【傳田晴久の台湾通信】「台湾の武漢肺炎への対応」

【傳田晴久の台湾通信】「台湾の武漢肺炎への対応」

               傳田晴久

1.はじめに

武漢肺炎(COVID-19)による足止め生活は4か月を超えました。お陰様で、この期間を利用しての療養は順調に進み、正に「塞翁が馬」を実感しております。

久しぶりにお会いした何人かの友人に、「台湾の素晴らしい防疫について、その理由や如何?」とのご質問をいただきました。ネットやテレビ、雑誌などで多くの方々がいろいろ解き明かしておられますので、それらを参考にさせていただきながら、今回の台湾通信では、台湾の武漢肺炎防疫について書かせていただきます。

2.SARSの体験がありました

日本の武漢ウイルス防疫は、世界の多くの国々のそれに比して、かなりうまくいっているほうと思いますが、台湾に比べると相当劣っているようにも見えます。台湾と日本の差として、先ず思いつくのはSARS体験の有無ではないかと思います。

SARSは「重症急性呼吸器症候群」の頭字語で、2002年11月から2003年7月にかけて、中華人民共和国南部を中心に起きた疫病で、広東省や香港を中心に8,096人が感染し、37ヶ国で774人が死亡したといいます(ウィキペディア)。この時、台湾での感染者は346人、死者は37人でした(WHO発表)が、当時の台湾は、(現在もそうですが)中国の圧力によって国際機関に加入できておらず、世界保健機関(WHO)から情報(原因、診断法、死亡率、治療法など)提供などの協力を得ることができませんでした。暗中模索、国民全員が知恵を絞り対処されたようですが、その苦労して学んだことを今ではSOP(標準業務手順書)にまとめ上げたそうです(木下諄一氏、nippon.com)。

日本でSARSが発症した例はないようですし、2012年に初めて確認され、中東地域に広まった中東呼吸器症候群(MERS)も日本で発症した例はないとのことです。台湾ではSARSで苦労した経験が生かされました。

3.中国(人)に対する態度

台湾の防疫成功の第二の理由として、私は台湾の人々が抱く中国(中国人)観ではないかと思います。少なからぬ日本人は、台湾の人々を中国人と思っているのではないでしょうか。私が過日(3月初旬)入院した時、病院の入り口で問診を受けましたが、「過去2週間以内に外国にいましたか? 」という問いに対して「先週台湾から戻りました」との私の答えで、入場を拒否されました。声を大にして、台湾と中国は全く違うと説明し、しばらく押し問答の末、ようやく入場させてもらえました。

大雑把にいえば、台湾の85%の人々は自分は台湾人であると思っており、10~15%の戦後大陸から来た人々に支配された結果、自分たちと大陸の人々とは違うということを知っています。だから、武漢で得体の知れない病気が発生したことを知った台湾人(当局)は、SARSの体験から何を為すべきかを直感されたものと思います。把握した情報を直ちにWHOに通報したそうですが、取り上げてもらえず、大陸からの情報に依存することなく、中国との交流を断つ決心をしたのです。

蔡英文総統は、「中国との窓口を閉じることでしかウイルスの侵入を押さえ込む方法はないと判断し、最も早い段階の1月下旬に中国人の入国制限を強化し、2月上旬に全面禁止に踏み切ったとみられている」(野嶋剛氏2020.3.19 HUFFPOST)。

4.指導者に恵まれた台湾当局

武漢肺炎(COVID-19)が発生した当時、総統である蔡英文さん、副総統の陳建仁さんはSARSと戦った戦友でした。「蔡英文総統は当時中国関係を統括する大陸委員会の政務委員(閣僚級)を務め、陳建仁副総統も当時最前線で対応に当たった行政院衛生署署長を務めていました。これらの経験から素早い動きが出来たものと言えます」(重金利宏氏のブログより)。

