しかし、よく観察してみると、総書記になってからの5年間、習近平にたいした実績はありません。経済成長率は年々減少していますし、南シナ海問題ではアメリカに「航行の自由」作戦を行われてしまいました。ハーグの常設仲裁裁判所には中国が主張する南シナ海の領有権について「根拠なし」と言われてしまいました。
台湾では蔡英文政権が誕生してしまうし、北朝鮮も言うことを聞かないし、AIIBの起債も単独起債はまだ数件しかありません。
腐敗追及運動だけは、周永康を逮捕するなど進展がありましたが、中国官僚は誰もが腐敗していますから、逆に習近平への憎しみが増加しただけです。経済成長の衰退から人民解放軍を再編して兵力削減を目指していますが、今年2月には、退役軍人が反腐敗運動の拠点である北京の党中央規律検査委員会の前で、待遇改善を求めて大規模デモを起こしました。
● 北京の「反腐敗」拠点前で退役軍人ら千人デモ 待遇改善求め、習近平氏への批判勢力関与か
しかも肝煎りの「一帯一路」にしてもインドは自国に敵対的と見ており、モディ首相は中国からの「一帯一路」国際会議への招待を拒否しました。おまけに代表団を送った北朝鮮は開幕日に弾道ミサイルを発射して、習近平の面子を潰しました。
● インドが中国「一帯一路」招待を拒否 パキスタン巡る亀裂を露呈
ロシアは一帯一路で中国から欧州までを結ぶインフラ建設のルートがほとんどロシアを通っていないことに不満を高めています。
要するに、習近平の実績はゼロなのです。
そんな折に、安倍首相から条件付きでも一帯一路についての「協力」の言葉がもらえたとなれば、習近平にとっては国内にアピールするいいチャンスです。もちろん中国は内外に向けて、「東夷が天朝の恵みを求めてきた」という尊大なポーズを取っていますが、習近平にとってはありがたかったでしょう。少なくとも北戴河、そして共産党大会までは、日本と対立して余計な波風を立てたくないはずです。
もちろん、中国の権力闘争は複雑怪奇ですから、日本の反発心を高めて習近平の実績をゼロにしようと動く勢力もいます。最初からゼロならば問題にならないことでも、いちどプラスに持ち上げておいて、そこからゼロに転じれば、それは汚点となります。
そういう意味で、習近平は安倍首相の対中発言や動向に神経を尖らせているはずです。日中関係は、これまでも胡耀邦総書記が失脚する原因の一つとなったり、あるいは天安門事件に対する国際的制裁解除のキーポイントとなってきました。
日本人が考える以上に、中国にとって日本の存在は大きく、他国との関係以上の特別なものがあります。