【日本李登輝友の会】集団的自衛権と日台FTAに関する「政策提言」

【日本李登輝友の会】集団的自衛権と日台FTAに関する「政策提言」

日本李登輝友の会メールマガジン「日台共栄」より転載

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1>> 本会が集団的自衛権と日台FTAに関する「政策提言」を発表
   座長の川村純彦氏が日本文化チャンネル桜で解説

 設立10年目を迎えた本会は去る3月25日、東京・千代田区内のホテルにおいて第10回定期
総会を開催、「日米台の安全保障等に関する勉強会」で取りまとめた本会初となる「集団
的自衛権」と「日台FTA」に関する「政策提言」を可決した。

 この2つの「政策提言」は日本の国益のため、ひいては台湾のためにも喫緊の課題で、小
田村四郎会長は4月3日、副会長(岡崎久彦、加瀬英明、黄文雄、田久保忠衛、中西輝政)5
名との連名で、野田佳彦・内閣総理大臣、玄葉光一郎・外務大臣、枝野幸男・経済産業大
臣、田中直紀・防衛大臣、鹿野道彦・農林水産大臣に送付し、また日台交流や台湾問題に
関心が深い約50名の国会議員に送付、さらに李登輝元総統はじめ蔡焜燦・李登輝民主協会
理事長、羅福全・台湾安保協会理事長、許世楷・前台北駐日経済文化代表処代表など台湾
の要人40名に送付している。

 「集団的自衛権」に関する政策提言は、「集団的自衛権は保持しているが行使できな
い」という現行の憲法解釈が、日米同盟の緊密化を阻害し、その実効性を強化する上で大
きな足かせとなってきたことに鑑み、「国家としての強い決意を内外に示す上で最も効果
的な方策は、集団的自衛権の行使に関する政府の現行憲法解釈を修正することである」と
して、憲法解釈の修正を求めている。

 一方の「日台FTA」に関する政策提言は、「日本と台湾とは、その緊密な貿易、経済
関係を考えれば、二国間の自由貿易協定(FTA)を締結するに最もふさわしい間柄」で
あるとして、「外交、通商政策上の有力なカードとなり得る日台FTA」の早期締結を提
言している。

 この「政策提言」を取りまとめたのは、昨年、本会内に設置した「日米台の安全保障等
に関する勉強会」で、座長は川村純彦・常務理事(元第5及び第4航空群司令、海将補、岡
崎研究所副理事長)がつとめ、常時10人ほどのメンバーが集い、毎回4時間ほど、発表者の
内容にそって研鑽してきた。

 川村座長は去る4月18日、日本文化チャンネル桜に出演、この「政策提言」について解説
している。奇しくも番組(防人の道 今日の自衛隊)キャスターは濱口和久氏で、濱口氏
もメンバーの一人だ。

 川村座長は政策提言の「緒言」というべき、提言に至る現状分析や問題意識について執
筆しているので下記に紹介し、YouTubeにアップされた番組を紹介したい。

 また、政策提言1:「集団的自衛権に関する現行憲法解釈を修正せよ」と政策提言2:
「台湾との自由貿易協定(FTA)を早期に締結せよ」の全文を紹介したい。さらに、提言の背
景を説明する金田秀昭氏と梅原克彦氏による「論考」も併せて紹介したい。

 なお、「日米台の安全保障等に関する勉強会」は「日米台の安全保障等に関する研究
会」と改称してメンバーを補充し、今年度からは「台湾の国際法的地位」という新たなテ
ーマに取り組み、同様の「政策提言」をまとめることを先の総会で可決している。

◆【川村純彦】日本の役割〜集団的自衛権確立と日台経済連携[桜H24/4/18](19分)
  http://www.youtube.com/watch?v=vGLFv_R9sqI

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日本李登輝友の会「政策提言」[平成24(2012)年3月25日]

 アジア・太平洋地域のパワーバランスを大きく変える要因の1つとして台湾の今後の行方
が挙げられる。中国の急激な軍備増強により中台間の軍事バランスが中国に有利に傾きつ
つあることに加えて、対中融和政策を掲げる馬英九政権の2期目においては、台湾の対中経
済依存度の高まりを利用した中国の統一攻勢がさらに強まる可能性が高い。

 今年1月14日台湾の総統選挙において台湾の人々が親中派の馬英九総統に政権を委ねた最
大の理由の1つとして、中国による併呑は望まないものの、中国の軍事力が急速に増強され
た結果、台湾有事の際に米軍に対して「接近阻止・領域拒否」が可能な能力を備えるに至
ったことから、米国の台湾防衛に対する不安感が高まり、それが国民の馬政権の対中融和
路線を受け入れる結果に繋がったことが考えられる。

