能力を判断することには意味がないし、主観的だし、焦点がぼやけるだ
けだと思います。台湾の総統が誰であれ、中国からの脅しや威嚇に対して我々台湾は絶対に屈しな
いということを、大声で世界にアピールするべきです。
この点において、性別は関係ありません。士気あるのみです。>
といった内容の反論をしています。
そもそも、今回の騒ぎを引き起こした張瑞竹というタレントはどういう人物なのかをちょっとご
紹介しましょう。台湾の新竹市出身の50歳、2015年に中国の宝石商と結婚し上海に住んでいます。
芸能活動は中国と台湾の両方で行っている中堅タレントといったところです。
台湾の芸能界は中国市場と強い結びつきがあるため、中国で活動できなくなると困る人も多くい
ます。そのため、張瑞竹も含め、中国で活動しているタレントは、往々にして中国を刺激するよう
な発言をする台湾の政治家を嫌う傾向にあります。
少し以前の話ですが、2015年、蔡英文が総統選挙で当選するきっかけとなった騒動「周子瑜謝罪
事件」を起こした台湾のタレント黄安も中国在住の媚中派でした。台湾人が中国で芸能活動をする
には、常に中国人であることを求められるのかもしれません。今回、張瑞竹は「台湾人だって中国
人だ」という発言もしています。中国に同化したほうが、彼らにとってはメリットがあるというこ
とでしょう。
しかし、蔡英文はそんなくだらないことでブレる人ではありません。彼女の批判を一蹴しただけ
でなく、それと前後して、蔡総統はCNNの独占インタビューやツイッターで、2020の総統選挙に
再出馬することを公言しました。民進党内の派閥も、蔡派が主流となりつつあり、民進党一丸と
なって蔡英文支援に動きそうです。それもあってか、蔡氏は2020の総統選に向けて「自信がある」
とも述べています。
◆欧州議会が台湾支援の声明文
台湾は、蔡政権になって確実に変わっています。例えば、このメルマガでも書きましたが、議会
では「中華台北」という名称についての議論が公になされるようになりました。また、最近の
ニュースでは、米映画評論サイトがアジア・中国で最も美しい顔を選ぶ投票イベントで、台湾出身
の有名人の国籍を示すアイコンに中国の五星紅旗が表示されたことで、台湾の外交部が同サイトに
訂正を求めたというのです。
「世界で最も美しい顔」というイベントだそうで、そこには台湾のタレントのリン・チーリンや
ジェイチョウなどが名を連ねたそうです。ひと昔前の台湾だったら、そこに「五星紅旗」が表示さ
れても何も言わないどころか、疑問にも思わなかったかもしれません。それが、今では抗議をする
までになりました。
こうした台湾が台湾としての存在をアピールする地道な活動が国際的に認知されると同時に、正
月の習近平による「台湾への武力行使も辞さない」というスピーチに危機感を覚えた欧州議会は、
台湾を支援するとの内容の声明文と、議員155名の署名をし、蔡英文総統に渡しました。
蔡政権はまたひとつ心強い後ろ盾を得たことになります。2020年の総統選挙ですが、国民党はま
だ候補者を絞れていないようで、党内調整にまだ少し時間がかかりそうです。
◆蔡英文支持率を30%台まで引き上げた習近平
蔡英文総統は、2018年11月の「九合一」地方選挙で惨敗した後、党主席を辞任し、支持率は10%
台まで下落したことから、2020年の総統選挙はかなり厳しいとみられ、彭明敏や李遠哲ら台独派の
長老たちに再出馬を止められていました。ずっと蔡英文の再出馬を支持していたのは100歳近い史
明くらいでした。
しかし、正月の習近平の演説がその状況を劇的に変えました。習近平は、台湾に「一国二制度」
「武力行使」を放棄しないと脅しをかけ、蔡英文はすぐさまそれに対して反論したのです。このこ
とが蔡英文の支持率を30%台まで引き上げました。米中経済貿易戦争で追い込まれた習近平は、台
湾を脅したつもりが、敵に塩を送る結果となったわけです。
今回だけに限らず、中国の脅迫はたいてい逆効果を生むことが多くあります。それでも懲りない
のは、中国の習性でしょう。中国が台湾に圧力をかければかけるほど、台湾住民の反発力も強くな
ります。
この現象に最も困惑しているのは、国民党を中心とする台湾内の「統一派」でしょう。国民党
が、フェイクニュースまで使って選挙で大勝を果たし、民進党を退けることに成功したのに、習近
平のスピーチひとつで蔡英文の人気があっという間に戻ってしまったのですから。
2020年の国政選挙は、今の台湾にとって最大の課題です。台湾人にとっては、「国家」を選ぶ真
剣な選択となります。2018年の「九合一」選挙では民進党が大敗し、予想外に国民党が躍進しまし
た。中国は、この勢いに乗って台湾を併合したいとの焦りがあったから、正月の習近平のスピーチ
があったのではないでしょうか。
民進党は、この選挙結果をよく分析し、政権党として今後の進路を探る必要があります。台湾が
中国との統一を拒否し続けているのは、民主と独裁という体制の違いを維持したいからです。自由
民主vs独裁専制の戦いです。
もしも中国が台湾に武力行使をすれば、日米もそれなりに大義名分を持って介入せざるを得ない
でしょう。日米も、2020年の国政選挙の行方を見守っているはずです。目下昂進中の米中経済貿易
戦争の動向も、2020年の選挙に関わる大きな外因となります。チベット、ウイグル、香港の実例
も、台湾に対する影響は極めて大きく、中国の台湾に対する恫喝はどこまで台湾の存在に影響を及
ぼすのか、世界も注視しています。
2020年の選挙は、人類史にとっても世紀の選択となるでしょう。
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