【傳田晴久の台湾通信】「朝鮮・台湾の日本統治」

【傳田晴久の台湾通信】「朝鮮・台湾の日本統治」

1. はじめに

武漢肺炎(COVID-19)のお蔭で台湾に戻れなくなり、早や一年が経過してしまいました。台湾生活を楽しませていただいていたころ、日本の友人たちからよく聞かれました。過去に日本の統治を受けた台湾と韓国・朝鮮との比較、片や親日、片や反日、その理由や如何?一昨年の暮、月刊誌「正論」(2019年12月号)に「朝鮮・台湾の日本統治 なぜ、かくも評価が異なるのか 拓殖大学学事顧問渡辺利夫×麗澤大学客員教授西岡力)が掲載されました。一読、これを友人たちへの回答としてご紹介しようと考えたのですが、いろいろの事情有之、タイミングを逸してしまいました。ところがひと月ほど前、ネット上で「韓国が日本に反発するのは、王朝があったから?」という一文を発見しました。今回の台湾通信はこの問題についてのお答えを紹介させていただくことにしました。

2. 片や親日、片や反日

訪日ラボ
(honichi.com)というブログに、親日国といわれるのは台湾、ブラジル、タイ、反日国といわれるのは韓国、中国と紹介されていました。

 台湾については、「世界一親日的と言われることもあるくらい日本への好感度が高く、過去には日本が統治していた地域でもあり、日本人をルーツに持つ台湾人や共通する文化が多いことも要因の1つであると考えられており、日本食やアニメ文化、外国人に対するおもてなしといったコンテンツが、こうした歴史を背景に好印象を抱かれる対象となっています」と解説しています。

韓国については、「第二次世界大戦によって引き起こされた諸問題が現在も尾を引いており、隣国でありながら反日感情の強い国として知られています。日本政府が韓国向け半導体材料への輸出管理厳格化に踏み切った影響で、現在韓国では日本製品の不買や日本旅行キャンセルといった「ボイコットジャパン運動」が激化しており、両国の経済にも打撃を与えています」と解説しています。

3. 正論の対談(渡辺利夫vs西岡力)

渡辺・西岡両氏による「正論」誌の対談を私なりの理解でまとめると、次のようになります。日本による台湾と朝鮮半島の統治は、植民地支配であるが、その「初期条件」と「日本統治が終わった後の条件」の違いが、台湾と朝鮮の日本統治観の違いになっている。「植民地支配」という言葉は文明国が未開国に文明を移植するという意味でまさに理想的な概念であり、当時の日本人もまた、「植民地支配」という言葉をネガティブには捉えてはおらず、朝鮮、台湾ともに日本の植民地だと思っていた。

渡辺氏は、開発経済学では開発をスタートさせるにあたって与えられていた一切の条件のことを「初期条件」というが、朝鮮と台湾ではこの初期条件が全く違い、日本にとって台湾はフロンティアであり、李氏朝鮮のように五百年にも及ぶ歴史や文化の伝統を持ったところではなかったと解説されています。

日本が朝鮮、台湾を「永久併合」しようと考えた時、その地の身分制度の解体が不可欠と考えていた。朝鮮の場合は王とそれを取り巻く両班(ヤンパン)といわれる官僚エリートがすべての権力を握っていた。両班というのは(デジタル大辞泉によれば)、「《朝鮮語》朝鮮の高麗(こうらい)および李氏朝鮮時代の特権的な官僚階級、身分。文官は東班(文班)、武官は西班(武班)に分けられていたのでこの名がある。官位、官職を独占世襲し、種々の特権・特典を受けた。ヤンバン。」ということです。

日本は、朝鮮統治に際して朝鮮の支配階級から既得権益を奪い去ったのであり既存エリート層から徹底的に疎まれることをしたことになります。こうした意識は今日にもつながっており、現代の左派知識人などは両班の末裔だと考えられるということです。

一方の台湾については、私が台湾に移り住み始めたころ(2006年)、台湾を知るために伊藤潔氏の「台湾」を読みました。日本が清国から台湾を割譲された当時(1895年)、台湾には所謂「国」は存在して居らず、台湾島自体は清朝に支配されており、清朝そのものは台湾を「化外の地」(デジタル大辞泉は「王化の及ばないところ。国家の統治が及ばない地方」と解説)とみていたということを知りました。対談では、清国は台湾の開発や経営には全く関心なく、台湾には有機的な統合社会は日本統治まではまるで存在していなかったと述べておられます。しかも日本政府は、台湾に在住している中国人に2年間の猶予を与え、自分が住む場所(台湾島か大陸か)を自由に選択させたといいます。自らの自由意思で台湾を選択したのです。

