高まるインド太平洋への脅威
平成国際大学教授 浅野 和生
9月16日にソロモン諸島が、20日にキリバスが、台湾政府に外交関係の断絶を通告した。そしてまもなく、これら2カ国は中国との国交を樹立した。これは日米が進める「自由で開かれたインド太平洋構想」に対する中国による重大な挑戦である。トランプ米大統領とモリソン豪首相は、ただちにホワイトハウスで会談してその認識を共有し、26日午前には、ニューヨークで日米豪印の外相会議が開かれた。
9月初旬まで、南太平洋島嶼(とうしょ)国のうち6カ国が台湾と正式の国交を有していた。上記2国以外に、パラオ、マーシャル諸島、ナウル、ツバルの4カ国である。蔡英文政権が誕生した2016年5月、台湾は22カ国と外交関係を有していたが、中国の圧力によってこの9月までにすでに5カ国が断交、中国と国交を樹立した。さらに9月の5日間で2カ国が断交して、今や台湾の国交国は15カ国となり、さらに減らないとも限らない。
<<広い生存空間持つ台湾>>
これについて日本の報道は、台湾の国際生存空間は風前の灯だと評した。また、来年1月の総統(つまり大統領)選挙に向けて、台湾は台湾であって中国の一部ではないとし、北京政権による台湾併合を断固拒否する蔡英文総統の再選を妨げ、「中国は一つ」、台湾は「中国」の一部という認識を中国共産党と共有する野党国民党候補に有利な選挙情勢をつくるため、中国が「断交カード」を切った、という解説もあった。
しかし、台湾の国際生存空間は、もともと国交ある小さな国々が守っていたのではない。実は、日本もアメリカも欧州連合(EU)諸国も、台湾と国交を持たないが、経済交流と人的往来は盛んであり、友好関係を保ってきた。中でもアメリカは、国内法の「台湾関係法」により、台湾が意に反して北京政府に併合されないよう監視し、先端的な武器を供与し、「台湾旅行法」を制定して政府高官を含む人的往来と物的交流の維持、発展に努めている。さらにアジア太平洋経済協力会議(APEC)にも世界貿易機関(WTO)にも正式加盟していることで、台湾には、広い生存空間が世界に開けている。
今回、台湾と断交したソロモン諸島は、人口61万人ほど、面積2・89万平方㌔の小国、キリバスは人口11万余、面積730平方㌔のさらなる小国である。したがって2カ国との国交は、台湾の国際生存空間に大きく寄与していたわけではない。また、台湾との国交を保っている南太平洋の4カ国は、合計の人口ほぼ10万人、面積715平方㌔で、4国合わせてもキリバス一国より小さい極小国である。それでも国際機関では、主権国家として平等に持つ1票の議決権を用いて、台湾を支持してきた。
しかし、これらの国の本当の存在感は、排他的経済水域(EEZ)の広さにある。実は日本は、国土面積は世界第61位だが、EEZは405万平方㌔で世界第6位の海洋大国だ。上記の島嶼国6カ国の合計では、EEZは日本の2倍以上の868万平方㌔に達しており、ソロモン諸島とキリバス2カ国だけでも490万平方㌔で日本を凌駕(りょうが)する。これらの小国は、南太平洋の膨大な海域を擁しているのである。
しかも、ソロモン諸島はパプア・ニューギニアの東方、キリバスはその北東に位置しており、その海域はアメリカ、ハワイとオーストラリアの紐帯(ちゅうたい)を遮断する位置にある。
<<日本は交流・支援増強を>>
要するに、中国の意図は、台湾の国際空間封じ込めや総統選挙への圧力という「台湾問題」にとどまらず、むしろ米中対決の中で、南太平洋島嶼国へと勢力を拡張し、日米豪を分断し、太平洋におけるアメリカのプレゼンスの後退を迫ることなのである。すでにバヌアツで港湾施設を造りつつある中国が、南太平洋にさらなる拠点を得ようとして触手を伸ばしてきたのである。
今や、小さな南太平洋島嶼国の戦略的価値が、大きく膨らんでいる。「自由、民主と法の支配」という価値観を同じくする同盟関係として、アメリカ、オーストラリア、台湾と手を携えて、中国の南太平洋進出を食い止め、「自由で開かれたインド太平洋」の実現のために、日本は、太平洋島嶼国との交流、支援を早急に大幅増強させるべきである。
<<(あさの・かずお)>>
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