「陳建仁副総統は、米ジョンズ・ホプキンス大学で公共衛生・流行病で博士号をとり、SARSの時は行政院衛生署署長だった。武漢肺炎対策で陣頭指揮にあたっている陳時中・衛生福利部長(衛生相)は、台湾歯科医師会の会長を務めた歯科医だ。」(岡田充氏Business
Insider)

行政院副院長の陳其邁氏は省庁を横断する調整に奔走されたが、彼もまた医師でありました。政府の中枢に医療関係者、公衆衛生の専門家がおられたのは誠にラッキーでした。

5.公徳心(他人のために)

現在の日本は、第二波が来ようとしているようですが、それまでの対処はかなりうまくいったように思われますが、日本人の公徳心の高さを強調するためか、日本政府の対処を為にする意見があるように思われます。

台湾の防疫成功の理由として、公徳心を挙げることが出来るように思います。台湾通信第143回でお伝えしましたが、台湾で一時マスクが買い占めにより品薄になった時、ある若者が「わたしはOK,お先にどうぞ」というキャンペーンを張り、多くの人々が譲り合い、本当にマスクを必要としている人々にマスクがいきわたるようにしました。

また、次のような報道もありました。台湾の対策が、プライバシー侵害になる恐れがないかを問われて、「誠実にルールを守るのは自分のためであり、家族のためであり、社会のためだと、それが人間としてやるべきことだと多くの人が認識しました。社会の中でどういうふうに人と人が尊重しあいながら互いを守るかといった公民意識や、社会の一員としての意識が強まったと思います。」(朝日新聞GLOBE)

6.情報公開と隠蔽

「中央流行疫情指揮中心」の指揮官陳時中氏は「情報が多いほど、パニックは防げる」として、毎日記者会見を行い、メディアから手が挙がらなくなるまで質問を受け付ける。常に鬼のような厳しい表情を崩さないなかで、時に感染者を思っては涙を流すという人情味あふれる態度を見せて、国民の人気は急上昇。「次の台北市長」の呼び声すら上がっている、と野嶋剛氏は伝えています。私は3月2日に台湾を離れましたが、その頃、テレビのスイッチを入れると、そこには陳時中氏の顔があるというくらいでした。
指揮官が前面に出て、あらゆる質問に対して責任ある回答を、真摯な態度で行うということは、大いに見習う必要があると思われます。

台湾でも一時マスクや消毒用アルコールが店頭から消えてしまったことがありました。しかし、薬局のマスク在庫数量を公にすることで、国民の不安、不満は解消されました。政府がマスクの在庫量を把握し、公開しました。それを受けて民間のシステム屋さんたちが「マスクマップ」なるシステムを開発し、公に供しています。何処に何が幾つあるか(在庫情報)、何処で何を幾つ必要としているか(需要情報)、何処で何を幾つ生産できるか(生産能力情報)、これらの基本情報が提供されれば、需要者も供給者も計画的な行動がとれます。逆に某国のように情報を隠蔽したり、いい加減な情報を提供したり、情報を制限すれば、国民は疑心暗鬼になり、計画的な行動がとれず、不満が募るばかりです。台湾の対応は素晴らしいものでした。

7.おわりに

火災発生時の対処の第一は隣近所に火災発生を知らせ、消防に通報すること、次に初期消火に努めることとされています。初期消火が可能なのは、天井に火が回るまで、約2分が限度とされるそうで、それ以降は専門の消防隊に任せるべし。初期消火に成功すれば、ボヤで済み、被害を小さくできます。

武漢肺炎に最初に気づいた武漢市の医師は知人に先ず知らせたようですが、当局はそれを取り締まったという。台湾は、消防署に相当するWHOに疫病発生を通報したのに、活かされませんでした。中国にいじめられ、SARSの経験を活かした台湾は「中央流行疫情指揮中心」を立ち上げ、大陸とのルートを遮断するという初期対応を成功させることが出来ました。初期消火の大切さがわかります。
            


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