2010.3.4 産経新聞
【ワシントン=古森義久】中国の軍事態勢を研究している米国民間の研究機関「国際評価戦略センター」は、台湾に対する中国の軍事攻撃能力強化についての報告書を発表し、中国軍の増強がこのまま続くと台湾との軍事均衡が完全に失われるだけでなく、台湾有事への介入の可能性を保とうとする米軍の抑止力も無効になるだろうとの見通しを明らかにした。
同センターのリチャード・フィッシャー主任研究員が中心となって作成した報告書は「台湾海峡の空軍力バランス」と題され、まず中国と台湾との空軍力比較について、「中国は2000年には合計100機未満だったロシア製の第4世代の戦闘機群を10年には400機ほどに増し、さらに中国製の同第4世代の多目的戦闘・攻撃機280機を保有するにいたり、現状でも台湾の空軍力を圧倒するようになった」と述べている。
また、「中国側の台湾への空軍力は地上に配備した短距離弾道ミサイル、中距離弾道ミサイル合計1500基以上によって威力をさらに補強されることになる」と警告し、最近は中国の人民解放軍幹部たちが自国製の最新の第5世代戦闘機を17年から19年にかけて実戦配備を開始すると言明するようになった点を強調した。
中国側の第5世代戦闘機は台湾側が保有するすべての戦闘機の性能をはるかに超え、19年ごろまでには合計300機が配備される見通しで、そうなると中国の台湾攻略能力は圧倒的に高くなり、台湾側に軍事的抵抗を当初からあきらめさせて政治的併合を可能にする効力を発揮するようになるという。この第5世代戦闘機が、中国の成都にある航空機製造企業で生産されるとしている。
中台有事のシナリオでは決定的な役割を果たす米軍の介入能力とその結果としての抑止力については、「これまでは米軍のF15戦闘機の中国側に対する優位性が顕著だったが、数年後には中国軍は現在の第4世代のJ11、J10という戦闘機でも機数の増加と新鋭ミサイルの装備などにより米側と同じレベルに達する見通しが強い」とする警告を発した。
さらに、「オバマ政権が09年に新鋭のF22戦闘機の生産を187機に制限したため、中国側の第5世代戦闘機の増産により台湾海峡周辺の制空権を失う可能性も高い」とも述べている。
台湾有事では、中国が東アジアでの空軍力の優位を保つ場合、米軍の台湾支援のための有事介入を難しくし、米軍が実際に中国の台湾への軍事行動を阻止する前に台湾を完全に屈服させることになるという懸念を表明した。