【書評】『中国の狙いは民族絶滅』・チベット・ウイグル・モンゴル・台湾、自由への戦い

【書評】『中国の狙いは民族絶滅』・チベット・ウイグル・モンゴル・台湾、自由への戦い

著者 林 建良 , テンジン , ダシドノロブ , イリハムマハムティ

http://www.amazon.co.jp/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%AE%E7%8B%99%E3%81%84%E3%81%AF%E6%B0%91%E6%97%8F%E7%B5%B6%E6%BB%85%E2%80%95%E3%83%81%E3%83%99%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%82%B4%E3%83%AB%E3%83%BB%E5%8F%B0%E6%B9%BE%E3%80%81%E8%87%AA%E7%94%B1%E3%81%B8%E3%81%AE%E6%88%A6%E3%81%84-%E6%9E%97-%E5%BB%BA%E8%89%AF/dp/4944235453/ref=sr_1_2?ie=UTF8&s=books&qid=1236561853&sr=1-2

               S.A.(東京在住読者)

 林建良という人物は察するところかなりの策士であるようだ。いや、作戦家と言い換えてもいい。

 司馬遼太郎は『坂の上の雲』の中で「軍人とくに作戦家ほど才能を必要とする職業は・・・他にないとおもう」とし、その必要条件は(単に要領がいいというのではなく)思慮が深いくせに頭の回転が早く、ふしぎな直観力がある人物だと、登場人物である秋山真之の資質を借りて述べているが、林氏が作戦家としての資質を備えているのはこの本を読み進めていくうちに納得させられる。なぜなら、文中、我々はふたつの大きなトリックと遭遇するからだ。

 前半は筆者の生い立ちで埋められているが、その成長過程において偶然もしくは必然的に関わってゆく日本・台湾・中国という三つの国々が、筆者に何を与え、何を奪い、何と向き合わせ、何を考えさせたか・・・そしてその結果、現在の氏に何を残して何を指向させるに到ったかを、モノクロームの映画でも見るように、肩の力を抜いた淡々とした語り口とともに我々に追体験させていく。

 それらは表面的には林建良氏個人の回想録という形に見える。が、実は氏の頭と心と体を通して、台湾という国の辿ってきた道と重なるように仕組まれている。

 民族としてのアイデンティティやプライドや団結力といった、これまでに台湾が手放してきてしまったものたちを、もう一度見つめ直そうとする筆者の隠された熱い意図がそこにある。

 次の後半部は前半の趣とは異なり、現実の実態に即した筆者の能動的な見解へとスピディーに展開してゆく。

 作品全体を貫く鋭い中国批判の姿勢に変わりはないが、徹底した批判のみには留まることなく、むしろ運動家である作者の、将来に向けての台湾独立運動の方向性に重点が置かれたものになっている。

 その手法は、民族のDNAおよび文化・宗教が中国とは違う=「一つの中国ではない」ことを丁寧に説いたり、あるいは謙虚に「台湾には形而上のものがなかった」と反省する一方で、今後は日本をはじめとする他の国々への積極的な呼びかけや協力を仰いでいこうとする台湾の意志を示しつつ、チベット・ウィグル・モンゴルという台湾と同様に中国の抑圧を受けている国々と共闘せねば「台湾独立はない!」と強く言い切っている。

 これまでの運動と何よりも違っているのは、筆者が「中華民国体制打倒」から完全に脱却したことと、一国のナショナリズムに頼るというもはや時代遅れの狭い枠組みから抜け出した点にあろう。

 更には、新しい闘いかたとして、「共闘」と「価値観同盟の構築」を提唱していることに我々は注目すべきである。

 林氏はこの書の最初から最後までチベット・ウィグル・モンゴルの三人の運動家たちの話の進行役を務めているが、読者は読み終わって「はた!」と気づかされる。

 すなわち氏がこれら三カ国の独立派の同志を巻きこんでこの著書を企画した時点から、既に新たな運動を展開しているということと、彼がアジアの独立運動家たちを引っ張っていくリーダーたらんとしていることにである。

 これがふたつ目の大きなトリックだったのだ。

 この点だけをみても、林建良氏は心憎い策略家(作戦家)であると知れよう。

 だが、課題も残した。

 筆者は本の中で”政治家と運動家との違い”について触れ、陳前総統の例を引き、「全体の民意がこうなら、私は民意に従っていく」のが政治家であり、「全体の民意がどうであれ『国はこうでなくてはいけない』と訴え、民意を引っ張っていくものだ。個人の感情、利益を度外視して行動するのが運動家だと思っている」としているが、この境界線を明確に断定するのは、私個人としては難しい判断だと思っている。

 もし今後、氏が自己の描くところの運動家として活動しようとするならば、まず第一に政治家とは違うビジョン=(氏のいう)理相的な国家の形を構築し、我々に提示してみせなければなるまい。なぜならそのビジョンが示されない限り、台湾人も台湾独立を支援する日本人たちも引っ張ってはいけないからである。

 だがしかし、私としてはこれからの林氏の思想展開が楽しみであり、「共闘」「精神的同盟」を目指した活動を期待して止まない。

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* 単行本: 237ページ
* 出版社: まどか出版 (2009/03)
* 発売日: 2009/03
 価格: ¥ 1,575

内容

中国が掲げる「中華民族」という政治スローガンのもと、チベット、東トルキスタン(ウイグル)、南モンゴル(内モンゴル)に代表される民族文化の否定、弾圧は五十年以上続いている。中国各地で起こるレジスタンス(征服者への抵抗運動)は、彼らの断末魔の叫びが、行動となって現出しているのだろう。台湾も、親中的傾向の強い馬英九政権が誕生し、中国に呑み込まれてしまう窮地に立たされている。本書ではチベット人、ウイグル人、南モンゴル人、そして台湾人である筆者が、それぞれいまもなお続く、中国の民族弾圧の真実、中国の脅威を語る。

著者略歴
テンジン
チベット・アムド生まれ。高校生のときに亡命を決意。ネパール国境を越え、インド・ダラムサラへ。2000年に来日し、就職。チベットの人権問題解決のために尽力している

イリハム・マハムティ
1969年、東トルキスタン・クムル生まれ。1991年、西北師範大学中国語文学部中退。2001年、来日。2008年、世界ウイグル会議日本代表に就任。ウイグルの人権問題解決に向けた活動を始める

ダシ・ドノロブ
1964年、南モンゴル・フフホト生まれ。1989年、東北師範大学外国語学部卒業。1997年、来日。2004年からインターネット上で数々の文章を発表し、中国政府の対南モンゴル政策を批判。現在、亜細亜大学法学部非常勤講師

林 建良
1958年、台湾・台中生まれ。1987年、交流協会奨学生として来日。東京大学医学部博士課程修了。台湾団結連盟日本代表、メールマガジン「台湾の声」編集長、日本李登輝友の会常務理事


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