【産経記事】奔放なトランプ次期米大統領に翻弄される中国

【産経記事】奔放なトランプ次期米大統領に翻弄される中国 核心的利益「一つの中国」さえやり玉に

2016.12.17産経ニュース【湯浅博の世界読解】より

 中国政治の中心である「中南海」はいま、海を越えて飛んでくるドナルド・トランプ次期米大統領(70)の奔放な発言で、戸惑いの中にいるようだ。相手はいまだ就任前の私人にすぎず、さりとて無神経に「核心的利益」に手を突っ込んでくる。ここは聞き流すべきか、最大級の憤激を表すべきか。

 政治のレトリックと実際の行動は折り合いが悪いことは、中国がもっともよく知っている。中国外務省も頭では、「トランプ氏が何を言うかではなく、何をするかだ」とは十分過ぎるほど分かってはいるだろう。

 だから、台湾の蔡英文総統(60)とトランプ氏との2日の電話会談でも、大仰に不満を爆発させなかった。トランプ氏への抗議を迂回(うかい)し、蔡総統に矛先を向けて「小細工を弄した」と述べたのは苦肉の策だ。

 当のトランプ氏は、大統領就任までの間に受ける米情報機関からの報告を拒否していると伝えられる。外交に無知な次期米大統領の迷走に、中国が何かを仕掛けてやぶ蛇になったら元も子もない。なにしろ相手は、メキシコ国境に壁をつくると花火を打ち上げておいて、「一部はフェンス」と線香花火に持ち替えてしまう人物なのだ。

 しかし、トランプ氏の“口撃”は止まらない。中国と台湾の「一つの中国」原則を、米国が維持するかは「中国の貿易や外交政策次第」とのけぞるような発言をした。

「一つの中国」は、中国外交の核心的利益のナンバーワンにあたる。この追撃に「中南海」の要人らが頭を抱える様子が目に浮かぶ。トランプ氏は単なる外交音痴なのか、あるいは熟知の上でのおとぼけか。

 1972年の上海コミュニケで米国は、「台湾海峡の両側のすべての中国人が、中国はただ一つであり、台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している」と表明していた。中国はこれで「一つの中国」原則を認めたと解釈するが、米国は中国の立場を「認識している」といっているだけなのだ。

 他方でトランプ氏は、「就任最初の100日計画」で、第1項目に「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)からの離脱」と、中国が喜びそうなことをいう。日米主導のTPPが頓挫すれば、中国は東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を先行させて貿易ルールづくりの主導権を握ることができる。

 ところが彼は、選挙戦で確約した社会保障の「オバマケアの廃止」や「(温暖化対策の)パリ協定からの離脱」を、この計画から外している。

 トランプ氏は「正邪」よりも「損得」で物事を決める実利優先型だから、よく言えば変幻自在。この先、なにが飛び出すか分からない。

 トランプ氏は8日の演説でも、中国に「ルールに従って行動せよ」と批判するが、その本人が表明する45%の対中関税論は、世界貿易機関(WTO)違反になる。引き下げ誘導を批判する人民元は、現在は逆に買い支えている状況だ。

トランプ氏がそんなに中国の知的所有権問題と国有企業を嫌うなら、「TPPへの回帰」が効果的であることを直視すべきであろう。だから、大統領就任日にTPP反対を表明するというのも、突如、転換するかもしれない。日本がTPPをあきらめるのは早いゆえんである。

 国際社会は来年1月の就任を待たずに、奔放な次期米大統領の登場に振り回される。
(東京特派員)


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