【良書紹介】福島香織『SEALDsと東アジア若者デモってなんだ!』

【良書紹介】福島香織『SEALDsと東アジア若者デモってなんだ!』(イーストプレス)

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」より転載

日本の若者のデモは戦争が怖くて反対、それなら中国の脅威にはどうするのか
台湾、香港の「ひまわり」も「雨傘」も中国の脅威と命賭けて戦ったのに。。。

現場に飛んでいって、デモの参加者と直接、中国語で話し込み、丹念にルポを綴る。文章が活き活きと情景を伝える。かれらから本音を聞き出すと、日本の若者のデモとは雲泥の差があることを福島さんは実感した。

まったくフットワークの良さと現場の感度を伝えるたぐいまれな筆力だ。
台湾国会を占拠した「ひまわり学生運動」は、香港の若者に大いなる刺戟と勇気を与え、香港の中枢(セントラルからアドミラリティ)の幹線道路を占拠するという実力行使、これが「雨傘運動」となった。
かれらは中国の脅威、その独裁主義の恐ろしさに立ち向かった。

ところが?!
日本の若者は中国の脅威に対して抑止力をせめて持ちましょうかという程度の安保法制に反対し、国会前でデモや集会を繰り返した。まさにひまわり学連、雨傘革命とは真逆の精神構造、というより善意のバカの集まりに近い。
かれらが「守りたいのは今ひとときの自分の平安な暮らしだけだ。社会を変えると言いながら人生を擲つつもりは毛頭ない」から「何万人集まってとしても社会を変える力になるまい」

だが、福島さんは、この三者の比較を現場でどう見てきたのか、何を感じ、どういうポイントに違和感を抱いたのか、そのあたりの考察が一番おもしろい。
台湾のひまわり革命は命がけだった。中国にノーを突きつけ、一月の総統選と同時の国会議員選挙に五名の当選を果たした。
香港の場合、つよいリーダーは不在で個人的にばらばら、だから組織的まとまりがなかった。しかし若者達は燃えていた。

この流れが、先月来の旺角騒動につながっている。
日本のSEALDSとかいうばらばらの集合体は労組、団体政党が動員したもので、安保法制が成立したら雲散霧消した。命がけでもなかった。一部ツィッターでも集まったらしいが、それならなおのこと、組織にはなりえない。

60年安保世代は反米ナショナリズムがあった。70年代学生運動はセクト主義と内ゲバに終わったが、左右ともに命がけだった。そして三島由紀夫事件に遭遇してもっとも衝撃を受けたのは全共闘、ノンセクトラジカルの若者だった。
三島は東大闘争を見に行って『誰も責任をとって切腹しないのはおかしい』と言った。
いまのSEALDSとかいう、戦争がしたくなくて震える、命を賭けない、適当なパフォーマンスと自己満足、いや自己顕示欲ですかね。お笑いタレントなんかもテレビに映りたくて駆けつけていた。ふやけたデモだった。

福島さんがおもしろいのは、この安保法制デモを香港と台湾からたくさんの若者が見に来ており、彼らがどう思ったかをインタビューしている箇所だった。
若者の意識の比較という、誰も書かなかったアングルが新鮮である。

蛇足ながらSEALDSが三島の楯の会と似ているという示唆が本書にはあるが、SEALDSは単に防御戦という意味での封印の楯、三島の『楯の会』は万葉にもある「大君の醜(しこ)の御楯」、からくる尊皇精神が強く、恋?(れんけつ)の心情から湧き上がったものでまったく異なる。


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