2019.7.26 産経新聞
古森義久
参院選が終わり、憲法改正という課題に新たな光が当たり始めたいま、日米安全保障条約を「不公平」だとしたトランプ米大統領の主張にも新しい重みが加わるだろう。
トランプ氏が6月に「日本が攻撃されれば米国は彼らを守るために戦うが、米国が攻撃を受けても日本は私たちを助ける必要が全くない」と指摘した同盟の片務性はいまの日本の憲法9条に起因するからだ。
日本側ではこの発言を軽視あるいは無視する向きも多い。だが、その種の反応は都合の悪い事実をあえて見ず、頭を隠すダチョウを思わせる。なぜなら大統領発言は米側の国政の場ですでにコンセンサスに近い認識を反映しているからだ。
米国が各国と結ぶ多数の同盟は日米同盟以外は双務的、あるいは均等である。同盟相手は自国が攻撃されなくても米国が攻撃されれば集団的自衛権を発動して共同防衛行動を取ることを誓っている。アジア太平洋で米国が同盟を結ぶオーストラリア、フィリピン、韓国は自国が攻撃されなくても太平洋地域で米国が攻撃されれば米国を守るのだ。
日本側では米軍の駐留経費と基地提供だけで双務的だとする主張もある。だがこれほど国際常識に反し、米側を激怒させる主張もあるまい。同盟が同盟たるのは人間の生命を賭ける有事の防衛行動である。カネと施設の供与だけなら同盟ではなく傭兵(ようへい)だろう。
日本側ではトランプ発言が孤立した衝動的な非難だとか対日貿易交渉への脅しだとする説もある。だがトランプ氏は4年前から同じ批判を繰り返してきた。
米議会では2010年から「日米同盟の強化には憲法9条が障害となっている」という見解がほぼ公式となった。議会調査局が議員の参考資料として毎年、作る日米関係報告書に「米国が起草した日本の憲法は集団的自衛を禁ずる9条の現行解釈のために日米間のより緊密な防衛協力への障害になっている」と明記するようになったのだ。
議員の間でもトランプ氏の政敵の民主党ブラッド・シャーマン下院議員は、日米同盟の片務性をトランプ氏より激しい言葉で非難する。トランプ政権登場から数カ月後、公聴会で「日本が憲法を口実に有事にも米国を守らないならば米国も尖閣諸島を守るな」と2度も日本を糾弾したのだ。
米国では有力紙ウォールストリート・ジャーナルが2017年5月、「日本の憲法9条は日本自身にとって危険になりつつある」とする社説を掲げた。集団的自衛が妨げられているので中国や北朝鮮の軍事的脅威に際して日米で共同対処ができないからだという。
この種の米側の主張は歴史が長い。1997年5月には最大手の政策研究機関「外交問題評議会」が日米同盟に関する報告書で、日本の集団的自衛権行使の禁止を「日米同盟全体にひそむ危険な崩壊要因」と定義づけていた。ハロルド・ブラウン元国防長官、リチャード・アーミテージ元国務副長官ら超党派の40人以上の専門家の見解だった。
だからトランプ発言は米側の圧倒的多数派の代弁であり、遅きに失した言葉でもあるのだ。日本側でこうした経緯を知らずにトランプ発言を退けるのは、危険な無知、知っていてそうするならもっと危険な偽善だといえよう。(ワシントン駐在客員特派員)
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