【傳田晴久の台湾通信】山本柳日本舞踊団─台湾に生きる日本の伝統文化

【傳田晴久の台湾通信】山本柳日本舞踊団─台湾に生きる日本の伝統文化 

                      傳田 晴久

◆はじめに

 台湾に受け継がれている日本文化の1つ、いや3つ4つを紹介いたします。先日(2016年2月27日)
台南市の文化センターで開催された「山本柳 日本舞踊 音楽会」というイベントを参観する機会
があり、大変感銘を受けました。私がその会でお約束したのは、「日本の皆さんに今日の感銘をお
伝えいたします」ということでした。

 最初にお断りいたしますが、今回の参観にはカメラを持参しませんでしたので、画像を添付する
ことができません。インターネットで調べましたが、今回演じられたものの写真は見当たらず、雰
囲気をお伝えできそうなものを1、2枚拝借させていただきました。

◆何があったか?

 数日前、所用あって、台南市麻豆区にある真理大学の張良澤先生をお訪ねしたところ、帰りしな
「これに行くかね」と「山本柳 日本舞踊 音楽会」と印刷された案内を見せてくれ、もし行くな
らとチケットをくださった。

 文化センターは私が住むアパートから歩いて行ける距離です。確か数年前にも一度、日舞のイベ
ントのご案内を頂いたように思いますが、その時は行かなかった。正直言って、当時の私には「台
湾(人)の日舞」にはあまり興味も関心もなかった。

 しかし、文化センターに来てみて、その舞台を拝見して驚かされました。演じられたのは、木
笛、日本舞踊、筝曲、沖縄三線琴、更になんと居合抜刀道の演武までありました。

◆演目は

 観客席は階段状で、前面に舞台が広がっている。開演直前、照明が徐々に暗くなり、ほぼ真っ暗
になると、木笛の音とともに木笛奏者が1人登場、ゆっくりと木笛を奏しながら舞台を進み、来賓
に挨拶をし、木笛を奏しながら退場する(奏者は王紀明さん)。聴衆は思い出したように拍手。舞
台は再び真っ暗。

 しばらくすると数人の演者が登場した気配であるが、誰かはよく解らない。照明が徐々に明るく
なり、そこに10人ほどの、白い浴衣に紅白の菅笠をかぶった女性が現れ、「お座敷小唄」に合わせ
て踊り始めた。よく見るとかなりのご年配のようである。

 後で分かったことですが、皆さん80歳代、最高齢の方は88歳というではありませんか。皆さん、
しっかりした足取りで踊られる(出演者は麻豆老人福利協進会のみなさん)。最近、杖を欲しがっ
たりしている私は赤面頻り。

 「古都逍遥」(蔡佼瑾さん)、「里の秋」(高瑩●さん、黄筱翎さん、劉文秀さん、▼玟
蓁さん)、「落葉時雨」(蔡金葉さん、彭明俐さん)、「遠花火」(陳灼華さん)、「蛍」(蔡孟錚さん)、「影を慕いて」(山本柳さん)と独演、共演が続いた。

 皆さん、着物姿がとてもよく似あう。昔、外国映画に出てきた日本人役、着物姿であるが、何か
しっくり来なかった感じを思い出した。今日のこの舞台は、出演者の着物姿がとてもしっくりとし
ているのが印象的でした。私はそれがよく解るわけではないが、歩き方、裾捌き、とてもよかった
と思う。

 その合間に、先ほどの木笛の王紀明さんの即興演奏があり、また日本人大洞敦史さんの沖縄三線
琴「安里屋ユンタ/涙そうそう」が演じられた。

 休憩をはさんで、日本筝曲と舞踊「櫻/時の流れに身をまかせ」(徐宿[王平]さん、洪敏慈さ
ん、蔡佼瑾さん)が演じられました。続いて、日本舞踊「男の純情」(劉文秀さん)があり、その
次に、安平にある安平居合抜刀道館の皆さん方10人ほどによる居合抜刀道の演武がありました。

 生身の日本刀による演武はまことに迫力あるもので、固唾を呑んで見守る我々は、その気迫に圧
倒されました。初めて見せていただく居合抜刀の演技は、拍手してよいものかどうかわからず、た
だ気押されるようにじっと見ているのみで、演ずる皆様もやりにくかったかもしれません。演武が
終了して、初めて我に返り、盛大な拍手を送った次第です。中でも畳表を捲いたものを立てて置
き、それを抜いた刀で気合いもろとも一刀両断する演武はまことに迫力あるものでした。