 しかし、選挙の結果に対するコメントを見る限り、日米両国政府は、いずれも台湾に対
中関係の安定だけを望んでいるとしか考えられず、今後、日米両国がより強い台湾との連
帯の姿勢を示さない限り、中国の強い影響力の下に置かれた台湾は、やがて中国に呑みこ
まれる可能性が高い。

 このような問題意識を出発点として、日本李登輝友の会では昨年8月7日、「日米台の安
全保障等に関する勉強会」を発足させ研究を続けてきたが、3月3日の第5回勉強会において
策定された本政策提言はその後、常任役員会の審議を経て決定し、理事会諮問及び総会承
認を経て確定された。

 この政策提言は、野田佳彦内閣総理大臣をはじめ衆議院議長と参議院議長、関係大臣に
提出されると共に日本李登輝友の会のホームページ上で公開される。

 なお、これまでの勉強会には、川村純彦(座長)、石川公弘、梅原克彦、金田秀昭、小
林正成、佐藤守、澤英武、濱口和久、藤井厳喜、三宅教雄、宗像隆幸、連根藤、柚原正教
(事務局長)の各氏が参加し、勉強会の成果を取りまとめた論考については、金田秀昭、
梅原克彦の両氏に執筆いただいた。                (座長・川村純彦)

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2>> 政策提言1:「集団的自衛権に関する現行憲法解釈を修正せよ」

 台湾が中国の支配下に置かれることは、東シナ海、南シナ海及び西太平洋、即ち日本周
辺海域が中国の影響下に入ることを意味し、我が国も深刻な安全保障上の危機に直面する
こととなろう。我が国にとっても悪夢である。

 今や日本は、座して台湾が中国に併呑されるのを見守るか、台湾との連携を推進して中
国の外洋進出を牽制するかの岐路に直面しており、日米両国は同盟関係をさらに強化する
と共に、価値観を共有する台湾の戦略的重要性を再認識して新しい対中戦略を策定し、日
米同盟と台湾の協力関係を更に深化させるべき時期に来ている。

 今年1月発表された米国の「新国防戦略」では、沖縄、グアム、オーストラリアなどに即
応性の高い兵力を分散配備することで中国に対する抑止力を図る考えである。しかし、こ
の戦略では中国による南西諸島に対する侵略や東シナ海の安全に対する脅威の増大といっ
た事態に即応すべき米軍兵力が減少する事態が生ずることは必至であり、日米両国は、そ
のような事態にあっても即応能力を低下させないという明確なメッセージを発信するが必
要である。

 そのためには、まず日本が周辺地域の安全保障態勢に主体性を発揮することが求められ
る。

 いま将に、自国の安全とアジア太平洋地域の平和と安定にとって日米同盟の強化が最重
要課題となっており、そのためには実効性のある防衛力の整備及び所要の法的整備に加え
て、日米の同盟関係を対等なものとすることが不可欠である。

 「集団的自衛権は保持しているが行使できない」という現行の憲法解釈が、日米同盟の
緊密化を阻害し、その実効性を強化する上で大きな足かせとなってきたことは否定できな
い事実である。

 この問題を早急に解決し、国家としての強い決意を内外に示す上で最も効果的な方策
は、集団的自衛権の行使に関する政府の現行憲法解釈を修正することである。

 憲法改正を待たずとも、解釈の修正によって集団的自衛権の行使を可能とすることの方
が、要する時間とエネルギーの両面から見てもより現実的であり、かつ、実際の作戦実施
においても共同対処能力を飛躍的に向上させることによって抑止力を更に向上させること
が期待できる。

 ここに集団的自衛権に関する現行憲法解釈の修正を提言する。

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3>> 政策提言2:「台湾との自由貿易協定(FTA)を早期に締結せよ」

 日本と台湾とは、その緊密な貿易、経済関係を考えれば、二国間の自由貿易協定(FT
A)を締結するに最もふさわしい間柄である。もとより、日台両国は、世界貿易機関(W
TO)の正式メンバーであることから、WTO上のルールに則った例外的な措置である二
国間のFTAを締結することには、国際法上の問題もない。加えて、台湾側の官民双方と
も、日本とのFTAの締結についての熱意を持っていることは周知のとおりである。

 しかしながら、日台両国間においては、2002年に民間ベースの共同研究が採択されて以
降、ほとんど進展がないのが現状である。これは、ひとえに、歴代の日本の政権、そして
それを後押しすべき日本の経済界が、日台FTAの締結について、「北京」の顔色を窺
い、「北京」の反対に気兼ねするという、悪しき弊害が今日に至るまで続いているからに
他ならない。

 アジア太平洋地域における各種の地域経済統合の動きが加速している現在、日本として
も外交、通商政策上の有力なカードとなり得る日台FTAについて、東アジア地域の安全
保障をはじめとする政治的な要因を十分考慮に入れつつ、思い切って早期に締結すべきこ
とをここに提言する。