【東京新聞:2012年8月26日】より転載
台湾の李登輝元台湾総統は、年初の総統選で支援した民進党の蔡英文候補が敗れた後、
台湾はさらなる改革が必要だとして、各地を精力的に視察して回っている。台湾と日本、
中国との関係などをめぐり見解を聞いた。(台北・迫田勝敏、写真も)
── 馬英九総統は日台関係は良好としつつ、尖閣諸島は台湾の領土だと主張している。
「尖閣諸島はもともと日本の領土。指導者がはっきりした態度を示せばいい。あいまいな
形にしているからわからなくなってしまう。台湾は漁場の問題だけ(が重要)だ。台湾の
漁民は日本統治時代からあの周辺で魚をとっていた。(日本が)漁業権を認めれば問題は
なくなる。漁業交渉を決着させればいい」
── 総統選後「生命の旅」と銘打った地方視察を繰り返している。
「総統として、政治改革に取り組んだ。立法院(国会に相当)の万年議員を辞めさせ、総
統の直接選挙を実施し、政治を開放した。しかしやれなかったことやり残したことはたく
さんある。一つは経済だ。最近、地方の経済実態を見て回っている。最近も七月末から八
月初めにかけて彰化県や雲林県を回った。
── 政治の世界に戻る考えがあるのか。
「いろいろ提言をするだけだ。そして若い人たちの心が満たされるようないい社会をつく
りたい。地方を回るのは、地方の実情を知ると同時に、いい指導者を探し育てたいと思っ
ているからだ」
── 地方を回ってわかったことは。
「(最南部の)屏東県の製糖工場の広大な甘蔗(かんしょ)畑に樹木を植えていた。広大
な公有地を民間に開放すれば(生産性が高い)茘枝(れいし)などもできるのに…。休耕
地は22万ヘクタールもある。台湾は結局、経済資源や権力を中央に集め過ぎて、民間に開
放していない。それでいて中央の借金(国債残高)は4兆台湾元(約10兆5千億円)という
が、隠れ借金は18兆元もある。合計すると台湾の総生産(GDP)の200%。日本より多
い。中央はどんな経済運営をすればいいのかわかっていない」
── 馬総統は中国との関係強化による経済改善を図っている。
「中国の次期首相といわれる李克強氏と北京大学で同級生だったというある銀行のトップ
が最近来て、北京大学で講義をしてくれと言ってきたが、私は行きません。彼は中国は今
年から2015年まで政治的に乱れると言っていた。その中国に台湾はかなりの投資をしてい
る。台湾企業は輸出できるから中国に行ったが今は輸出も難しくなっている。台湾当局
も、実は中国との関係では困っている。中国との関係はこれ以上、緊密にするのはどう
か。現状維持でいい」
── 日本の政界も混乱が続いているが。
「私は最高指導者の条件は信仰を持つことだと言ってきた。どんな宗教でもいい。私は総
統就任直後の1989年から2004年まで、何か問題にぶつかると、聖書を手に祈り、パッと開
いた箇所を読む。必ず何か役に立つことが書いてある。それに基づいて行動した。指導者
は毅然(きぜん)として行うことが大事。それがリーダーシップだろう」