「日本統治が終わった後の条件」の違いとしては、朝鮮半島は北朝鮮と韓国に二分され、北朝鮮には朝鮮労働党が入り、北朝鮮の人々は今の生活(例えば、90年代の大飢饉など)と日本統治時代のそれを比較してしまいます。韓国では、庶民出身の朴正熙氏の政権が日本との連携を重視し、逆に両班が復活し、反朴正熙、反日が膨らんでいった。戦後、日韓の左派の反日を媒介にした連携も強く、特に歴史学では反日が日本から輸入されました。

一方の台湾では、日本が台湾を放棄した後に国民党による38年に及ぶ戒厳令が敷かれ、朝鮮半島における両班時代に見られたような「奪う者と奪われる者」の2つしかないような時代が台湾にもやってきました(いわゆる「犬が去って豚が来た」ような時代)が、その後李登輝氏による本格的な民主化が始まり、日本統治時代の記憶がポジティブなものとしてよみがえったのです。
この対談の詳細は「正論」(2019年12月号)をご覧ください。私は、本体8円、送料250円で入手しました。

4. 「韓国が日本に反発する理由」

日韓文化研究家の平井敏晴氏は、元台北駐日経済文化代表処代表(大使に相当)を務めた羅福全氏にインタビューした結果を次のように述べています(JBPress 2021.3.27)。

「韓国が日本に反発してしまう理由はいろいろありますが、王朝があったから」、「朝鮮王朝を潰した日本への反発心が何らかの形で韓国社会に根を張っているという意味である」、「1897年に朝鮮は国王を皇帝に代え、大韓帝国が成立し、日韓併合の1910年まで存在した。韓国は正式な国名が大韓民国であることからもわかるとおり、大韓帝国と無縁ではない」、「現在の韓国には大韓帝国が重ね合わせられ、さらにそこから直接遡れる朝鮮王朝500年の歴史を自ずと回想することになるというのだ」、「そんな思考体系によって、近代日本と朝鮮王朝は対立関係に置かれてしまう。当時の日本の仕業に反対・反発することは、現在の大韓民国においても正しく称賛されるべき行いであり、そうしなければ罰せられる対象になる。日本で冷淡とも言われる親日派への処遇である」

5. こういう見方も・・・・

一昨年(2019年)9月30日発行の週刊誌「AERA」に姜尚中(政治学者)とダニ・オルバフ(イスラエル人軍事史家)の対談が載っており、その中に、
ダニ: 「『植民地』としての朝鮮半島は天皇直属です。同じ『植民地』でも台湾は内閣直属でした。」
姜: 「そうですね。今、日本人はどうして台湾が親日的なのに韓国が反日的なんだろと考えますよね。でもそれは、台湾統治と朝鮮半島の統治の組織構造の違いを考えると分かります。」

ダニ: 「当時の大日本帝国憲法のわずかな権利すら民衆に与えず、総督が天皇の代理人として弾圧できたのが朝鮮でした。朝鮮では総督が代々陸海軍大将であったのに比べ、台湾では大正8(1919)年から昭和11(36)年まで貴族院議員の政治家が続きました。」
姜: 「天皇直属となれば、時の政府は口出しはできません。・・・・天皇統治とはある意味、統帥権が不可侵であるのと同じです。最終的に同化政策の時は、君たちは日本の本土にいる人たちと変わらない、ということになります。天皇の愛顧をみんなにあげるというのは大変な恩恵であるという発想です。それを天皇統治では一方的にどんどん進めていくことになり、朝鮮半島の日本に対する評価が変わってくるわけです。」
と述べられています。

要するに、台湾と朝鮮半島での評価の違いは、朝鮮半島においては、天皇の名のもとに「同化政策」を一方的に進めた結果であるということでしょう。対談の一部を取り出しての引用ですので、全体を知りたい場合は「AERA」の2019.9.30号をご覧ください。私は、本体1円、送料380円で入手しました。

6. おわりに

朝鮮・台湾の日本統治について、色々な見方があることが分かりましたが、現在の台湾が親日的であり、朝鮮・韓国が反日であることは間違いなさそうですが、しかし、渡辺・西岡対談によりますと、「台湾が親日的だといっても、親日一色だったといえばそれはいい過ぎです。『台湾人の誇り』を読み違えてはいけません。」「17世紀に福建省や広東省からやってきた移住者やマレーポリネシア系の原住民の勢力は日本に対して激しく抵抗したということを、台湾人は高く評価しています。」「それは国民党系の人々はもとより、民進党系の人々もそうです。黄昭堂先生、許世楷先生といったあれほど親日的で深い日本理解がある人でもそうです。」「台湾の国益を損ねかねないような尖閣諸島問題などでは台湾の公式言論が反日一色になることは珍しくありません。」「ですから台湾人を親日一色だと思いこんだり、これに甘え過ぎたりしないことが大事だと思います。

このことは、前号(No.152)「台湾は日本の植民地だったのか?」において、李筱峰教授が「志ある国民は『植民統治』を必要としません。私たちは、私たち自身の国を持って、自分自身を管理する必要があります!」と述べておられることに符合すると思います。


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