【傳田晴久の台湾通信】「新型コロナウィルス感染症の正名は?」

【傳田晴久の台湾通信】「新型コロナウィルス感染症の正名は?」

1. はじめに

3月2日に帰国し、頸動脈狭窄症の治療のために入院、手術を受けている間に、台湾は日本からの旅行者の入国を制限するようになってしまいました。手術(頸動脈にステントを入る)は無事に終了しましたので、引き続いて転移した癌の治療のために入院しましたが、抗がん剤の副作用のせいで、しばらく病院に留め置かれてしまいました。その間、台湾通信を書く時間も意欲もなくなってしまい、気が付けばゴールデンウィークに入ってしまいました。台湾にいるわけでもないのに、無理を承知で、日本にいながらの台湾通信を書こうと思い立ちました。話題はやはり「武漢肺炎(COVID-19)」関連です。

2. 時事用語の解説

友愛グループの勉強会(毎月一回開催)も武漢肺炎(COVID-19)の影響で、開催不能となり、現在は「自宅学習」を行っていますが、その教材作りをしているとき、「パンデミック」「社交距離」「疫情」などの最近の流行りことばの解説をしてほしいとの要請がありました。これは、自分の勉強にもなるので、手元の辞典やウィキペディアなどを参考に「時事用語解説」を試みました。

手元の辞典(小学館デジタル大辞泉)には、さすがに「パンデミック」は載っていましたが、「社交距離」「疫情」は載っていませんでした。

「社交距離」は感染者との「濃厚接触」を避けるために人と人との間隔距離を保つ必要があるということで、台湾では「保持社交距離」というように使われています。すなわち
“social
distance”の“social”「社交」は社交ダンスの社交に倣った言葉のようです。日本(語)では“social
distance”は「社会距離」「社会的距離」と訳されているようですが、物理的な間隔を意味していますので、「車間距離」(走行中の自動車と自動車との間で、安全のために保つ距離)に倣って「人間距離」(ジンカンキョリ)あるいは「安全距離」が良いかもしれません。なお、ネット上の「和製漢語」
BIGLOBE一覧を見ますと“social”の「社交」との訳は和製漢語だそうです。
教材を作成していて感じたことは、パンデミックはさておき、社交距離やロックダウンなど、一般の人に、伝える側の真意が果たして通じるのだろうかということです。
そんな時、防衛大臣河野太郎氏のツイッターに書かれた意見を読む機会がありました。「河野氏は22日、自身のツイッターで『クラスター』を『集団感染』、『オーバーシュート』を『感染爆発』、『ロックダウン』を『都市封鎖』と列挙し、『なんでカタカナ?』とつぶやいた」そうです。

3. テレビの解説に触発されて

5月2日(土)の夜放映されたBSフジLIVEプライムニュース「哲学と思想史の観点から見る…コロナが日本国民に突きつける新しい民主主義の姿とは?」という番組を見る機会がありましたが、その最後に東京大学大学院人文社会系研究科准教授・古田徹也氏の提言に「言葉を選択する責任を果たす」というのがあり、「言葉を大切にするということ。自分がしっくり来る言葉を選んでいく」ことの必要性を強調された(ように私は感じました)。

多くの文脈の中の一文のみを取り上げて引用するのはいかがかとも思いますが、私は、為政者であれ、マスコミであれ、何かを訴えようとするとき、その内容が相手に正しく伝わらねばならないと考えますが、その時に人づてのカタカナ言葉を多用するのはいかがなものかと思い、古田先生の「言葉を選択する責任を果たす」というご提言が印象に残りました。

4. スぺイン風邪

言葉がその真の意味を表していない言葉の例として、「スぺイン風邪」を取り上げましょう。手元の辞典によりますと、「1918年~1919年にかけて全世界に流行したインフルエンザ。悪性で伝染力が強く、死亡者数は第一次世界大戦による死者数を上回ったといわれる」と説明されています。私は、てっきりスペインが発祥地と思っていましたが、ウィキペディアの説明では、「第一次世界大戦時に中立国であったため情報統制がされていなかったスペインでの流行が大きく報じられたことに由来する(スペインが発生源という訳ではない)」 となっています。

