「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」より転載
べつに「死にやしないさ」ト期限切れ、床に落ちた汚染肉をつかう食品加工
中国のモラル喪失はいまさら批判しても意味がないが。。。。。。。
宮崎正弘
つい先日も世界を驚愕させた事件はマックやKFC、ピザハット、バーガーキング、吉野屋、セブン・イレブン等に加工食肉を卸していた外資系食品加工企業の「上海福喜食品」が平然と期限切れの食肉を使っていたことだった。
しかし、これなんぞ氷山の一角であり、評者に云わせれば格別驚くに値しない。
ところが中国のテレビが大々的に取り上げた。なぜか。外資系企業ねらい撃ちなのである。これは宣伝戦の一環とみるべきであり、しかも背後には上海派を追い詰める習政権のどろどろとした野心が絡むという権力闘争の側面がある。
ちなみに摘発された上海企業は江沢民に近いと云われる上、断末魔と思われた江沢民、さかんにメディアの前に現れる。揚州で船を浮かべ、スターバックス経営者と面会し、先月はプーチンとも会見したが、つい直近の話題は北戴河会議にあらわれ、軍幹部らをともなって海岸で40分間、水泳に興じ、その現場を香港メディアに写真に撮らせて健在ぶりを示した。意図的であり、習近平にむかって「これ以上の手出しをするな」とする信号を送っているのである。(在日中国語新聞「華風新聞」14年9月5日号にも写真あり)。
さて汚染食品の続き。
下水の油をくみ取る溝油が平気で売られている。家庭の主婦は無造作にそれを使う。
メラミンの入ったミルクで乳幼児が死ぬと問題となったが、日本で報道されなかった事件は、米国向けのペットフーズ。一万頭の犬、猫が死んだ。ドロップではパナマで多くの犠牲がでた。
日本で特筆大書された事件は毒入り餃子だった。
長い捜査のあと、ようやく犯人が捕まったが、工場に怨みを持つ貧困邑の冴えない男、しかも懸賞金をねらって妻が密告したのだ。そのうえ、報奨金を受け取るや、その妻は忽然と村から消えた。
現地に飛び込んでフットワークの強い仕事をこなす福島さん、今度は汚染食品の現場に挑み、食品加工工場の深い真っ暗な闇に光を当てた。
カドミウムを混ぜた米は検査で不合格となる。いくら中国でも検査はある。すると業者は、その不合格となった米を合格品と混ぜた。係官は賄賂でごまかすのが常識。中国のいたるところにある日常の風景である。
肉まんに段ボールが入っていた。
腐りかけの肉をピンクに染める化学薬品を使う。
屋台ではどんぶりと箸をどぶ河で洗い、次の客に回す。
なぜ、こんな凄まじく汚染された風景があるのに、わざわざ外資系食品加工企業をねらい撃ちなのか。国内企業育成のため?
じつはそうではなかった。福島さんの大胆な分析は傾聴に値する。
外資系企業の広報活動の仕組みが動くからだという。
「業界の国内事務所――広報――カネによるメディア操作。そこに、食品安全事件――業界の信用危機――価格下落――企業の赤字――赤字の持続――財務危機――外資参入――外資買収。こんな風に業界が米国資本に飲み込まれ、中国企業が慣用していた技術(ネット世論操作など)も使いこなしている」
▼外国企業排斥の庶民心理は報道に現れていないゾ
かくして豚肉の流通は米ゴールドマンサックスが出資した南京雨潤集団がコントロールしており、はてはゴールマンサックス系が中国の養豚業界を抑えた。
家禽業界は米タイソンフーズがおさえ、「鳥インフルエンザH7N9を喧伝して中国養鶏に壊滅的な打撃をあたえ」た。メディアの力を借りて、中国の養鶏業界が崩壊寸前となり、つぎにおそらく中国の養鶏業界も米国企業がコントロールするところとなっているかも知れないと警告する。
こうした目に見えない業界再編、つまり米系企業によるM&A手段による業界支配に中国人は中国企業を支援する心情の基礎が生まれ、この心理を利用して習近平が外国企業に片っ端から司法の手をのばすのである。独禁法違反とか、賄賂収賄とか、いざとなれば死文である法律を引っ張り出してくる。
「外国系企業をターゲットにした方が、人気が出る(中略)。さすが習近平はやるなぁと支持が集まるわけだ」(本書86p)。
「政権の政策の方向性にも合致し、視聴率も(党経営のテレビ)取れる外資系企業バッシング報道は、政府後援による庶民向けのサーカスみたいのもの」なのである。
もうひとつ重要なファクターは外資系企業の労働者が農村出身の疎外されて孤独な貧困層が多く、都市戸籍をもつ中国人から嫌われ、バカにされ、ひどく差別されてきた。
だから犯人には工場に迷惑をかけたという贖罪意識はゼロ、食品安全法律違反に関しても経営側の謝罪はない。
「そう考えると、『食品安全事件』は、その内幕曝露の過程も含めて、労働者の反乱、謀反と言えないだろうか。(中略) 未必の故意の『食品テロ』だ。そういう心理状態に生産者を追い詰めた背景に、中国の特色ある社会主義制度という政治の問題があるとしたら、彼らの報復の最終的な矛先は体制に向かうかもしれない」(235p−236p)。
げに恐ろしきは謀略報道、朝日新聞ばかりではなかった。