中国民主化の前提崩れる
「平和的話し合い」の神話放棄
平成国際大学教授 浅野 和生
外交は合理的な合意の積み重ねで成り立つものとは限らない。時には、相互に矛盾する合意をすることも、矛盾の上に関係を継続することも、外交テクニックである。矛盾する二つの合意のどちらを尊重するかは、時の情勢と当事者の価値観による。
今から40年前、1979年1月1日を期して中国と国交を結んだアメリカは、国内法の「台湾関係法」を制定して、台湾との既存の法的関係を継続させることとした。合わせて、台湾防衛のための武器売却をも定めた。
その後、中国は「台湾関係法」を問題視し、台湾への武器の売却に対して厳しく抗議した。こうして82年8月17日に、米中の第2上海コミュニケが発出された。
<<併合の野望隠さぬ中国>>
その第6項目は、「米国政府は台湾への武器売却を長期的政策として実施するつもりはない、台湾に対する武器売却は質的にも量的にも米中外交関係樹立以降の数年に供与されたもののレベルを越えない、および台湾に対する武器売却を次第に減らしていき一定期間のうちに最終的解決に導く」と述べている。
しかし、その1カ月前、米中交渉中の82年7月14日、米レーガン政権は台湾に対して「台湾への武器供与の終了期日を定めない」「台湾関係法を変更するつもりはない」という文言を含む「六つの保証」を与えていた。明らかに第2上海コミュニケとは矛盾する。
これについて、2016年7月になってから、アメリカの上下両院は「台湾関係法」と「六つの保証」を対台湾政策の基礎とするという共同決議を行った。さらに、台湾への武器売却等を定めた18年と19年の米国「国防権限法」は、「台湾関係法」とともに「六つの保証」をその根拠として明示した。
ところで、「台湾関係法」には、「アメリカは台湾の将来が平和的な手段で決定されるという期待の下に、中国と国交を結ぶことを決定した」と記されている。
振り返ると、当時の中国では、鄧小平・胡耀邦体制の下で改革が進められていた。レーガン政権も、米ソ冷戦のクライマックスを戦いつつ、冷戦の勝利と鄧小平の改革開放の先に「中国の民主化」を夢想していたかもしれない。そして91年12月に共産主義の総本山、ソ連の解体と共産党政権の崩壊という結末を見ると、アメリカは、世界は全て民主化へ向かうという楽観論に覆われることになった。
しかし昨年10月4日のハドソン研究所でのペンス米副大統領の演説は、中国の経済成長は、民主化にはつながらなかったと結論付け、「世界民主化」が幻想であったことを明言した。米国の対中認識は変わった。
中国の民主化を前提にすると、中台の話し合いの結果、台湾の民意が尊重される「統一中国」になるか、あるいは「中国が話し合いで台湾の独立を認める」という将来像があり得た。ところが、中国が豊かになり軍事力を高めつつ決して民主化はしないとすると、中台の将来が話し合いで解決される状況は想定できなくなる。
つまり、民主化を達成した台湾が、自主的に独裁国家中国の一部になるはずがなく、共産党専制の中国が、「台湾併合」の野望を放棄することも考えられないからである。本年1月2日の習近平演説は、話し合い解決と無関係に「一国二制度」により是非とも台湾を統合するという意志を鮮明にした。
<<日本も台湾支持明言を>>
去る5月29日、一般社団法人日米台関係研究所が主催した国際シンポジウムにおいて、元米国防次官補のウォーレス・グレッグソン氏は、「台湾の将来は中台間の平和的な話し合いで解決される」という従来の対台湾政策が幻影であったことが明らかになり、アメリカは台湾の存続を支援することにしたと明言した。
トランプ米大統領の最も信頼する同盟国として、日本は、自由・民主と法の支配という根源的な価値観の共有を基礎として、台湾支持の政策を明らかに打ち出すべきである。日米同盟尊重の結果として日中共同声明をめぐる日中間の摩擦があるかもしれないが、外交に矛盾はつきものだというだけのことである。<<(あさの・かずお)>>
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