スペイン風邪の起源については、フランス、北米、中国など諸説あるそうですが、いずれも仮説の域を出ないそうです。

この度の世界的大流行の感染症は当初「武漢肺炎」と報道されましたが、それは武漢市で最初に発生した故でしたが、2020年2月11日世界保健機関(WHO)は「COVID-19」と命名しました。その時、WHOは「風評被害などを避けるため地名、動物名、人名、組織名などを盛り込むことはしなかったと説明しました。それは、2015年にWHOが感染症などに地名や人名、動物に含まれる名称を付けることを避けるという指針を公表したからといいます。

5. 怪しい病気の名称 

「風評被害」とは「根拠のない噂のために受ける被害」ということですが、「動物名、人名、組織名など」を盛り込んだ病の名は皆様ご存じの通り、日本脳炎、水俣病、四日市ぜんそく、川崎病、香港風邪、ドイツ麻疹、日本住血吸虫、鳥インフルエンザ、豚コレラ、牛痘、アメーバ赤痢など沢山あります。そうそう、「香港脚」「新加坡脚」というのもありますね。これは北京語で足の水虫とのことです。

これらの言葉で、2015年のWHOの宣言以前に命名された名称は正されることなく使用されています。私は、台湾の新聞に「日本脳炎発生」の記事が出ると、一瞬いやな気分にされることがあります。ウィキペディアでは、「日本脳炎ウイルスによる流行性脳炎。アジア各地の西太平洋諸国に広く分布する。1871年(明治3年/明治4年)に、日本での臨床事例が報告されたことで、世界に認知された」と説明されています。日本で発生しなくても、日本の名前が付されるのであれば、武漢で発生しなかったとしても、武漢で発見されたのであれば、武漢肺炎でよろしいはずです。まあ、今のご時世では通用しないかもしれませんが・・・・。

放送禁止用語とか差別用語という言葉があります。これらの言葉はどうやら使用する人の「心」に基準を求めているようです。差別する意識、意図なく「日本脳炎」というのはよくて、武漢や中国に対して差別意識をもって使用するなら「武漢肺炎」はアウトで、「COVID-19」、あるいはコロナ何とかはOKという。COVID-19のCOは“China
Origin”と茶化したある方がおられましたが・・・・(笑)

6. 「武漢肺炎」は本当に武漢発か?

武漢肺炎が報道され始めた当初、発生源は武漢市内にある華南海産物市場で販売される蝙蝠だとか、近隣にある武漢国家生物安全実験室からの漏洩ではないかとか、あるいは生物化学兵器説もありました。そのうちに、昨年10月末に武漢で開催された「世界軍人オリンピック」に参加した米軍軍人がウイルスを持ち込んだとの説まで登場しました。
目に見えない敵(ウイルス)がどこで、どのようにして発生し、どのように伝播したのか、それは科学的な調査、分析を経て明らかにする必要がありますが、調査を拒み、情報統制する国がそれを阻んでいるように見受けられます。一方自由を標榜し、自分たちの主義主張を勝手に吹聴するメディアも跋扈しています。

7. おわりに

台湾の「正名運動」は中華民国という「幻の名」を「台湾」という正しい名に変えようという運動と理解していま
す。 

偽りの名、仮の名、幻の名を本来の正しい名(正名)に変えるべきことは当然です。偽りの名、仮の名、幻の名をある種の意図をもって多用することは危険です。この度のパンデミックを引き起こした感染症の正しい名称は、何でしょうか?「COVID-19」でしょうか、「新型コロナウイルス感染症」でしょうか、それとも「武漢肺炎」でしょうか。
            


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