【古森義久】対中政策、⽇⽶に相違

【古森義久】対中政策、⽇⽶に相違 

2019.10.29 産経新聞より

            古森義久

 ⽶国のアジア関連の専⾨家集団が⽇本と⽶国の対中政策の相違がトランプ、安倍晋三両政権の
間に対⽴を⽣み、⽇⽶同盟の根幹にまで影響を及ぼす危険がある可能性を指摘した。

 ペンス副⼤統領が最近、発表した対中新政策でも安倍政権の政策とのギャップが明らかとな
り、今後の安倍政権にとってトランプ政権との対中姿勢の調整が重要課題ともなりそうだ。

 ワシントンの⺠主党系⼤⼿研究機関ブルッキングス研究所は10⽉下旬、「パワー⼤競合時代
の⽇本」と題する報告書を公表した。同研究所外交政策部⻑のブルース・ジョーンズ⽒を中⼼に
計7⼈の中国、⽇本、東アジアなどの専⾨家の研究員が⻑時間、討論した記録をまとめた内容だ
った。

 この討論は⽶国にとって東アジアでは最重要の同盟国とされる⽇本が中国や朝鮮半島などの変
動に対しどんな対外戦略をとるのか、⽶国への影響を主体に論じていた。

 ⽇本へのチャレンジではまず中国の軍事がらみの攻勢として中国の武装艦艇が尖閣諸島の⽇本
領海に恒常的に侵⼊してくる現実が警告された。ただしジョーンズ⽒らからは尖閣が中国の武⼒
攻撃を受けた場合、トランプ政権が「中国との全⾯戦争を覚悟して⽇本の無⼈島を守るかどう
か」という疑問が提起された。

 同討論報告書がさらに強調したのはトランプ政権の現在の中国との対決政策に⽇本が同調して
おらず、そのギャップが⽇⽶対⽴につながる危険性だった。中国専⾨家のリチャード・ブッシュ
⽒は「安倍政権はトランプ政権のいまの経済⾯の中国との対決政策に同調しておらず、⽶中対決
がさらに激化すれば、トランプ政権はまず⽇本の企業に対中取引をやめることを望み、さらに⽇
本政府に明確な協調を迫るだろう」と述べた。

 ⽇⽶の対中姿勢の相違については東アジア安保問題の専⾨家ライアン・ハス⽒が「中国への対
応の違いを原因として⽇本が⽶国との距離をおくシナリオ、⽇本がさらに中国に接近するシナリ
オも考えられる」とも提起した。

 安倍政権は最近、「中国との関係は完全に正常になった」と⾔明し、対中交流全体を拡⼤する
⽅針を明⽰した。この姿勢はトランプ政権の「協⼒から競合へ」という標語の下での中国の対外
膨張の抑⽌政策とは正反対であり、⽶国の政策の否定にもつながりかねない。

 トランプ政権の強硬姿勢は10⽉24⽇のペンス副⼤統領の対中新政策演説でも改めて明⽰さ
れた。「中国は昨年よりももっと攻撃的になった」と断じ、「経済関与だけでは専制国家の中国
を⾃由で開放な社会にすることはできない」とも副⼤統領は宣⾔した。⽶中関係も⽇中関係もま
ず対話や交流を優先すべきだという安倍政権の⾔明とは逆だった。

 ただし安倍政権もトランプ政権も対中政策のこの根本的ともいえる相違をまだ認めてはいな
い。その状況に対して反トランプ志向の⺠主党系シンクタンクの専⾨家たちが両国の差異をいち
早く認めて、その結果、起きうる⽇⽶離反までを論じたという事実は⽇本側としても重視すべき
だろう。

 この⺠主党系専⾨家たちとペンス副⼤統領とでまったく⼀致していたのは尖閣諸島への中国の
軍事攻勢の危険だった。この点も安倍政権は中国に対してなにも提起していない。(ワシントン
駐在客員特派員)


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