【古森義久】トランプ氏VS中国の行方

【古森義久】トランプ氏VS中国の行方 「常軌を逸した」封じ込めに中国が譲歩?

2017.1.7 産経新聞より転載

 古森義久

 米国にまもなく誕生するトランプ新政権が中国に対して強固な対決姿勢を取る展望がますます強くなってきた。歴代の米政権の対中政策でほぼ死語になっていた「封じ込め」という表現さえも、トランプ陣営では口にされるようになった。

 それにしてもトランプ氏のオバマ政治否定はものすごい。オバマ大統領の8年の主要政策すべてを否定、いや正反対へと変える逆転の構えなのだ。オバマ大統領が最大精力を注いだオバマケア(医療保険制度改革)を、トランプ氏が議会共和党と組んですでに撤廃の措置を取り始めたことが典型例である。

 対中政策も似た進路を取ることが確実となってきた。オバマ政権は中国には関与と抑止、協力と反対の両方の政策を公式には唱えてきた。だが現実には中国の軍事力を背景とする強引で無謀な行動に対し融和を求め続けた。その背景には一貫してオバマ氏自身の極端な軍事忌避という潮流があった。トランプ陣営は選挙中からその姿勢を軟弱かつ危険だと非難し続けた。

 当選後のトランプ氏の言動は反オバマ的対中政策の構図を打ち上げ花火のように明確にしていった。

 台湾の蔡英文総統との電話会談、「一つの中国」原則の破棄をも示す予想外の言明、中国を抑止する軍事力増強の再確認、対中強硬派の人物たちの新政権要職への登用…などの措置は一定方向への明白な歩みを見せつけた。「トランプ氏は未経験だから見識もない」という観測は対中政策に関する限りしぼんでいった。

 トランプ新政権の対中政策を占う最有力の材料はトランプ陣営政策顧問のアレックス・グレイ、ピーター・ナバロ両氏の共同論文だろう。グレイ氏は議会補佐官として中国を専門とし、ナバロ氏も米中戦争についての著作で知られ、トランプ政権の国家通商会議の委員長に任命された。

 両氏が連名で昨年11月に発表した論文は「ドナルド・トランプのアジア太平洋への『力による平和』ビジョン」と題され、オバマ政権の「アジア・ピボット(旋回)」策は中国の軍事的な膨張を放置したため失敗したと断じていた。そのためトランプ新政権のアジア政策の要は中国の軍事冒険主義をまず米側の軍事力増強で抑止することを主唱する。

 同論文は「アジアの自由主義的秩序を保つためには中国の軍事覇権を抑える力の実効が欠かせない」としてトランプ氏がすでに発表した米艦艇の274隻から350隻へ、海兵隊の18万から20万への増強がいずれもアジア主体であることを強調していた。

 トランプ新政権のこうした姿勢が中国側にどう映るのか。トランプ陣営の内情に詳しい保守系の国際政治学者マックス・ブート氏は「トランプ氏の『常軌を逸した予測不能の好戦主義者』というイメージが中国側にあるため軍事競合となると、中国が譲歩する見通しが強い」と論評した。

 いずれにせよ米中関係が大きく変わる公算が大きく、日本への影響も巨大である。グレイ、ナバロ両氏は「トランプ大統領が日米同盟への誓約や信頼を保ち、対中政策をはじめアジアの安定の基盤とする政策は揺るがない」と明言する。だがそのためにはトランプ新政権が日本にこれまでよりは「公正な防衛負担を期待する」と強調する点の重さも銘記されるべきだろう。(ワシントン駐在客員特派員)


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