与那国島で国境の現状学ぶ
八重山群島の特定地域指定を
平成国際大学教授 浅野 和生
有人国境離島法が制定されて間もなく満6年、同法には特定有人国境離島地域として別表に15地域が記載されている。そこに利尻島、礼文島、隠岐諸島、対馬、佐渡の名はあるが、石垣島や与那国島を含む八重山諸島の名はない。
与那国島は面積28・9平方㌔、人口1670人ほどの小島であり、日本最西端の文字通りの国境の島である。また、島を東西2対1に分ける東経123度線が防空識別圏の分岐線となっており、島の東側3分の1は日本の管轄だが西側3分の2は台湾の管轄となっている。島の上空は日本の領空であり、日本は島全体を含むように防空識別圏を直線から曲線に変えようとしてきたが、台湾は同意していない。
<<目の前に隣国空軍基地>>
島の北北東160㌔に尖閣諸島がある。尖閣諸島は、現在は無人島だが、日本の領土であるにもかかわらず中国と台湾がその領有を主張している。1895年1月の日本による領有宣言以来、尖閣諸島が他国の主権下に入ったことは一度もないが、近年、この海域に中国の大型巡視船が居座るようになり、今年に入ってから接続水域に侵入しなかった日は一日もない。領海侵犯も少なくない。
今日、沖縄本島や石垣島に拠点を置く海上保安庁の巡視船が、片道6~7時間の距離を厭《いと》わず交代で常時監視に出ており、実効支配が揺らいではいない。しかし、中国の圧力は日増しに強くなる一方で、一瞬も隙を見せられない緊迫した状況にある。
さて、中国の習近平政権は、台湾併合の野心について隠すことなく、ことあるごとに公言して憚《はばか》らない。2020年秋からは、中国軍の戦闘機、爆撃機、偵察機が台湾南部の防空識別圏を頻繁に侵害するようになっており、南シナ海で上陸訓練を繰り返すなど、軍事侵攻の示威に余念がない。あってはならないことだが、万が一にも、台湾が中国に併合されれば、与那国島の西側3分の2は、中国の防空識別圏に入ることになる。また、与那国島から台湾までは111㌔、晴れれば肉眼ではっきり島影が見える指呼の間にある。目前にある花蓮の港と空軍基地は、一朝事あれば中国のものとなり、与那国島の目と鼻の先に中国軍が展開することになる。
つまり今、日本の国境の離島として、もっともその維持に注力すべきなのが尖閣諸島と八重山諸島である。しかし、八重山諸島は「本土から遠く離れ、交通に要する時間や費用の負担が大きいという条件不利性に鑑み、継続的な居住が可能となる環境を整備する観点から、住民の航空路運賃を新幹線運賃並みまで低廉化する経費の一部を支援する」などの支援策がとられる特定有人国境離島地域に指定されていない。その支援は、同地域にこそ及ぶべきではないか。
ところで、与那国島にはおよそ160人の自衛隊員が配置され、尖閣海域や国境の領空、領海の情報収集にあたっている。その背後を支えるため、石垣島にミサイル基地が建設されつつあり、今年度末に完成の予定だ。幸い、2月27日の石垣市長選挙では、自衛隊配備推進派の中山義隆市長が再選されたので、来年春には基地が開設されるだろう。
与那国島は、半日で一回りできるほどの小島だが、近海はよい漁場であり、ダイビングにも適する。しかし、筆者がこの2月に訪れたところ、風が強く、雨の日が多いので、南の島の楽園のイメージではなかった。与那国島の環境は過酷である。それだけに島民の安定した生活を支え、わが国土を守るためには日本全体からの支援が必要である。
<<全国に支援呼び掛けを>>
そこで、広く意識喚起するために、石垣島、与那国島への修学旅行を推奨したい。現地を訪れることで、素晴らしい自然を体験するとともに、日本を取り巻く国際環境や国境の島の重要性を学ぶことができる。コロナ禍で、台湾研修ができない今日、与那国島の西崎から台湾を見ることもできる。百聞は一見に如《し》かず、である。高校生でもよいが、多くの大学生に学ばせたいところである。そして同行した研究者は、国境の島の支援を全国に呼び掛けてほしい。そのために、政府は、八重山諸島を特定有人国境離島地域に指定して、国境離島修学旅行を支援すべきである。<<(あさの・かずお)>>
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