 引き続き、日本舞踊「木曽路の女」(高瑩●さん)、「恋紅葉」(彭明俐さん)、「女の港」
(蔡金葉さん)、「好きになった人」(高瑩●さん、陳灼華さん、黄筱翎さん、蔡孟錚さん、
蔡金葉さん、蔡佼瑾さん、彭明俐さん、劉文秀さん、▼玟蓁さん)が演じられ、最後に山本柳
さんの「昴」で締められました。
(●=草冠の下に分。▼=龍の下に共。)

◆評価

 会場入り口でパンフレットと1枚の用紙が手渡されました。評価用紙です。各々の演目ごとに、
全体の印象、専門的技能、お化粧の具合、髪型、服装について、5段階評価を求めるモノでした。

 めんどくさいなぁと思いながら、席に着きましたが、演技が始まり、しばらくすると私の頭の中
は混乱してまいりました。あれ、ひょっとするとこの人たち台湾人かな・・・・そうでした、まぎれも
なく台湾の人々が、日本舞踊を演じているのでした。三線は日本人でしたが、お琴も居合抜刀も木
笛もみな台湾の人々がやっているのでした。

 しかし、その立ち居振る舞いは日本人そのものではありませんか。結局、私はその評価用紙は提
出しませんでしたが、評価用紙全体を丸で囲み、真ん中に大きく5(非常に良し)と書きたい心境
でした。だってそうじゃありませんか、台湾の人々が、日本の文化に取り組んでくださっているの
です。

 全ての演目が終了した後、舞踊団の皆さんと観客との「交流の場」が設けられていました。指名
された張良澤先生が祝辞とコメントを仰いましたが、突然「日本人がひとり、ここにきているの
で、日本人の感想を聞こうではありませんか」といきなり私に振って来られました。

 わたしはとっさに何を申し上げようかと思いましたが、素晴らしい演技を褒め、楽しませてくだ
さったことに謝意を表し、来週日本に戻るが、必ず日本の友人たちに今日のこの素晴らしいイベン
トを、その感激を伝えますと申し上げました。

 すると先生はさらに、「今日のこの演技に欠点はありませんか?」とたたみかけてこられまし
た。一瞬詰まりましたが、申し上げたのは、先程のオール5の思いで申し上げました、「欠点がな
いのが欠点です」と。

◆山本柳日本舞踊団とは?

 この素晴らしいパフォーマンスを見せてくださった「山本柳日本舞踊団」とはいかなるもので
しょうか。山本柳さんに直接お聞きする機会がないものですから、頂いたパンフレットの説明を基
に紹介いたします。

 山本柳さん、本名柳信慧さんは台南市麻豆区の方で、台南師範大学を民国52年(1963年)に卒業
された後、小学校の音楽教師を務められる傍ら、日本舞踊の家元山本倭子(本名山本五月)女史に
師事し、長期間日本舞踊を学ばれた。大師山本倭子さんがいまわの際、柳信慧さんに山本の名前を
与え、「山本柳」を名乗るようになられたと言います。

 山本柳さんは多数の弟子を指導しながら、多くの創作舞踊を発表し、国の内外で活躍、好評を博
しています。

 山本柳さんは日本舞踊独特の緩やかな動きが、加齢とともに体力が衰えてくる高齢者の治療、リ
ハビリに非常に適していることに着目し、高齢者への普及にも努めておられます。今回の公演に
は、山本柳さんが20数年指導しておられる台南市麻豆区老人福利協進会の皆様が元気な姿を見せて
くれていました。

 張良澤先生は、今回の「山本柳 日本舞踊 音楽会」は、自慢の門下生を糾合し、木笛や武道を
組み合わせた斬新なもので、「山本柳」の特色をいかんなく発揮したものであると紹介されていま
す。

◆おわりに

 台湾の北に「友愛グループ」という「正しく美しい日本語」を台湾に残そうというグループがあ
り、毎月、会員が集まり勉強会を開いています。もちろん台北だけでなく、台湾各地から会員が集
まります。台湾歌壇という短歌の会もありますし、台湾川柳会という川柳を楽しむ会、台湾俳句会
という会もあります。

 しかし、私は日本舞踊の会、筝曲の会、居合抜刀道の会までは知りませんでした。恐らく柔道、
剣道もあるでしょうし、ひょっとすると謡曲や能の会もあるかもしれません。

 台湾には正に日本の伝統文化があるのです。そして「日本精神」があるのです。嬉しいことでは
ありませんか。


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